第14話 七番目の月⑤【シスター視点】※途中まで
《必中魔弾》――ヒッチュウマダン――
ゼロは右手の剣を巨大化させて私の視線を右に誘導し、予備動作無く左手で《必中魔弾》を発動。
凶悪な異能力である《処刑斬首》すら囮に使ってくるとは、本当に油断できない。
《無常迅速》――ムジョウジンソク――
《正射必中》――セイシャヒッチュウ――
《疾風迅雷》――シップウジンライ――
高速移動能力を発動、左足を上げ鎌鼬を出し、必中能力をも発動してゼロの弾丸にぶつけて相殺する。
高速移動の《即死愛撫》の持続効果は長い。私もジェネシスを節制しつつ、《無常迅速》は切れたら即発動し、常時展開していく。下手にジェネシスを出し惜しめばその瞬間即死するのは自明だった。
《監禁傀儡》――カンキンカイライ――
「――――!?」
背後に殺気。
(いえ、前後同時攻撃です)
アルファの冷静な声で我に返る。
「く……っ!」
背後にはゼロ。前方には黒き剣。
ゼロは鎖を使い、剣の柄を鎖で握り操作しつつ、私の前方位置に剣を設置し、直進させていた。と同時に背後から殺気を全開にして私に近づくことで、自分に注意を引き付けてきたのだ。剣を囮にした後、剣を本命に今度は自分を囮にしてきた。そして能力を発動するタイミングも絶妙で、的確に心理誘導してくるし、仕掛けてくる判断が異常に早い。
こいつ、戦闘センスがずば抜けている……。
《監禁傀儡》――カンキンカイライ――
突如、首に違和感。
鎖に首をへし折られそうになるが、吹雪にジェネシスを混ぜ首に収斂させ、鎖と首の間に挟み防御する。
《武御雷神》――タケミカヅチ――
戦闘のスピード感に感覚が追い付かない!
なら、一度リセットするしかない。
自分自身に雷を落とす。
ジェネシスと白雷は調和し、黒き鎖と剣を焼き尽くす。
《難攻不落》――ナンコウフラク――
ゼロはひし形の要塞で雷を防ぎ、ひし形は砕け散る。
私は左手をゼロへかざし、能力を発動する。
《守護聖女》――シュゴセイジョ――
《監禁傀儡》――カンキンカイライ――
突如、ガクンと左腕が下方修正され、《守護聖女》は明後日の方向へ飛んで行ってしまう。反射的に白雷ジェネシスを左腕に収斂させる。
私の左腕に巻き付いていた黒き鎖は、嘲笑うかのように一瞬だけ私の腕を圧迫すると白雷に焼かれ消滅した。
「……っ」
……これも防御していなければ、腕の骨を折られていた。腕は鎖の感覚が残っておりジンジンと骨が軋むように痛みが余韻として残っている。
「《守護聖女》については透から聞いている。SSSにとって最も警戒すべき能力だってな。残念だったな」
ゼロは何が面白いのかケラケラと笑っている。
「…………」
「……それにしても、今のでも駄目か。ずっと楽しんでいたいが、あんまモタついてっとヒキガエルが原爆を落としちまう。《殺戮兵器》はヒキガエルが発動するが、ジェネシスは“俺の”を使うんでな、俺にも少し準備の時間がいる。原爆を落とすほどの思春期の触法少年の悩みってのは、よく分からねえもんだな? まぁ責任能力の無いガキのやることだ。あんま気に留めないでくれよ。お前ら人間ってのは、ガキのやることなら何でも許すんだよな? 殺人、強姦、放火、窃盗。なら二十万人ぐらい殺してもべつに許してくれるよな? 人数の問題じゃないだろ、命は尊いものだってんならな。一人や二人殺しても触法少年は死刑にならない。なら、十万人でも二十万人でも死刑にならない筈だ。人権を語るのであれば、命に優劣をつけるのはおかしいからな? だから多めに見て許してくれよ。若いころのヤンチャってことでな? ククク……」
「ヒキガエル……が?」
それは予知に無い。
いや、変わったのか。
……何故?
原爆を落とすのはゼロの筈だ。
運命が……書き換わっている。
――――私の影響――――か?
ゼロは本来、あのままヒキガエルと共に行動し、自分で《殺戮兵器》を発動していた。だが私が動いたことで、歯車が僅かに狂い、ヒキガエルが落とすことになったのか。
だが……分からない。予知で死亡フラグは把握している。でも、これだけは言葉で確かめておきたかった。セリカとも関係なく、私の意志で。
「……ゼロ。あなたは何故、人を殺すの?」
「ハッ、べつに答えてやる義理は無いが、まぁここまで善戦した褒美だ。気分も良い。お喋りに少しだけ付き合ってやるよ」
ゼロは不敵に微笑い、唇を開く。
「相変わらずエピソード記憶は殆ど蘇らないが、この殺し合いで少しだけ思い出したことがある。人間社会の知識、モラル、常識、道徳、そういう見えない縛りの記憶だな。生前の俺もうっすらと同じようなことを考えていたのかもしれんな。理性で抑えつけ、深層に消え失せた思想。俺はそれを思い出したんだよ。それは……人間の定義する“力の定義”が曖昧だということだ。それをハッキリさせておきたいと思ってな」
「力の……定義?」
「金持ちの財力、国家や企業の重鎮の権力、格闘家の暴力、軍人の軍事力、インフルエンサーの影響力、学者や研究者の知力、まぁ力ってのはどれが一番強いのか一くくりにできねえもんだし、バランスとカオスが融合していてよく分からねえもんだ。だが一つだけハッキリしたことがある」
「……?」
「ジェネシスだ。この力は人間を新しいステージに連れて行ってくれるだろう。人間には力を以て人間を淘汰する習性がある。それがこの社会、世界の縮図だ。だから俺は、SSS以外の人間を完全淘汰し、SSSしか存在しない世界を作ろうと思う。無能力者と、F~SSまでのジェノサイダーを完全淘汰してな。まぁSSだけは生かしといてやってもいい。奴隷としてな」
「……ジェノサイダーだけの……それもSSSだけの世界を……作る?」
「どこの老害かもよう分からん既に死んでるゴミが作った、外国からコピペしてきた法律とかいうルールに律儀に従う時代は終わりを迎えるってことだな。これからはジェネシスの時代が来る。というか、俺が導いてやるよ。人間どもをな」
「……無能力者にはSSSになる素質がある者もいる筈。彼らも殺すとあなたの思想には矛盾が出る」
「誤解すんな。《殺戮兵器》はただ兵器を具現化するだけのツマンネエ能力じゃねえ。飽くまでも人間と雑魚どもを殺戮する効果しか無い。無能力者とF~SSまではダメージを食らうが、SSSには何の効力も無いし、浴びて生き残った素質があるヤツは強制的にSSSに覚醒する。手っ取り早く無能力者をSSSに覚醒させて選別する能力でもある訳だ。それ以外はほぼ確実に死ぬことになる訳だが、まぁ“運”が良ければ生き残れるかもな?」
「SSSだけを……SSSだけの世界を作って、どうするつもり?」
「質問に質問で返すのは本位じゃないが、人間は何故ゴキブリを殺すんだ?」
「……」
「虫は殺してもいいのに、人間は殺してはいけないと人間は言う。それは何故だろうな?」
「……」
「答えは一つだ。自分とは違う生物だから。そして俺はSSSだ。だから自分と同じSSS以外を殺す。殺す理由、敢えて言うなら人間がゴキブリを殺すのと同じ理由ってことだな」
「な、なら……私は、“私達”はあなたともう少し話したい」
「はぁ? もう話は終わりだ。あと二分でお前を始末して、俺はヒキガエルのヤンチャパーティの準備をする予定だからな」
「――――SSSを超える存在に出会ったら、君はどうする?」
“私”は抑えきれないまま、表に出た。
「……お前、“誰”だ」
ゼロは困惑したように私を見据える。
「私は、私だよ……」
漆黒のジェネシスを放出しながら、“私”はゼロと向かい合った。
ゼロが無茶苦茶言ってますが作者とは一切関係の無い思想なので、フィクションと現実を混同するのは絶対にお控えください。(※ゼロ以外もですが)
宜しくお願い致します。