第14話 七番目の月⑯【赤染アンリ視点】
あらかじめセリカの《以心伝心》で借り受けた二つ目の剣、《快刀乱麻》を発動する。
軌道が単調なら、当てられる。
《絶対強者》――ゼッタイキョウシャ――
両腕のみ強化能力を発動。
筋肉がメキメキなるのは美学を損ねるが、血を纏い醜い腕の筋肉の部分は隠しておく。まぁ勝つ為だ仕方ない。割り切ろう。
反射効果を持つ“銀のレイピア”を右手で振るい、黒き弾丸に当てる。
命中した黒き弾丸は止まり、向きを反対方向へ変える。
「……」
一瞬閃いた私は、血液を弾丸に付着させておく。
私の血液が付着した黒き弾丸は、今度はゼロの目掛けて突っ込んでいく。
「なんだと……っ!」
《難攻不落》――ナンコウフラク――
ゼロが展開した三角形のバリアは砕け散り、弾丸は消滅する。バリアと弾丸で相殺された形だ。
ちぇっ、不発か……。
あの血液がゼロの体内に入れば、色々できたんだけどね……。
「なんだか中二病全開バトルって感じよねぇ。私あんまりこういうの好きじゃないんだけど……。どちらかというとア●リエシリーズとか牧●物語とかテ●リアとか、スターデュー●レーとかが好きなんだけどなぁ」
「……お前、赤染アンリか?」
「あら。私のこと、覚えてるの?」
「一人、イキのいい奴がいると透から聞いた。お前のことだろ」
「お魚みたいに言ってくれちゃって……」
「お前ほどの女が、何故白どもに付く。こいつらは救済だの人殺しは良くないだの、つまらねえことしか言わねえ。お前は違うだろ。お前は躊躇が無い。俺と同じでな。外道の匂いがする」
「フッ……」
「……何がおかしい?」
「口説いてるの? 私のこと」
「は? ちげぇよ。ただこのまま殺すのは惜しいと思っただけだ」
「それは、他人に生きていて欲しいと願う心ね。あったんだ。じゃあ聞くけど、思い出せないの、あなたは? あなたが本気で生きていて欲しいと願っていた人のことを」
「…………何が言いたい」
「あなたがその調子じゃ、しょうがないわね。セリカは私が貰うわ。あなたを殺して……ね」
「ちっ……。どいつもこいつも、生前の話ばかりしやがって」
ゼロは苛立ちを隠そうともせず、右手を私へかざした。
「あまりにも大人げないんで使わんようにしていたが、この一撃はどう足掻いても死ぬ攻撃だ。お前の強さに敬意を払い、この技を使ってやるよ」
《必中魔弾》――ヒッチュウマダン――
《百鬼夜行》――ヒャッキヤコウ――
百に分裂した黒き弾丸が、あらゆる軌道を描いて私へ向かってきた。
「赤染アンリ!」
「大丈夫、下手に動かないで」
シスターちゃんの叫び声を制し、銀のレイピアを“自分の左肩”に切っ先のみを僅かに刺す。
《快刀乱麻》については、かなりの検証と時間を費やした。
《快刀乱麻》は“異能力反射とジェネシス削減”に特化した異能力。特に銀のレイピアは触れた異能力を跳ね返す効果を持つ。そして基本的に“すり抜けない”異能力。
すり抜けない刀身は私の肩を貫き、血を噴出させる。
その血を他の血液と混ぜ合わせ、形状を変化させて固める。
形状、疑似発狂密室。
私、シスターちゃん、セリカを円状に覆うバリアに血液を変化させ、《煉獄愛巣》で固めた後、《絶対強者》で強化する。
効果時間は数秒に満たない。
けれど、《快刀乱麻》の銀のレイピアに触れた血液は、異能力反射効果を持つ。
《快刀乱麻》の所有者は《以心伝心》により今は私なので、私の能力は“反射しない”。
まー結論としては、異能力を反射する血液を数秒のみ今の私は操れるということだ。
――――全ては、SSSを殺す為に。
SSではSSSを殺せない。
その根底のヒエラルキーを覆し、Fランク以外でもSSSを殺せる可能性を生み出す。
それが、私とセリカが協力して生み出したもう一つのジェネシスの”答え”だ。
「なん……だと……」
呆然とするゼロの体中を、百発の《必中魔弾》が貫いた。
「やったか!? とは言わないわよ。多分この程度じゃ死なないでしょ?」
私は冷静に距離を取りながら、ゼロを凝視し続けていた。