第1話 殺人カリキュラム㉑
「……つまり、何が言いたい」
「最後はより強いエゴを持った人間が勝つ、ということだけです。そして、勝者は常に”正しい”ということになっている。要は、最後まで立っていられた人間だけが、自らの正しさを主張する権利がある……ということです。死人に口なしである以上、全てを殺し尽くして黙らせるしか正義を証明する方法はない。どんなにそこに正しさがあっても、死者は絶対に語れないのだから。古今東西、生きとし生けるものは全てそうして自らの正義を証明してきた」
頭が、おかしくなりそうだ。こいつと話していると。シリアルキラーと言葉を交わした者は狂うとはよく言うが、こういう感じなんだろうな。
「君が僕を悪だと証明したいなら、僕を殺してください。その為のジェネシスなのだから」
そう言って透は俺の頭の上に手を乗せる。
《狂人育成》――キョウジンイクセイ――
透の手から、黒きジェネシスが溢れだし、俺を包み込む。
「っ、ぁ、ああああああッ!」
溢れだしていくのは、力。酔いしれたくなるほどの力。それを感じる。
おぞましさと同時に快感。永遠に続く射精のような感覚。
気が狂う。思考が、視界が、焼ききれそうになる。
俺から溢れだすのは、藍色のジェネシス。
「インディゴブルーのジェネシス。逸材とまでは言えませんが、それなりですね。あっさり死ぬか、化けるか。できれば、後者であることを願いましょう。百鬼零。君は面白い素材だ」
「ぁ、くっ、うぅ……」
涙が零れていく。力を手に入れた代わりに、掛け替えのない何かが奪われたような感覚。
「…………」
花子と、目が合う。花子は壮絶な笑みを浮かべて笑っていた。
それはまるで同胞の目覚めを喜ぶような、そんな顔で……。
「零、良いことを教えてあげる。私も一番最初は、インディゴだった。でも今はパープル。
アンタなら必ずパープルまで到達できる。私が、保証する」
「…………ぐっ、ぅぅ」
花子からパープルのジェネシスがあふれ出す。ジェネシスには“色”がある。それはとても重要なこと。何故、リリーや花子が透に従っているのか。赤染アンリが透を殺そうとしたとき、赤染のスカーレットジェネシスを透のジェットブラックジェネシスがはじいたのか。
「……この状況で、冷静に物事を分析している顔だ。やはり面白な、君は」
透は俺がジェノサイダーとして覚醒していくのを楽しそうに見つめていた。
「どこまでも上目線だな、お前。その傲慢さ、必ず挫き、破滅させてやるよ」
「さっきのを見た上で、僕を殺そうと? ジェネシスにはランクがある。殺人ランクと言ってね。それが高ければ高いほど、全体の強度と、殺傷能力が増していくんだ」
透がせせら笑う。
ジェットブラックジェネシスは恐らく最強のジェネシス。花子ほど我が強い人間が、透の下についていることがその証拠だ。
透のジェットブラックジェネシスを突破してもなお、こいつには《絶対不死》の能力がある。最強に追いついて、それでもなおこいつを殺すことは至難の業だ。盾を超えてもなお、そこには絶対的な鎧が君臨している。
「お前は、俺が、殺す」
透の目を真っ直ぐに見据え、俺は宣言する。ここで透への殺意を露呈させることにはメリットが無い。殺されるリスクしかない。ソレを踏まえた上で、それでも俺は言わずにはいられなかった。
「……やはり君は面白い。ああ、待っているよ。僕を殺せるのなら、殺すがいい。僕は逃げも隠れもしない。今は未熟なインディゴだが、万が一ジェットブラックの器に到達できるのであれば、僕と同じ世界を共有できるということ。ああ、やはり人間は面白い。圧倒的に優れた他者が現れたとき、劣等感と敗北にひれ伏すか。実力差も分からずに対抗し自らの無能で自滅するか。もしくは、全てを擲ってでも超越しようとするか。君は三つ目の人材のようだね。なら、僕を殺せる可能性もゼロじゃない。諦めさえしなければ、可能性はある」
「……今は退く。だが、次に会うときがお前の最期だ」
そう言って俺は壇上を去る。




