第14話 七番目の月②【シスター視点】
《必中魔弾》――ヒッチュウマダン――
突然の右のふくらはぎに激痛が走り、血が噴出する。攻撃されたという事実に気付くまで一瞬遅れる。
《聖母抱擁》――セイボホウヨウ――
瞬間的にアルファに交代し、再生する。だが、それが致命的なタイムラグだった。
だがその一瞬で……想像を絶する悍ましい殺気は既に私のすぐ背後にいた。
《紫電一閃》――シデンイッセン――
「お前から来たくせに逃げんなよ」
「……ッ!」
《武御雷神》――タケミカヅチ――
思考する暇も無い!
背後を振り返る余裕すらない。大規模に展開された黒き雷がすぐ背後にある! これをまた食らうのはマズい!
直感よりも早く身体が勝手に動き私は《武御雷神》を発動。
いつもの落雷の使い方ではなく、“私自身に”落とす。
私から溢れるスノーホワイトジェネシスと白き雷が融合し、全身を覆いそれが黒き稲妻を防ぐ。相殺ではなく、私の白い雷の方がゼロの雷のジェネシスを僅かに上回った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
《武御雷神》は私のジェネシスと融合、調和し、私自身から溢れ出していく。赤染アンリが血液を自分のジェネシスに混ぜて操っているのを見て得た着想だった。血とジェネシスを混ぜられるなら、私の《武御雷神》もジェネシスと混ぜて使うことができるのではないか。何度か試したが上手くいかなかったが、このぶっつけで初めて成功した。失敗が絶対に許されないという究極の緊張感が私の集中力を極限まで高めたのかもしれない。
集中力で意識がシャープになる。たった一瞬の今の攻防でさえ、命がけだった。瞬き一回分の隙ですらこいつの前では致命傷……。
私は逃亡を諦め、おとなしくゼロに向き合う。
今の攻防で、僅かな予感が去来する。
――――防げた。
Fランクの白はSSSの黒を相殺する。
さっきは不覚を取られたけど、まともに食らわなければある程度は渡り合えるのかもしれない。まだデータは少ないが、ゼロは攻撃に特化しているように見える。こちらが防御に全振りすれば倒せずとも渡り合――――
(シスター。警戒してください。“何か”来ます)
「そうこなくっちゃな。頼むから簡単に死なないでくれよ」
ゼロは不敵に微笑いながら目を閉じる。目を閉じているにも関わらず、隙は一切なく静かな殺気が黒きジェネシスとともに揺蕩っていた。
《運命之環》――ウンメイノワ――
ゼロの頭上に黒いジェネシスの環が現れる。
それはまるで“天使の輪”を連想させる。
ここまで破壊的で、暴力的で、悪魔的な男なのに、まるで似合わない“黒い天使の輪”はあまりにも禍々しく、本能的な恐怖と拒絶感に震えそうになる。
天使の輪……。それを持つ者はまるで神の使いのようではないか……。この男が神の使いであってたまるか。なのに、ジェネシスの扱いは天才的で、ジェネシスに誰よりも愛されているようにも見える。人間を殺す為の力の極みに、既にこいつは立っている。この、短い時間で。
ゼロは私を指さし、宣告した。
「カウント」
ゼロの頭上に「マイナス10」の表示が具現化する。
「……」
これは……。“視たことがある”。死亡フラグの一つ、セリカを殺した能力。間違いない。これは、運操作の能力……!
「お前、マイナス3か」
「…………」
「……お前、その表情。この能力が何なのか分かってるな?」
……こいつ。私の表情から何かを読み取った。
ゴリゴリのパワータイプにしか見えないのに、スピードも速いし、こっちの反応を見る洞察力もある……。生前は教室でただ一人でグータラしてるだけの怠け者にしか見えなかったのに、本来はこれほどの男だったのか……。
「まぁいい。ちょうどこの能力のテストをしてみたくてな。その辺の雑魚ではデータにならんから、ちょうどいい。お前で試してやるよ。マイナス3じゃ、試せることにも限界はありそうだがな。お前は分かってそうだから敢えて明言してやるが、俺は運を操れる。お前が運だけで成り上がってきたゴミではないことをその数字とともに証明して見せろ。どの道、俺を相手にした時点で楽には死ねないんだ。だが、死力を尽くして抗えよ?」
ゼロは私を指さし、更に宣告する。
「ダウン。合計マイナス8」
「……っ」
何が起きたのか分からないが、目に見えない“何か”が私の中から消失した感じがする。ゼロの頭上の「マイナス10」という数値に動きはない。……でも、私は? 私は私の頭上が見られない!
(落ち着きましょう、シスター。相手のペースに呑まれ過ぎです)
……そうね。
私は呼吸を落ち着ける。幸いなことにゼロは、まだ仕掛けてくる様子は無い。
ナメているのか、あるいは何か考えているのか。
……分からない。ただ一つ言えるのは、運命は存在する……ということだ。運命は変えられる部分と、変えられない部分の二種類が存在する。月の満ち欠けのように忙しなく動くそれを、私は見定めなければならない。
この繰り返された世界で、“予定調和“として収束する現象と、そうでない現象。
一番重要なこと。それは“運命”に干渉する能力。
運命に干渉する能力者は、分かっているだけで5人。
《起死回生》のセリカ。
《起承転結》のノエル。
《未来予知》の私。
《全理演算》のいばら姫。
《運命之環》のゼロ。
ダウングレード戦略と運命のロジックツリーの考案者である百鬼結も、運命干渉者の候補者ではあるが、それはまだ定かではない。セリカの《起死回生》は恐らく殺されてもいい相手がいない為、もう使えない。記憶もほぼ無く、運命への干渉力としては弱い。ノエルは何を考えているのか分からず、そもそも表にほぼ出てこない。
こちらの陣営で一番運命に干渉できる可能性があるのは、私しかいない。
“運操作”のゼロにここで敗れるわけにはいかない……。それはもう運命に干渉できる力を失うことを意味する。
――――ゼロが運を操るというのなら。
私も、私の力で運命に手を伸ばすだけだ。
《未来予知》――ミライヨチ――
「――――お前は必ず死ぬ。そうさせてやる」
――――私は、ゼロの未来を視た。
ーーーー能力メモーーーー
運命に干渉する異能力
①能力名:起死回生
所有者:白雪セリカ
効果A:誰かに殺された時、死の起因が発生する直前に時間を巻き戻す。同じ相手には使えない。
効果B:自分の意思で強く念じ、指定したポイントまで時間を巻き戻す。巻き戻す時間が長ければ長い程失う記憶の量が多い。どこまで巻き戻せるか等は現時点では不明。少なくとも三周は既にした模様。
②能力名:起承転結
所有者:ノエル(仮)(白雪セリカの副人格)
効果:触れた相手の人生の全てを支配することができる。
③能力名:未来予知
所有者:シスター
効果:視た相手の直近の死の未来を予知できる。これをA未来とする。
自分がA未来に干渉すると過程して変化する未来を併せて予知する。これをB未来とする。
B未来から更に分岐するであろうC未来以降は予知できない。
但し、セリカが3周して未来が過去となり因果が乱れているので、A未来を複数予知するというイレギュラーな事態が発生している。この意味不明な未来を6つの死亡フラグと命名している。
④能力名:全理演算
所有者:いばら姫
効果:あらゆる問いに対する確率を即座に算出することができる異能力。
※ChatG●Tのように具体的な提案や過程はすっ飛ばし、飽くまで確率のみをはじき出す。
⑤能力名:運命之環
所有者:ゼロ
効果:運操作の能力。コール名によって運操作をジェネシスに指示する。
コール名:カウント=相手の運と自分の運を頭上に表示する。
ダウン=相手の運を下げる。