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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第13話 ゼロの帰還⑭【ヒキガエル視点】

「さ、さっき、どこへ行っていた?」

 僕たちは空中を翼で飛行移動し、あてもなく彷徨っていた。

 僕はゼロへさっき気になったことを尋ねていた。

「あ?」

「いきなり消えただろ。あれは世界移動の能力だ」

「あーあれか。別に、お前に言う必要性は無い」

「…………」

「情報量のアドバンテージは圧倒的にお前の方が上だ。お前らが知らない情報で俺だけが知っている情報も無いよりはあった方がいい。今はクズカードでも、いつか役に立つかもしれないからな」

「…………」

 やりにくい相手だ。今まで会ってきたどのタイプとも違う。

「……分かった。それはいい。だが、これからどうやってFランクを捜すつもりだ」

 僕は《食人擬態》でリリーの肉体を身に纏いながら、ゼロへ尋ねる。

「あ? なんだその能力」

「ただの変身能力……だ。僕は、敵に本体の姿を見せたくないから」

「小物の考えそうなことだな。ま、どうでもいい」

 欠伸をしながらゼロは言う。こいつ、本当に傍若無人という言葉がよく似合う。自分から聞いておいてこの態度だ。本来温厚な性格の僕ですら殺意を覚えそうになるのを必死に堪える。忌々しいことにこいつは格上のSSSだ。戦っても勝ち目はない。

「Fランクってのは、“良い人間”なんだよな?」

「そう、だけど」

「なら簡単じゃねえか。闇雲に探す方法も無くはないが、面白い方法があるぜ」

 面白い方法……? なんだが物凄く嫌な予感がする。

「俺が、無関係の人間を虐殺しまくればいい。特に女、ガキ、赤ん坊。弱ければ弱いほどいい。その虐殺する場面を何らかの手段で全国中継するんだ。Fランクがここに来るまで虐殺を続けると宣伝しまくってな。そうすれば多分、飛んでくると思うぜ。“良い人間”は自分のせいで他人が苦しんだり死ぬことが許せないだろうからな。問題は生贄としてぶっ殺す人間の選定と放送手段だな」

「…………」

 僕も臆病な殺人鬼としての自分の悪性を自覚してはいるが、やはりこいつは……群を抜いてイカレているかもしれない。透とは方向性が違うが、透以上の悪……。

「ヒキガエル、この世界で一番有名なのは誰だ?」

「総理大臣とか、芸能人じゃないか?」

「標的はFランクだ。政治関係者を殺ると警察だの軍隊だのが先に動く可能性があるし、メンドいな。まぁ全部ぶっ殺してやってもいいんだが、数の暴力は少々分が悪い」

「アンタでも、無能力者のリスクを計算するのか?」

「こっちのジェネシスが切れるまでひたすら大群で攻撃され続けられるとダリィし、催涙弾だの、永続的に死に続けかねない毒ガス、麻酔の類の攻撃はヤバい。現に透もあれほどの力を持ちながら、コソコソ潜伏してるぐらいだからな、それぐらいは判る」

「…………」

 こいつ、馬鹿のようで、見ているところは見ている。しかも短い時間できっちり的確に良い判断を下してくる。生前は“良心”が邪魔していた状態で透を殺すぐらいの器。今はそのブレーキも消え、いくらでも暴走できる。しかもヒコ助を遥かに上回るパワーを持ちながら、判断力は花子以上。やはりまともに敵に回していい相手じゃないな……。

「芸能人を狙うと想定して、やはり一般人を狙うよりも国の動きが早い可能性が高そうだな。……ふむ。やっぱここはお手軽なユー〇ューバーかもな。芸能人じゃないのに芸能人並みの知名度があり、且つ警備は一般人に毛が生えた程度。手あたり次第に《監禁傀儡》を使いまくり、知り合いにユー〇ューバーがいないかを吐かせ、一人でも釣れたら後はソイツに吐かせ、横のつながりを辿っていけば大物に辿り着けそうだな。ま、これが合理的か。ランキング上位で今放送してるヤツを捜すぞ。まずは一般人を――――」

「ゼロ、何か、何か来る……!」


 《気配察知》――ケハイサッチ――


 自動で能力は発動し、僕は警戒を強める。

 少し、遠くの方からジェノサイダーの気配がする。

 僕は目を閉じて意識に集中する。

 この気配……は……白……。

 だが……この感じは……白雪……セリカ……じゃない。

 白雪セリカの後ろにいたもう一人の白、か。

「向こうから来たってことか? 向こうにも察知能力を使う小物がいるのかもな」

「接敵まであと二分も無い。速い! しかも何故か一人だけだ。仲間の気配がしない。単独で何をするつもりだ? 僕の察知をすり抜けて隠れている、のか……? いやでもそんな能力はあるのか……?」

「知らねえよ。両手足ちぎった後、腹を薄切りにして内臓掻き出して見せてやれば、多分全部喋る気になるだろ。お前、カニバ野郎なんだろ? 死体はくれてやるよ」

「Fランクをナメるな」

「俺に命令するな、ガキ」

 僕たちが言い合っている間に、白き死神はもう目の前にその姿を現していた。


「――――予知の通りにはさせない。セリカに会わせる前にお前はここで殺す。ゼロ」


 やはり、こいつか……。

 僕はゴクリと喉を鳴らして全身にジェネシスを身に纏い臨戦態勢に入るが、ゼロは薄笑いを浮かべていた。

「まぁ落ち着けよ。ちゃんと後で遊んでやるから、少し待て」

「誰が待つか」

 女が殺気を放ちながら能力を使――――


 《紫電一閃》――シデンイッセン――


 《吹雪之剣》――フブキノツルギ――


 コンマ一秒早くゼロが能力を使用。

 右手にかざされた方向に黒き稲妻が具現化し、女に命中して剣は一瞬で弾け跳ぶ。


「あああああああッッッ!」


 そのまま雷に打たれた鳥、あるいは殺虫剤で死んだ空中の蚊のように女は脱力したまま自然落下していく。

「よわ。だがまぁ、まだ死んでないようだな。手ごたえが薄かった。あんなんで終わってもつまらねえからな。つーか、少し手加減しながらの方がいいのかもしれん。あんま一瞬で終わってもあっけないからなぁ」

 ゼロはゴミのように女が落ちていく方向を一瞥した後、僕の首へと手を伸ばす。

 な、何ィィイイ……っ!

 完全に油断していた。僕は女の方しか見ておらず、ゼロは警戒の対象外だった。一番警戒しなくちゃいけない相手なのに……っ!

 敵が現れたからと言ってゼロは味方ではない。そんな当たり前の虚を突かれた。この警戒心の塊の僕が……っ。クソ……っ!


 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 《能力貸与》――ノウリョクタイヨ――


「付与指定、《殺戮兵器》」

 ゼロが僕の首に鎖を巻きつけながら何かを呟く。

「ヒキガエルに命じる。本体の姿のまま、今から生放送中でそれなりに知名度の高いユー〇ューバーを殺人実況中継し、自分が未成年者であることを強調しつつ、俺が付与した能力《殺戮兵器》を使用し、頭上に核兵器を落とせ。度肝を抜くような見事なスピーチを期待する。命令は以上だ、やれ」


 ゼロはニヤリと笑い僕の首から手を放すと鎖は消滅。

 ゼロは命令を下すと何事もなかったかのように、そのまま女が落下した方へ翼を広げ向かっていくのを、僕は呆然とただ見ていることしかできなかった。


 ――――想定を超える狂気。

 ――――透が認めた悪。

 ――――紫を遥かに上回る漆黒の底無しの悪意。


 全て、分かっていた筈なのに……っ。

 僕は死ぬほどの後悔を噛みしめながら元の姿へ身体を戻すと、ゼロの命令通り標的を捜す為全力で街中を目指して飛行を始めた。


 ――――たとえ、僕が、死んだ、としても、ゼロの命令を、必ず、遂行する為、に。

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