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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第13話 ゼロの帰還⑬【いばら姫視点】

「……全ては“計算通り”って訳?」

「何がだい?」

 ゼロとヒキガエルが消えた談話室で、私は透をにらみつける。

「ゼロの潜在意識を読み、《魔法之鏡》を使ってあいつを焚きつけ、後は白雪セリカへ誘導すればいい。もしゼロが白雪セリカを殺せれば結果的にあなたは生き残れる」

「確かに、それが“最適解”だね」

 透は私ではなくどこか遠くを見るように、薄く微笑みながら頷く。この反応、まるで手応えが無い。透の考えていること、見えているものが分からない。

「じゃあ……違うってこと?」

「さて、どうだろうね」

 透ははぐらかす。それが、どうしようもなく歯がゆい。この男に最も近い場所に立っている自負が、揺らいでしまう。

「君は、神の存在を信じているかい?」


 《全理演算》――ゼンリエンザン――

(演算開始。この世界に神が存在する確率は何パーセントか?)

(演算終了。100パーセント)


「演算によると確実にいるらしいわね」

「夢も希望も無い能力だなぁ」

「は? 解答が出るんだからいいでしょ別に」

「神というのは不思議な存在だよね。誰も見たことが無いのに、神という言葉もあるし、信仰宗教も存在する。神をいないと発言する為に、神という言葉を使っているという矛盾。本当にいないのであれば、神という言葉すらあってはならないのに。その辺り、君はどう思う? そして国、地域、国民性、性別、全て違うのに人間はある一定数確実に神を信じている。この不規則性についても不可解な点が多い」

「くだらない話だわ。全てに希望を持てない人間が最後に縋るよすが。それが神の正体だと私は思う。それに散々人間を殺しまくってるアンタが神の存在を肯定するのも変な話よ」

「人間を殺すのと神を信仰するのは実は“矛盾しない”。神が人間を愛し、慈しんでいるという人間の共通認識の前提がそもそもおかしいのさ。その傲慢さを克服しない限り、人類という名の下等生物に未来は無いと思うよ。なぜ神は人間を救うのが当たり前だと人間は思っているのか? 救わない神を憎み、存在すら否定するのか。理解に苦しむ」

「……さっきから何? 何が言いたいの?」

「Fランクの先について考えていてね」

「Gランクのこと? 確かに1パーセントは存在すると言ったけど」

「SSSを突破するジェネシス。何色……なんだろうな」

 透は夢見る少年のように目をキラキラさせている。

「SSSの先より、Gランクに興味があるの?」

「僕は僕を超える悪に殺されたい。もしくは、僕の悪を凌駕する正義に敗北したい。だが……そうじゃない未来もあるのか。夢があるな」

 透は恍惚とした表情で、何かに陶酔している。透にもデストルドーは存在する。それが……今のこいつの恋慕に近い感情の正体だ。

「さて。未来に思いを馳せるのはここまでにしよう。僕は僕のすべきことをやらないとね」

 透は感情のスイッチを切り替え真顔になると、虚ろな目の花子の肩を叩いた後、腕を引っ張って無理やり立ち上がらせる。

「ゼロにはああ言ったが、僕は君を大切に思っている」

 そう言って透は拳銃の弾丸を一発取り出し、握らせる。

「これは僕の黒のジェネシスを込めた弾丸だ。さっきの拳銃に装填して自分に撃てば、一発で死ねるはずさ。トイボックスかヒキガエル行きになるぐらいなら、自殺させる機会もきちんと与えようと思う」

「……とお、る」

 花子は焦点の合っていない目で、うわごとのように透の名前を呼ぶ。

「花子、どうしたの急に?」

 私は透に尋ねる。

「僕が拾った当初の姿に戻ってしまったようだね。花子がかつて死ぬ寸前の脆い廃人寸前だったところを僕が拾った話はしただろう?」

「まあ、ね」

「だが、これでいいのかもしれない。原点回帰して、今度はもっと強くなって戻ってくるさ。君なら死なずに狂わずに、また立ち上がれる。そして、今度こそその時は、黒へと至るんだ。僕から君への、最後の手向けだよ」

「最後? アンタ……まさか死ぬつもりじゃないでしょうね?」

「まさか。全力でやるさ。ただ、覚悟もしている」

「…………」

 透が自らの死を覚悟するような発言は未だかつて無い。それほどの覚悟ということか……。


 《奈落乃底》――ナラクノソコ――


 透は右手を床へかざすと、漆黒のジェネシスが渦のようにうねり、般若面の顔が具現化し、般若面の口が大きく開く。口の中は闇しかなく、底が見えない。

「《奈落之底》に堕ちた者は、永遠に漆黒の業火に身体を死なない程度に焼かれ続ける。そういう世界を具現化する能力だ。リリーの《拷問遊戯》には死か発狂という終わりがあるが、《奈落之底》に終わりはない。文字通り、永劫だ。たとえ発狂したとしても炎には焼かれ続けるし、焼死することもない。そして僕が死んでもこの能力のゲートは閉じるが世界は滅びない。終わりの無い炎の世界さ。そう、これを突破するには、世界そのものを白で相殺して破壊するか、同等の質量の黒で破壊するしかない。だから、せめてもの情けとして、もし耐えられないと思ったらさっきの弾丸を使うといい。それを使えば死ぬことができるからね」

「透、正気? 今、計算したけど、花子がここをSSSに到達して出られる確率は13パーセントしか無いわよ?」

 花子は強い。今はこの様だが、ここで使い潰していい人材じゃない。しかも今の花子は再起不能に近い精神状態。

 私は慌てて止めるが透は全く私の言葉を聞く様子は無い。

「君の真理は“命は平等”だったね。どうやら今まで特別に扱い過ぎたようだ。君の真理に対し敬意を表し、君の命を“軽く”扱おうと思う。だが信じているよ。君が――――」

 透は微笑みながら、花子の背中を押して《奈落之底》へ落とす。


「――――黒へと至る少女だということを」


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