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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第14話 七番目の月⑩【白雪セリカ視点】

「……殺るの?」

 迸る緊張感とは裏腹に、いばら姫が透に緊張感の欠片も無い声で尋ねている。殺人が日常となった人間特有の緊張感の無さだった。

「いや、まずは対話だろう。僕は争いごとはあまり好きじゃないんだ」

「……ツッコミを入れて欲しいの?」

 真顔で返す透に、いばら姫は困惑している。

「正直、ゼロは強い。彼が本気で戦ってまさか生き残れるとは思――――」

「“本気”じゃねえよ、勝手に決めつけんな」

「黙りなさい、負け犬。私たちが来なければお前は死んでいたのよ? 世の中は結果が全て。過程を評価して欲しいなんて駄々を捏ねるのはガキのすることよ」

「……死にてえようだな」

「いばら姫も煽らない。ゼロも血の気が多すぎるよ。少し落ち着こうか」

 な、何故だろう。

 透が常識人に見える。私の目がおかしくなったのかな……。

「そういえば、ヒキガエルがいないようだが……。まさか、殺してないよね?」

 透がゾッとするような目でゼロを見据え、尋ねる。

「……さぁな」


 《全理演算》――ゼンリエンザン――


「ヒキガエルの死亡確率、0パーセント。まぁアイツは臆病者だから、どこかで生き残ってるんでしょう。何があったのかは知らないけど」

「ほぉ、アレで死なないのか。思ったよりもやるな、アイツ」

「予備の肉は地下室の冷蔵庫に保管してあるからね、最悪どんな困難があろうとも《魂魄転移》で逃げられるだろう。即死や、スペア切れのリスクさえ凌げればね。……ヒキガエルに何をしたのかは追々聞くとして、だ。今は白雪セリカと少し話したい」

 そう言って透は私へ視線を配る。

「君が、僕を殺し得るFランクか。どうだろう、少しお喋りをしないか?」

「セリカ、対話なんてする必要ない」

 シスターが割って入ってくるけれども、私には迷いがあった。

 確かにこいつらは外道だ。先輩も……ゼロになってからはもはや別人。

 ……でも。


 《赤い羊》とお話すれば、もしかしたらもっと別次元の視点が手に入るかもしれません。彼らの考え方も非常にユニークですから。純粋なあなただからこそ、Gランクを創造できる可能性はゼロではありません。無論、黒へと至るリスクも同様に発生しますが。

 アルファの提言を思い出す。

 Gランク到達する為の糸口、それがまだ無い。

 呑まれさえしなければ、透と対話して糸口を探れる可能性は僅かにある。

「……何を、話すの?」

「セリカ」

 シスターが咎めるように私を睨むが、私の意志が固いのを知ると、やがて諦めた。

「君が目指しているGランクに、僕も興味があってね」

「――――ッ!?」

 言葉を失う。こいつ、何故……それを――――

「まぁそう動揺しないでくれ。今まで僕はそんなものは存在しないと認識していたが、いばら姫の《全理演算》により、1パーセントほど存在可能性があることが分かった」

「…………」


「――――来ないか、共に」


 透は、私に手を差し伸べる。

「!?」

「僕は悪を愛している。もしかしたら、君とは価値観が合わないかもしれない。だが、僕は君に興味がある。できれば、殺したくないと思うし、君に僕を理解してほしいとすら思う」

「は? 何無茶苦茶言ってんだお前」

「ゼロ。サイコパスは常に強い者、優れた者が特権階級であり、弱者から搾取し、虐げる権利があるという“優勝劣敗”の思想を持つ。ホストが自己肯定感の低い女性に身体を売らせ金品を巻き上げたり、腐敗した政治家や官僚が国民の血税で女性を侍らせ高級な旅館で豪遊したり、カルト宗教の教祖が信者から金銭を巻き上げるように、高年収の者が自分たちの税金で障碍者を生かしてやっている、こいつらに生きている価値なんて無いと公然と断言したり、彼らサイコパスの価値観は常に“力”無しでは語ることはできないだろう。サイコパスとそうでない者を見極める最も効率の良い判断基準は、弱者から搾取する強者であるか否か、ではないかと僕は思っている。おっと、話が逸れたね。戻そう。ゼロ、君は、ジェネシスの優劣で人間の価値を決め始めているんじゃないかな?」

「…………かもな」

「だがFランクはどうだろう。僕らを殺し得る可能性を持つ彼らは弱者だろうか?」

「…………」

「僕は“価値がある”と思う」

「おいおい、勘弁してくれよ。お前が俺をけしかけてこいつらを殺させようとしたんだろうが。何言ってんだ?」

「いや、あの時は君が瞬殺してくれると思っていたんだよ。君が殺せないとは思っていなくてね」

「だから、本気じゃねえって言ってんだろ」

「本気じゃない君でもFランクを数分で殺せると思っていた。事実、生き残っている。君としても、僕といばら姫が加勢して生き残り、三人で二人を狩るという構図は後味が悪いんじゃないかな? まるで君が弱者のような立ち回りだ」

「……」

 相変わらず、よく回る舌だ。こいつ、どういうつもりなんだろう……。

 何を考えているのか……全く分からない……。


「――――白雪セリカ。これだけは伝えておく。君には、ゼロを殺さない道もある」


「殺……さない?」

「Gランクは、僕らと手を組んだ後、ゆっくり目指せばいいじゃないか。少なくとも、身の安全は保障しよう。君のことは殺さないし、君にも僕らの命を狙わないでいて欲しい。何も数日、数年で目指す必要なんてない。生きている限りチャンスはある。君には、僕と手を取り合い、平和的に人生の長い永い全ての時間を賭けて、Gランクを長期的に目指すという選択肢もあるんだよ。誰も死なない、最も平和な道だ。君はゼロを殺したくない筈だ」

「……私に、《赤い羊》に入れってこと?」


「――――《雪の女王》。君の新しい名前は既に考えてある。君に最も相応しい名前。見た瞬間にこれしかないと思った」


 僕は、


 君を、


 ――――歓迎しよう。


 透はそう言って、優しく微笑んだ。


裏設定。雪の女王エンドも、ありました。

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