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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第13話 ゼロの帰還⑨【ゼロ視点】

「戻ったぞ、透。約束通り雑魚どもは生かしている。見ろ、無傷だろ」

 花子を使って謎空間に戻り透の場所まで行き、声をかける。こいつの気配は独特でどこにいるのかなんとなく分かる。俺もジェネシスのチャネリングとかいうやつを無意識に使えてるのかもしれんな。ジェネシスについて簡単な説明は花子から聞き出してある。

「……同行者が無傷というだけでここまでドヤ顔できる人間を僕は初めて見たよ。ジャングルや登山に出掛けた訳でもあるまいし」

 透は呆れたようにため息を吐いている。

「なんだ、嫌味か? 意外とお前、器が小さいヤツだな」

「君が風来坊過ぎるだけさ」

「で、お前は今何をしてんだ?」

 この部屋は地下室の奥まった場所にあり、長方形のように長机が並んでおり、長机の上には軽く100台を超えるパソコンが並んでおり、どこかのオフィスの一室のように見える。

 ただひときわ異彩を放つのは、パソコンの横に無造作に並べられた生首だ。1台のパソコンにつき、一つの生首なので約100の生首が並んでいることになる。

人間の生首の右の耳の穴の中にはコードが直接接続されておりパソコンと直接つながっている。そして左の耳の穴の中からはチューブのようなものが突っ込まれており、そのチューブは長机の中央に設置してある水槽に繋がっている。

水槽の中には大量のカゲロウが泳いでおり、気持ち悪い。

カゲロウが泳ぐ水は何故か緑色に濁っており、その水が生首の左耳の中にチューブで通されている。

「こん、ここ、こんにににちちちワワ……」

 俺の目の前に置いてある生首が口から泡を吹きながら喋った。

「ああ、これかい? 見苦しくて申し訳ないね。いばら姫と骸骨、かつてリリーの3人で共同で開発した装置だ。名前はトイボックス。この123個の生首は骸骨の《死姦人形》による不死の処理が施してあってね、完全には死んでいないのさ。胴体は邪魔だからヒキガエルにあげてしまったがね。そして、生首だけとなった彼らには僕の《狂人育成》でジェネシスも付与してある。あとは欲望が損なわれないよう《快楽器官》を与え適度に夢を見させ続け、いばら姫の力で脳と機械を直接接続することで外部から入力された命令通りにジェネシスと異能力を吐き出させることができる。まー言ってみれば、廃棄サンプルの有効活用といったところだね。殺処分せず、それなりに使える能力は殺人ランク関係なくストックしておきたいという僕のニーズを満たす、便利な道具だ。少々景観が損なわれるのは玉に瑕だけどね、割と気に入っているよ」

「ああああららありがトウ。しあわセ、しあわせぇぇ」

 生首は幸せそうに笑っている。その顔はヤク中患者のようにキマっていて目の焦点が合っていない。

「彼らに快楽を与える為の《快楽器官》は、このカゲロウに秘密があってね。リリーの《拷問遊戯》で生成される虫カゲロウを雄雌一匹ずつ《快楽器官》で発情させ、いばら姫の《完全再現》で増殖、最終的には雄と雌で繁殖させたのさ。カゲロウたちの生活用水には微量だがジェネシスが含有されていてね、その中に《快楽器官》による性的快感を感じる物質も含まれているという仕組みさ」

「つまりここには最低でも123個のジェネシス能力がストックしてあるってことか。お前では使えない能力で、且つそれなりに価値があるものがここに保管されてるんだな? じゃあ、今お前はここで自分が使えない能力を使って何かをしようとしてるってことか?」

「理解が早くて助かる。そういうことだね」

「……」

「……」

 ヒキガエルと花子はげんなりした顔をしている。この二人はさりげなくだが、この部屋に一直線に向かう俺に対してゴネていたが、こういうことだったのか。理解した。つーか、こいつらでも無理なもんがあるんだな。

「で、今お前は何の能力を使おうとしてたんだ?」

「期待させてしまったなら悪いが、SS、SSSのような強力な異能力はトイボックスには無いんだ。飽くまで“少し便利”程度でね。たとえば明日の天気が分かる《天気予報》とか、服を自動で作れる《服飾機関》とか、急速に安眠できる《疲労回復》だね。いばら姫の《完全再現》でも実行可能なものも多いが、あまり彼女ばかりに頼るのも申し訳ないから」

「ハイ、そうでちゅう、そうなんでちゅう」

 さっきから生首がうるせえな。

「いいから言えよ」

「《武器商人》。あらゆる武器を生成する能力さ。そこそこ便利で使えるが、上位ランクほどではない」

 透はパソコンのキーボードでいくつか文字入力すると、生首が水色に光り出す。


 《武器商人》――ブキショウニン――


「今更武器なんて必要なのか? お前に」

 透はかなり強い。やはり黒は別格だ。こいつが武器を求める理由が分からん。

「対Fランク戦への備えだよ」

「Fランク戦への……。どういう意味だ?」

「僕の予測だが、FランクはSSSを相殺しうる者。SSSを妨害し、殺すことができる存在だと思う。だがFランクは対SSSには特化して強いが、E~SSのジェネシスに対しては弱いという性質がある。そこを利用し、敢えて低ランクのジェネシスで武器を作っておき、いざという時の備えとしておくのさ。切り札としてね」

 透は薄く微笑みながら、生首が口から吐き出した拳銃を手に取る。拳銃は水色のジェネシスを纏っている。

「回転式拳銃。6発まで撃てるピースメーカーか。悪くない」

 用意周到な性格なのか、更に予備弾薬として6発分の弾丸を追加し、ポケットに入れている。

 透は拳銃をいくつか用意し、花子とヒキガエルに手渡す。

「お前ほどの男がそんな小細工を考える程の存在なのか?」

「僕を殺す確率77パーセントの持ち主だからね。手を抜くつもりは無いよ。君にも渡しておこう。この銃は必ず役に立つはずだ」

「いらねえよ。俺は俺の力にしか頼らねえ。逆に俺の力が及ばない時がくれば、その程度が俺の限界ってことだ」

「たくましい限りだね」

「で、トイボックスとやらの用はこれで終わったのか」

「ああ、終わったよ。他の用も含めてね」

「そうか。123個もストックがあるなら、さぞかし便利なんだろうな。他の用とやらは何だったんだ?」

「ん、ああ、大した用じゃないさ。鏡の中に自分のコピーを作り、対話するだけの能力。イマジナリーフレンドに特化した能力とでも言えばいいのか。《魔法乃鏡》に用があってね。ある精神科の閉鎖病棟の重度の精神異常の患者を拉致して手に入れた能力なんだが、これがなかなか使えてね。ジョハリの窓を克服できる唯一の手段と言ってもいいかもしれない。ジェネシスの持つもう一つの可能性について答えを出す為にここに来たんだよ、僕はね。そして、結論は出たのでもう用は終わっている。まだ鏡は消滅していないし、君も見てみるかい?」

「あ? 言ってんだろ。いらねえよ」

 そう言って立ち去ろうとすると、ドアに立てかけられた姿見の鏡が目に入った。来るときは鏡を背にする形になったので、そこにあるのが分からなかったようだ。

 忌々しいことに、鏡の中の俺は憐れむように俺を見ていた。

『殺す、壊す、犯す、全ては満たされることが無い幸福の渇望を紛らわす為の代償行為でしかない。お前は一生満たされない。どれだけ壊しても、破壊の先には何も無いからな。つまらない人生を生き続けてゴキブリのように終われ、お前にできるのはそれだけだ』

「負け犬は黙れ、弱者の戯言だな。くだらねえな心底反吐が出る」


「「――――早く死ねよ、ガラクタが」」


 俺と鏡の俺の声が重なり、気付けば俺は「キルキルキルル」と唱え鏡を剣で粉砕していた。

 自分の顔をひっかき血が流れるが、そんな痛みは気にならないほどの怒りが溢れ出す。

「ちっ……。不快だ。二度と見せるなこんな鏡」

 俺は念入りに鏡の破片を踏み潰しながら、吐き捨てるようにそう言った。

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