第1話 殺人カリキュラム㉒
「せ、先輩……大丈夫でしたか」
セリカが心配そうな顔で駆け寄ってくる。俺はセリカを安心させてやるため、微笑む。
「何の問題も無いさ。必ず生きて帰るぞ、セリカ」
「…………」
セリカは何かを言おう唇を開くが、結局押し黙ってしまう。
そう、“生きて帰る”ということは、アイツらが提示した条件、“四人以上の人間を殺すこと”を達成しなければならない。
セリカを生かす為には、セリカを殺人者にしなければならない。
絶望的な勝利条件に、思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。
なんとかしなければならない。
だが、どうすればいい? 本当にそれしか選択肢は無いのか?
「…………」
俺が密かに葛藤していると、結が声をかけてくる。
「何を考えているの、兄さん」
「ん、何がだ?」
「あんな啖呵切って、アイツらに目を付けられた。目立った行動はすべきじゃない。どんな環境だって、生き残る生物は強者じゃなくて、適応できる存在だけ。そんなこと、兄さんなら分かってる筈なのに。目立ったせいで、他の生徒達からも標的にされる確率も上がった」
「…………」
確かに、その通りだ。反論の余地は無い。
だが、許せないと思った。
こいつは、透だけは絶対に許せない。
俺らしくもなく、感情制御ができなかった? いや、違うな。
そうだ、後悔は無い。あの時、あの瞬間、俺はああしなければならなかった。
何のために?
そんなの、決まってる。
「結。生き残ることも重要だが、それ以上に大事なことがあると俺は思っている」
「?」
「アイツらが提示した選択肢に囚われているぞ、お前」
「……っ!?」
俺が指摘すると、結は息を呑んだ。
「選択肢に飲み込まれるな。いつだって、俺たちの可能性は無限だ。それを、忘れるな。透の発言には不思議な魔力がある。それを俺は、少しでも中和したかった。あまり上手くはできなかったが、それなりの手応えはあったと信じている」
「……そう、ね。でも、ジェネシスというこんな不可解なモノを目の当たりにして、それでも兄さんにはアイツらが提示した選択肢以外の道が見えてるっていうの?」
「お前が言ったんだろ。いつだって生き残るのは、強者ではなく、適応者だって。透を打ち負かす為には、アイツを超える必要がある。その道を捨てさえしなければ、必ず活路はある。信じろ、自分の可能性を。選択肢に囚われてはならない。その時点で、既にやつの術中だ」
「…………」
結なりに思うことがあったのか、俺の言葉を受け黙考している。
俺は結から目を逸らし、壇上を見上げる。
そこに立つ七人の悪魔を。
殺せるだろうか? 俺はあいつらを。
その疑問が出た瞬間、自嘲する。
守れるだろうか? ではなく、殺せるだろうか? という疑問が先に出たことに。
やはり俺は、セリカに相応しくないのだろう。
だが、だからこそ、俺にしか出来ないこともある。
俺は密かに決意を新たにすると、もう一度七人の悪魔を真っ直ぐに見据えた。
――――必ず、殺してやる。
――――どんな手段を使っても。




