第14話 七番目の月③【シスター視点】
絶叫するセリカ。腹部には剣が刺さっており、血が噴き出している。
空には天使の輪を持ち、黒き翼を広げたゼロ。傲慢にセリカを見下している。
セリカから溢れるのは、漆黒と純白のジェネシス。
右翼は白、左翼は黒のジェネシス。
黒と白は混じり合い、新たな闇へと変わる。
ジェットブラックを上回る漆黒。
新たなる黒きジェネシスは円状に地面に広がっていき、触れたものを黒く染めていく。
全ての色を飲み込む黒。セリカも原型を留めておらず、かろうじて人の形をしているが黒すぎてもはや何者なのかも分からない。
この色は……何?
そうだ、この色は……知識としてだけは聞いたことがある。ベンタブラックという、あらゆる光と色を吸収する黒に付けられた名前。
ゼロが雷を飛ばすが、ベンタブラックジェネシスに触れると吸収されてしまう。
「お前は……“何”だ。人間じゃないな。お前は……」
初めてゼロは恐れのような感情とともにセリカを見据える。
《阿鼻叫喚》――アビキョウカン――
焼け焦げた巨大な赤ん坊が黒い地面から這い出て、絶叫する。
この世のものとは思えない叫び声が鼓膜をつんざく勢いで鳴り響き、それを聞いたゼロから翼と天使の輪が消える。
「ジェネシスが、使えねえ!」
ゼロは抵抗もできず地面へ落ちていく。
《魑魅魍魎》――チミモウリョウ――
黒い地面から人型の何かが複数現れる。
リリー、ヒコ助を先頭に、学校で死んだ生徒と教師たちの死体が黒いジェネシスを身に纏いながら大量に具現化し、ゼロの手、腕、足、首を掴むと勢いよく地面へ引きずり込んでいく。
「放しやがれぇぇええ!」
ゼロの声はすぐに聞こえなくなった。
《絶対零度》――ゼッタイレイド――
そこから先はもう何も見えない。
♦♦♦
「…………っ」
未来のビジョンは閉ざされる。
これがゼロの、A未来。
このまま私がゼロのA未来に干渉する為に行動しなければ、ゼロは死ぬ。
でもそれは……っ。
(シスター、もういいのでは? セリカはGランクになれない。その前提で――――)
うるさい。最後、どうにもならなければそうする。
でも……っ。
ゼロは殺さなければならない。
でも、セリカに殺させるわけにはいかない。
私の単独行動で、確かに未来は書き換わった。このまま進めば、黒い雨で死ぬセリカのA未来は消滅し、A未来回避後のB未来も消滅する。
最善策は私がここでゼロを殺すことだが、この数秒でのやり取りでこいつの強さは骨身に沁みた。私が命を賭けても勝率は低いかもしれない。
「……この戦いは、殺し合いに勝つことが本質じゃないから」
たとえ《赤い羊》に勝ったとしても、セリカが黒へと至るならそれはもはや敗北だ。
「あ? 何か言ったか?」
ゼロが死ぬタイミングを……こちらが調整しなければならない。
さっきから、余りにも選択の余地が無い。切れる手札が少な過ぎる……っ。
確かに、今の私は運が悪いかもしれない。
今までの私なら、すぐに諦めていたのだろうと思う。
でも……。
アルファ、覚悟を決めて欲しい。
(……ここで、死ぬつもりですか?)
最初から決めてたこと。ゼロは私が、殺す。未来が来る前に、私が終わらせる!
《吹雪之剣》――フブキノツルギ――
氷の剣を構え、ゼロに相対する。
退路は、無い。
退路は……無いんだ。
「……」
「……」
ゼロと私の視線は一瞬だけ静寂に交差する。
一瞬時が止まったかのような静寂の後、
――――白と黒の一撃が交叉した。