第14話 七番目の月⑫【白雪セリカ視点】
「……どうやら、フラれてしまったようだね。残念だよ。だが……。本当にそれでいいのかい? 僕たちと敵対するということは、ゼロと決別するということでもある」
「…………」
アルファとシスターに何度も警告され、私も自分なりに答えを見出そうとしていた。ゼロとなった先輩と、私はどう……向き合ったらよいのか。
何度も。
何度も何度も何度も何度も。
私は多分、説得しようとしたんだと思う。
助けようとしたことも、自分の命を投げ出したことも、救いようがない程のそれを続け、やがて諦めた。三周目のあの言葉で、それを私は悟っていた。
ゼロを肯定したら、その時私は終わる。
心が引き裂かれて、私は私ではなくなってしまう。
「正義と愛は絶対に両立できない。どんな人間も、この二つの選択肢の前では木偶人形と化す。これは人間を狂わせる究極と言ってもいいダブルバインドだ。“正しい”と“好き”は違う。だが人間は“好き”なことを“正しい”と思いたがる生き物。だから人間は“正しくないこと”を“好き”になると、狂うようにできている。だが君はそうではない、というのかい?」
透は、自分のマインドコントロールが不発に終わったことが悔しいのか嬉しいのか、どこか好敵手に向ける眼差しで、不敵に目を細め私へと問う。
「君は……ゼロを本当に殺せるのかい?」
「…………そうか、Gランクは」
一瞬だけ、見えた。
透の言葉は、右から左へ流れていく。
先輩の“青い鎖”が具現化したことと、先輩の言葉を思い出す。
先輩はゼロになった自分を殺してほしいと言っていた。
そして、Gランクを目指せとも。
つまり、ゼロを殺すことと、Gランクは両立できるということ……。
どうして、こんな簡単なこと、今まで気づかなかったんだろう。
――――ゼロを、救おうとしてはならない。
これは、絶対だ。
侵してはならない最終防衛ライン。
自我を守るための境界線。
「私は、Gランクを目指す。ゼロを殺したとしても、最後は全て救ってみせる。でもゼロを殺して、その先に救いもGランクもなければ、その時は自分で命を絶つよ。でも、必ず見つけみせる。私は、その為に生まれてきたんだと思う」
「……それが、君の答えか」
「ジェネシスは人殺しの為の力なんかじゃない。私はジェネシスを救済の力に……変えてみせる」
「救済……か」
透は何とも言えない自虐的な笑みを浮かべ、呟くように言った。
救済、と言う言葉に何か思うところでもあったのかもしれない。
「分かった。どうしても君の意志は固いようだね。なら、君の意志を尊重しよう」
透は残念そうに、けれど吹っ切れたように、次の言葉を口にした。
「君を敵と認めよう。そして今度こそ決着を付けよう。君の白と、僕の黒。どちらの方がジェネシスとして正しいのか。なんちゃってね」
パァン、と銃声が鳴り響いた。
背後からの突然の銃声に驚き目を見開くも、
―――――胸から血が噴き出す。
撃たれた?
誰に? どこから?
頭が状況を理解するよりも先に、私の翼が消滅して激痛が走った。