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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第14話 七番目の月④【シスター視点】

 

 《紫電一閃》――シデンイッセン――


 《紫電一閃》の黒と《武御雷神》の白が混じり合い、轟音と閃光を放つ。

 私に滞留していた《武御雷神》は霧散してしまう。こいつの《紫電一閃》二発分が私の《武御雷神》一回分というところか。でも節制訓練をしたおかげで、全力でジェネシスを消耗することは無意識に避けられている。まだアルファもいるし、まだまだやれる!

 光を目くらましに、ゼロの気配が正面から消える。これは背後……か?

 気配の動きを直感のみで感じ取る。……ゼロは接近戦をしかけてきている。

 背後から近づくゼロの殺気に向けて、慎重にタイミングを見定めて能力を発動する。


 《無常迅速》――ムジョウジンソク――


 腕を高速移動させ、《吹雪之剣》を気配に叩きつける!


「……!」


 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――


 私の攻撃は黒き鎖で止められる。

「……思ったよりもやるな。今ので殺れないとはな! 少し認識を改めるぞ」

 ゼロは不敵に笑いながら、すぐ目の前にいた。少しゾッとする。今のを見切れていなければ確実にやられていた。けどこれは好機でもある!

「逃がさない」


 《疾風迅雷》――シップウジンライ――


 右足を蹴り上げ、ジェネシスを圧縮した鎌鼬を放つ。

「ちっ」


 《難攻不落》――ナンコウフラク――


 黒いジェネシスの立方体が具現化し、ゼロを囲む。

 立方体は私の鎌鼬に触れると、ゼロの身代わりになり粉々に砕け散る。

「すげぇ。《難攻不落》をぶち壊す程の威力か。面白れぇ」

 ……こいつ、防御の能力も持っているのか。

「さっきからそっちばっかりだな。俺にも少しは攻めさせろよ。キルキルキルル」


 《即死愛撫》――ソクシアイブ――


 ゼロの動きが見えなくなる。まずい!


 《一片氷心》――イッペンノヒョウシン――


 コンマ1秒遅れた!

 ゼロの動きをスローモーションで捉えるも、ゼロは既に私の首に手を伸ばしていた。


 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――


「お前と同じFランクの居場所に俺を案内し、そいつをお前自身の手で殺してみせろ」


 《永久凍土》――エイキュウトウド――


 咄嗟だった。

 考える暇もなく、反射的に能力を発動。

 《吹雪之剣》の刃先から溢れる吹雪のジェネシスに、“無効化の特性”を持つ《永久凍土》を付与する。

 《永久凍土》。

 これは《吹雪之剣》から発せられる吹雪に、ジェネシス無効化の効果を付随させることができる。とはいっても全てのジェネシスを無効化することはできず、相手の能力をランダムで限定的に無効化するというだけのものだ。

 相手が複数の能力、複数の効果を併せ持つ単一の能力を発動している時は、自分でどれを無効化するか指定できないし、どうしても“運”が絡んでしまう。


「何……?」


 ゼロが驚愕に目を見開く。

 ゼロが今発動しているのは、《即死愛撫》、《監禁傀儡》。

 この二つの効力はセリカから聞いている。

 私の“運”はこいつの《運命之環》の影響で確実に悪いだろう。

 もし《即死愛撫》を無効化したとしてもこの距離ではもう回避できないので意味が無い。

 《監禁傀儡》を無効化しなければ、私はもう……終わりだ。私は半ば絶望的な気持ちで吹雪を浴びるゼロを呆然と眺めていることしかできなかった。


 ――――だが。


 私は、いや、私たちは“誤解”していた。


 ゼロの手に巻き付いた“鎖が”霧散する。同時に訪れるのは時が止まったかのような一瞬の静寂。


 ――――瞬き一回にも満たない、紙一重の刹那の好機。


 ゼロは無防備だった。高速で動いているのだろうが、《一片氷心》を発動している私の目では通常の動作にしか見えない。


 《無常迅速》――ムジョウジンソク――


 狙うのは頸動脈! 確実に首をここで落としてやる!


 我に返るように私は攻撃を不発で終わらせたゼロの背後へ高速移動で回り、氷の剣をゼロの首筋へ叩きつけた!


 《百鬼夜行》――ヒャッキヤコウ――


 ゼロの身体が黒く燃え、小さく人魂の形となり、百に分裂。分裂した人魂の炎は私から即座に距離を取ると一つに収斂し、再びゼロの形に戻っていく。

 ……っ、仕損じた。今の好機を逃したのは死ぬほど痛い。

 ……この男、ここまで好戦的な性格にも関わらず、きちんと回避の能力も持っていたのか。


「正直、今のはヒヤッとした。ククク……ハハハハ」


 ゼロは笑っていた。心の底から戦いを楽しんでいるような無邪気な笑い声だった。


「――――プラス2」


 唐突なゼロの呟きに困惑するが、ゼロは言葉を続ける。

「もっと早く気付くべきだった。俺がマイナス10で、お前がマイナス8なら、結局は俺よりもプラス2、ズレている。これは本当に微細なズレではあるが、最終的にはお前に運があることになる。今の俺では、お前を殺そうとしてもプラス2のズレに阻まれるのか……。思い通りにならねえもんだな、フッ」

「…………」

 プラス2の……ズレ?

 運……?

 ゼロの言っていることを理解し、少しずつ見えてくるものがある。

 私の《未来予知》は自分の思い通りに未来を操作する効力はない。ただ相手の死を映すだけの効果しかないからだ。

 そこに選択の余地は無く、未来を受け入れるか、拒むかで、私は突き進むことしかできない。

 ゼロの死は私の望むところだ。でも、ゼロの死によってセリカが黒へと至ることは避けなければならない。そこに選択の余地は無く、私はゼロとの戦闘という選択肢を選ばざるを得ない。

 私はゼロの死を望んでいるにも関わらず、セリカに殺される未来を妨害していることにもなるからだ。

 結局、運命に干渉できたとしても自分の思い通りに運命を操作することはできない。

 だが、それは“相手も同じ”だった。

 “運”を操る《運命之環》でゼロは私の運を操作したが、私の運があいつを僅かに上回ったことで、今の破滅を逃れることができた。

 自分の能力で自分の首を絞める。私達はお互いに自殺行為をしていたということになる。

「…………」

 考えろ。

 これは物凄い“気付き”だ。

 自分で積極的に運命に干渉するのではなく、運命を“相手に変えて”もらう。そういう展開もあり得るということ。

 いかに自分を追い詰めずに運命干渉の能力を使い、相手に相手を追い詰めるような運命干渉の能力を使わせるか。

「………っ」

 だが、駄目だ。この思考は相手の運命干渉の能力の詳細を熟知していなければすぐに打ち止めになる。

 結局は情報戦……になるのか。

 運命を予測、回避しつつ、相手の運命干渉の能力の情報を引きずり出す。

 そしてお互いに利用し合い、最終的に全ての情報を掌握し運命を見切った者が勝つ。

 この戦い……思ったよりも遥かに熾烈になりそうだ。

 メンタルの強さや殺人鬼としての実力、ジェネシスの力だけに注力して戦えば確実に負ける。

 頭脳戦とも心理戦とも戦闘とも違い、なんて意味の分からない戦い。

 このカオス……百鬼結はどこまで計算している?


「まあいい。運が下回った状態でもお前を殺せるのかどうか。今度は全力を出して試してやるよ」


 ゼロの力もまだ未知数。ただ、自分の《運命之環》を扱い切れていないことは確かだ。

 ……これは、チャンスだ。

 ゼロが自分の力を試せば試すほど、私はその情報を持ち帰ることができるのだから。


「――――お前も本気で来いよ。もう手加減はやめだ。滅茶苦茶に殺してやる」


 ゼロは笑いながら翼をはためかせ、ジェットブラックジェネシスを溢れさせる。

 私はごくりと喉を鳴らし、《吹雪之剣》を構える。


 《処刑斬首》――ショケイザンシュ――


 ゼロは右手に握る剣を巨大化させる。

 さっきの比にならない程の殺意とジェネシスを身に纏い、ゼロは再び微笑んだ。


 そう、確かにこれはチャンス。

 でもそれは――――


 ――――生きて帰れればの話だ。


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