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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第13話 ゼロの帰還⑪【ゼロ視点】

「君の逆鱗に触れる覚悟で、敢えて言おう。君は“生前の君”よりも“劣って”いる。思想も、意志も、覚悟も、“何も無い”弱者だ」

「……今、お前……なんて、言った」

 頭の中が真っ白になり、直後にドス黒い怒りが身を焦がすように湧いてくると同時にジェネシスが溢れ出す。

「怒るのは“図星”だからだよ。笑って受け流せないのは、真実だからさ」

「と、透……それ以上は」

 花子が恐れるように止めるが、もう遅い。

「殺されたいのか、お前……」

「反論したいのなら訊くが、君という存在とは何だい? 逆に問うが、君は何のために生きている? 僕に生きる理由を訊いたのは、同じ漆黒である僕から何かを知ろうと、感じ取ろうとしたのではないかな?」

「俺、は……」

 いざ問われると、答えられない。

 過去も無く、記憶も無く、何も無い俺は――――


『――――早く死ねよ、ガラクタが』


 脳裏によみがえるのは自分ではない自分の声だ。

 それは呪いのように耳朶に沁みついて離れない。

「僕はサイコパスが大好きだが、サイコパスの欠点も知っている。サイコパスは“軽い”のさ。命に対する認識、道徳観、人と人との繋がり、死生観、第六感的な思想、それら全てが浅く、軽く、価値が薄い。だからその“軽さ”を補う為に、富や名声、地位や賞賛を求める。そういう風にできている。サイコパスは絶対になれない“凡人”のことが本当は羨ましい。でも絶対にそれを認めることはなく、自尊心の為に自らのステータスと人生を徹底的に追及して凡人を否定する。凡人よりも能力が高いと、そう自分の価値に心酔することでしか、酔えないのさ」

「…………」

「本来であれば自分が生きる理由などというものは自分で見つけ出すか、そんなものは“無い”のだと割り切るかで自分自身の在り方を選び取ることになるが、君は生まれたての赤ん坊のような存在だ。そんな無垢な君に僕の思想を押し付けるのは大変忍びないが、結論を言おう。君は過去の君をなにがしかの手段で超越したという実感を得ることでしか、自己実現はできないだろう。今の君は、サイコパスですらない。サイコパス未満の弱者だ」

「……黙れ」

 透の言葉には自分でも許容できない程の怒りを覚えつつも、冷静に受け止めている自分もいる。怒りがジェネシスと同化しながら、冷静さもまたジェネシスと同化して静かに揺蕩っている。

「そう、サイコパスの長所は“冷静”であることだね。自分自身の感情に振り回されることが馬鹿らしく、滑稽に思えてしまう程、心が冷めているんだろうね。今の君は本当に“面白い”。まだ短い時間だが、大体君のことが分かってきたよ」

「うるせえよ、黙れ」

「君が話しかけてきたんじゃないか」

「それでも黙れ」

「だが君が本当に望んでいることはこれで分かった筈だ。君は“自分”という存在を“獲得”したいんだ。何者かに、ではなく、自分という存在を、確信したいんだよ。普通の人間であればただの思春期の笑い話だが、君は過去の君を喪失した上で、ここに立っている。それなのに君は、過去の自分に対しどうしようもないほどの怒りを覚えている。その怒りの根源すら分からずに。ただ駄々をこねるかのように暴れて発散することで、自分を慰めている。花子に今の自分を肯定してもらったのかな? 嬉しかったかい、過去を否定し今を肯定してくれる花子の言葉は」

「それ以上喋ったら……殺すぞ」

「殺してくれて構わないさ。僕はいつだって命がけだよ。モルモットに対しても、他者に対しても、《赤い羊》に対しても、敵に対しても、君に対してもね。殺人鬼という生き物は捨て身である義務があると思うんだ。他人は殺したいけど自分は死にたくないだなんて、僕の美学に反するからね。僕は沢山いくらでも殺すが、だからといって死にたくないと思ったことは一度も無い。《絶対不死》も死を受け入れていないと発動しない能力だしね。死にたくないというブレーキがある者では”死ぬことが前提”のこの能力は発現しない」

「……」

 真意を探るように透の目を見るが、透の目は本気だった。

「さて。長話をしてしまったね。結論、と先ほどは言ったが、あの話にはまだ続きがあるんだ」

「続きだと?」

「生前の君が命を賭けて守り抜いた存在がいる。彼女を殺すことができれば、君はその過去の呪縛から解放されるだろう」

「誰だ、その女とやらは」

「白雪セリカ。僕らとは対極の、Fランク。白き色を持つジェノサイダーだ」

「F……ランク」

 あの気持ち悪いジェネシスのことか。

「お前に言われるまでもなく、Fランクは狩ろうと思っていた。お前の掌の上で踊らされているようで癪だが、いいだろう。乗ってやるよ。殺せばいいんだな、白雪セリカを。この手で」

 俺の言葉を聞いて、後ろで花子が壮絶な笑みを浮かべたような気がした。

 だが、そうすれば、この忌まわしい過去への劣等感のような感情から解放される。それはいうなれば、全身をミミズのようにはい回る鎖を断ち切るような爽快感に近かった。

「白雪セリカ……。聞いた事ねえのに、他人とは思えねえな。フッ、まあいい。やることは決まったようだな」

 その女をぶっ殺すことにしよう。どうせ暇だしな。

 俺は剣とジェネシスを消滅させて戦闘態勢を解いた。

「ジェネシスについて色々聞きに来たんじゃないのか? それが終わってからでもいいんじゃないかな」

「てめえは。心の中が読めるのか?」

「まぁ、そういう能力は持っているが君には使えないよ」

「俺がSSSだからか?」

「いや、蘇生体には使えないようだ。だからいばら姫にも使えない」

「あいつも蘇生体だったんだな」

「蘇生体の心。それは”読めない”のか、あるいは心自体が”無い”のか、その答えは未だに出ないままだがね……」

「それでも見透かすようなてめえの目はキメェな」

「誉め言葉として受け取っておくよ。さて、それじゃあ少しの間講義といこうか。あまり時間は無いから、巻きでいくよ」

 そういって透は微笑して部屋を出て行ったので、俺たちもついていった。

 この男の背中についていくことが果たして何を意味するのか。

 それが分かるのは、もう少し後のことだった。

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