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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第14話 七番目の月⑮【赤染アンリ視点】

 雷の落下地点に到着すると、焼け野原で丁々発止の音が響き渡っている。私は半壊した一軒家の裏で観察を始める。

「……っ」

「ちっ、つまんねぇなおい!」

 シスターちゃんとゼロがひたすら剣を打ち合い、切り結んでいた。

 即座に助けに行くべき場面ではあるが、状況把握が先だ。

 私は行動する際、感情は優先しない。結果のみを優先する。

 最悪、カナちゃんが死んでも、セリカさえ生き残れば良いのだから。

 シスターちゃんの背後にはセリカが横たわっている。外見的損傷はないが、気絶しているようだ。最低限の治療はされているように見える。

 百鬼君……ゼロのジェネシスカラーは黒。予想していたことではあるけど、うーん、これは手こずりそうだ……。

「もうジェネシス切れか? おい。もっと本気出せよ! なぁ!」

 煽ってる煽ってる。

「…………っ!」

 ジェネシスを回復する余裕も無いのか、消耗した身体でひたすら必死に動き回り、時々乾いた唇から血を吐きながらゼロと剣で打ち合っている姿は冷えた性格の私の心にも少しだけ響くものがあった。状況把握も頃合いか。どこまでやれるかは未知数だが、そろそろ加勢しよう。


 《朱色満月》――シュイロマンゲツ――

 《煉獄愛巣》――レンゴクアイス――


「!?」

 突然の背後からの攻撃にゼロは即座に反応した。


 《紫電一閃》――シデンイッセン――


 黒い雷を全身に纏い、防御の姿勢で私の血液を蒸発させて散らす。

 気体に変わったので即座に《曼殊沙華》を発動。毒素を吸わせる。気体だと効果の発揮に時間はかかるが、一瞬でも隙を作れれば良いので問題ない。

 この一瞬の攻防でドサクサに紛れセリカのゼロの間に割って入り、カバンをセリカの方に投げる。

 それから、冷静にゼロを観察する。

 咄嗟の不意打ちでの反応は雷での防御か。不意打ちでの攻撃での近接戦はやめた方が良さそうだ。

 ゼロの動作全てのデータを頭に叩き込み、行動を予測できるよう脳内にナレッジを貯めていく。

「ごきげんよう、百鬼君改めゼロ君」

「……新手か。色は……マゼンタ? お前……なんだ?」

 ゼロが目を細め、警戒するかのように私から距離を取る。

「なんだ、とは。乙女に向かって相変わらず失礼な物言いねぇ」

「乙女……? “お前”がか?」

「……どういう意味かしら?」

「色は黒ですらねえのに、なんでこんな纏ってる気配が不気味なんだ……? ……お前、同類の匂いがするぞ。雰囲気だけだが……。少なくとも、透が飼ってるどのSSよりも面白そうだ」

「女の子に向かって匂いとか言わない方がいいわよ」

「フッ、お前ら三人が透の敵って訳か?」

「さぁ、他にもいるかもね。多分いろんな人に恨まれてると思うし。さ、シスターちゃん、私が時間を稼ぐからセリカを何とかして。その辺に置いてるカバンの中身はプレゼントだから、すぐに着てね」

「あ、もう治療してます。セリカ、なかなか起きません。でも致命傷は塞がってるので、安心してください」

「アルファちゃん、了解」

「仲間と会話とはナメられたもんだなァ!」


 《処刑斬首》――ショケイザンシュ――


 形態。赤い靴。第一形態、地。

 イメージで速攻で血液を足に収斂させ靴の形に変形。そのままローラースケートのように地面を滑りながら回避に集中し、ゼロから距離を取る。

 私が先ほどまで経っていた場所に剣が空振りする。

「…………」

 ゼロから余裕の笑みが消える。

「やる気満々ねぇ。嫌んなっちゃう」

 この前、少年漫画のテンションで修行していたら、次から次へといろんなアイデアが湧いてきたので、その全てを試し、実戦に取り入れられないかテストした結果、赤い靴が合格した。この赤い靴は回避に優れている。無論、それ以外にも“使える”けどね……。


 《即死愛撫》――ソクシアイブ――


 加速能力かぁ。

 メンドイなと思いつつ、赤い靴で対応する。

 加速能力発動中は絶対に攻めに行かない。回避に専念する。

 ゼロは敢えて《処刑斬首》を解除し、通常の剣で挑んできた。大振りの剣よりは小型の方が立ち回りは速い。

 全ての攻撃を紙一重で回避し、ゼロの《即死愛撫》の効果が切れる。

「……すげぇ。黒じゃねえのに強いな、お前」

「お褒めにお預かり光栄ね。ただ私、あまり戦うのは好きじゃないし、女の子には強さよりも料理の腕を褒めるとかにした方がいいと思うけどね」

「お前は“女の子”って器じゃねえだろ」

「ひど」

「大して能力を使ってねえのにここまで立ち回れるお前の底力。見せてもらうぞ!」


 《必中魔弾》――ヒッチュウマダン――


 これは見たことがない。しかも速い! 目視で追い切れない!

(追尾してくるタイプの弾丸の能力です。回避は無理です)

 アルファちゃんが助言してくれる。

「――――っ!」

 仕方ない、最悪、あれをやるしかない……!


 赤い靴。第二形態、空。

 どこぞの魔法少女みたいなので心理的に抵抗感があるけど、これも立派な技の一つだ。

 赤い靴から翼を生やし、空を飛ぶ。

 背中の翼と合わせ、二倍速くなる。

 下方から私目掛けて、弾道が軌道を単調にして私を追ってくる。

 そして、イメージのみで前方に血のバリアを張る。形状は敢えて液体のまま。弾丸の速度を落とす為だ。無論、このまま固められれば理想ではある。

 けど、SSSのジェネシスは恐らく突破してくる可能性が高い。ので、更なる対応も想定しておく。

 案の定、血のバリアに入った弾丸を凝固させ一瞬だけ止めるも、螺旋にうねりバリアを突破してくる。これは、避けられない……!

 できれば奥の手だから発動したくなかったけど、回避が封じられた以上、SSではSSSの攻撃を防ぐことはほぼ不可能。なら、Fランクから“借りる”しかない。


 《快刀乱麻》――カイトウランマ――


 セリカの二つ目の剣。金と銀のレイピア。


 ――――《快刀乱麻》を、私は発動した。



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