第14話 七番目の月⑬【ゼロ視点】
「意外と、あっけない幕引きだったね。だが急所は外したか。空中での操作は意外と難しいね」
透は軽やかにそう呟き、落下していく白雪セリカを見下ろしている。
背後の銃声地点には、拳銃が宙を浮いていた。
透は、念力のような異能力を得意としていることは明白。能力を使い拳銃を空中操作し、背後から白雪セリカを撃ったようだ。
「セリカ!」
おまけのもう一人が、慌ててセリカを受け止めに飛んでいく。
「さて、とどめを刺しに――――」
透といばら姫が動こうとするその瞬間。俺は能力を発動した。
《処刑斬首》――ショケイザンシュ――
いばら姫の首筋に、俺の剣が添えられる。
ピタリと肌一枚すれすれの場所に刃は鎮座させ、1ミリの予備動作すら許さない。精密に刃を絶妙な位置で止める。
こいつは瞬間移動の能力を使うようだからな……。牽制が必要だ。
「は!? アンタ、何? どういうつもり!? ふざけてるの?」
「うるせえな女の声は耳に響く。耳元でキィキィ騒ぐな」
「……どういうつもりか、聞いてもいいかな? 君とは友達になれたと思っていたんだが。僕の片思いかな? さっきフラれたばかりだというのに、即座に裏切られるのも悲しいものだね」
「あれは俺の“獲物”だ。横取りするな」
「なんだ、惚れたのかい? なら君の《監禁傀儡》で性玩具にでもなんでもすればいい。生け捕りにしてあげるよ。もし妊娠したら子供はぜひ、僕に譲ってほしい。生前の君もあの子を――――」
「生前の話はするな」
「……」
「なぁ、透。お前のその、ホモくせえところ以外は気に入ってる。頭はマジでイカレてるが、そこもまぁ個性だ。許せる。だが……お前には俺の話をした筈だ。生前の俺と戦い、引き分けた話をな。あの決着はつかず、結局は勝ち逃げされたみてえなもんだ。あのリベンジはもう一生、二度とできねえんだ。分かるか? この歯がゆさが……。一生治らねえ口内炎みてえなもんだ。ウザくて仕方ねえ」
「同情するよ」
「簡単に言うな。薄っぺらい同調なんぞ虫唾が走る。俺を相手にくだらねえ心理誘導はするな。俺と“良いお友達”でい続けたいのならな?」
「気を付けよう」
「あんなつまらねえ殺し方で……終わらせるつもりかよ……。てめえは、それでも男かよ」
「お、男……。なるほど……ふむ、そういう価値観か」
「何納得してんのよ透!」
「透、お前はヌルい。SSの子分どもを大事にし過ぎている。こうなった時点でいばら姫を切り捨てるぐらいの冷徹さを黒なら見せて欲しかったが、そこがお前の弱さなんだろう。人間のペットを可愛がり過ぎるのはお前の短所だ。そして殺し合いに対する姿勢もなってない。不意打ちで背中からなんぞ、面白くもなんともねえじゃねえかよ! お前はそんなに強い力を持ってるのに、力に対するこだわりが雑過ぎる。美学がねえ」
「…………君は、変なこだわりがあるんだね」
「RPGのボス戦がクリティカル攻撃一撃で倒せちまったら面白くねえだろ? それと同じだ。ボスには全攻撃パターンを吐き出させて、その上で完封して倒すのが最高に気持ちいいんじゃねえかよ」
「なるほど、その例えは分かりやすいな」
「何幼稚な会話してんの! ちっ、ガキ! これで私を出し抜いたつもり? 私一人で片付けてくるわよ、あの二人は私が殺してやる。ホ●野郎どもが使えないからね!」
いばら姫がまた騒いでいる。うるせえな、殺すか。
「やめろ、いばら姫」
珍しく、透が強い口調で命令する。
「君では負ける。《全理演算》で計算してみろ」
「…………な、んで」
計算し答えが分かったのか、いばら姫は悔しそうに唇を噛んでいる。
「白雪セリカは、リリーを殺したと言ったんだ。この意味を理解できない君では無い筈だ。“もう一人の白”も未知数。僕が能力を与えた記憶が君たちの中にすら無い。白であれば相当なインパクトがある筈だ。ということは、通常の人間ではないということになる。君だと、単騎で突っ込んでも死ぬだけだよ。ゼロですら危なかったんだ」
「……っ」
「別に危なくねえよ」
「はぁ……。こんなやり取りをしている間に、もう彼女たちは見えなくなってしまったね。追いかけるかい? 今度は邪魔しないでほしいが」
と、少し疲れたように透は言う。
「俺が行く。今度こそ狩ってやるよ。ま、お前らは帰ってユーチューブでも見てろ」
「そうはいかないよ。彼女たちの死は確実に見届ける必要がある」
「助けられた分際でこのガキは……」
「ハッ、どうとでも言え。次はもう手は出すなよ? いいな?」
そう俺は二人に言葉を吐き捨て、再び白二人の元へ飛び立った。
こいつらも追いかけてきそうだが、まぁ二分以内に片付ければ問題ないだろう。
あんなつまらねえ死に方は俺が許さねえ。
今度こそ”ちゃんと”殺してやるよ、白ども。
直接、この俺の手でな…………。