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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第13話 ゼロの帰還⑥【透視点】

「やぁ、二人とも。さっきは散々だったね」

 僕は医務室に入り、ヒキガエルと花子に声をかける。

「……」

「……ッ」

 ヒキガエルは抗議の眼差しで、花子は怒りと恥辱の入り混じった視線で睨みつけてくる。

「僕は……治療係じゃない。それに、あの男の蘇生は今すぐにでも取り消すべきだと思ってる。リスクしかない」

 ヒキガエルは少し躊躇いがちに意見を述べてくる。

「アンタは黙ってなさい」

「……花子。理解に苦しむ。死にかけたのに、何故庇う」

「アンタには関係ない」

「なら僕に治療なんてさせるな。お前が怪我しようが死のうが僕には“関係ない”んだから」

「黙れ!」

 花子は叫びながら床を拳で叩きつけ、床がはじけ石礫が転がる。

「……論破されたら、そうやって恫喝して暴力を振るう。知性、品格の欠片も無い。だからいばら姫にいつまでも見下されるんだよ。少しはいばら姫と透を見習えよ。お前はいつまで経っても、まるで学習しない。馬鹿な猿みたいだ」

「ガキがァ……」

「はい、そこまでだ」

 パチンと手を叩き、二人を仲裁する。

「花子、僕がみなまで言わずとも君は理解している筈だ。己の間違いを。今すぐ正せとは言わないが、そうやって他人に当たり散らしている間は君は永久に真のSSSにはなれない。“弱者”だ、君は」

「……っ」

 花子は唇を強く噛み、血が一筋ポタポタと零れていく。

「ヒキガエル、君も“強さ”に焦がれる者の一人だ。怯えて逃げるだけではいつまでも強くなることはできない。本当は分かっているだろう?」

「…………」

「そこでだ。二人にはそれぞれ“強さ”について学んでほしいと思っている。今回は良い機会として、二人に提案したいことがある」

「い、嫌な予感がする……」

「……」

 ヒキガエルが青ざめ、花子がごくりと喉を鳴らす。

「ゼロが外に出たいと言っていてね。流石に野放しにすることはできないから、メンバーを付けたいとも思っている。君たち二人が、適任なのではないかと考えているんだ」

「絶対嫌だ」

「…………」

「まぁ、そう言わずに。ゼロにはメンバーを殺したら即座に蘇生を解除する最後通達を済ませてある。愚かな真似はしない筈さ」

「何の保証も無い……」

 ヒキガエルが凄い勢いで首を横に振ってくる。

「僕以外のSSSである、彼を知ることで君たちは強さについて理解を深めて欲しい」

「なんで僕が……」

「正直に言おう、ヒキガエル、花子。君たちの成長はどん詰まりだ。向上心が無い。もちろんある“つもり”なんだろうけれども、君たち“弱者”はどうしても安全地帯を求め、そこで安心すると成長を止めてしまうのさ。現場では有能だったハングリー精神の塊の平社員が、昇進し管理職になった途端腐敗し無能になるあの現象と似ているね。この国の内政の仕組みそのものとも言える。率直に表現するのであれば、“怠惰”と言ったところか」

「……」

「……」

「君たちは自分は死なない、と思っている。その考えを改める良い機会だ。“危険”を味わってこい。死ぬかもしれないという恐怖は、必ず君たちを本当の意味で強くしてくれるよ。これは“命令”だ。拒否は許さない。分かったかい?」

「も、もしゼロが攻撃してきたらどうする?」

「自分で考えろ。生きる為の行動は全て“正義”だ」

「あ、安全に強くなる方法も……ある筈だ。何も危険をおかさなくたって」

「ヒキガエル、残酷なことを言うが、人間は……いや、生物は全て……恐怖でしか進化しない。安心では進化できないんだよ。安心という感情を獲得した人間は、必ず堕落し、無能と化す。死に物狂いで恐怖の中で抗い安心とは違う方法で恐怖を克服した人間にしか、本当の意味で進化する権利を獲得することはできないんだ。これは危険地帯を経験したことがないぬるま湯で過ごしてきた人間には一生理解できない感覚だろうね。だが、“君たちなら”僕の言っていることの本当の意味が分かる筈だよ。まだ若過ぎるけれども、ソシオパスである君たちであれば十分分かっている筈。そうだろう?」

「「……っ」」

「さて。同じような話をダラダラ繰り返すつもりも無い。この話は終わりだ。ゼロは応接室にいる。二人で出迎えに行きなさい。ゲスト権限は君たちにも与えてあるから、出入りはできるだろう」

「……」

「……」

 二人からは怒りと動揺が消え、緊張と静かな決意の気配へと変わっていた。無言のまま医務室を去り、二人は消えていく。

「……はぁ。皆、これぐらい素直だと良いんだがね」

 じゃじゃ馬の相手ばかりで疲れた僕は、苦笑しながらため息を吐いた。

 やはり素直に言うことを聞いてくれる者が一番可愛げがある、というものだ。

 だからこその弱者とも言えるのだが……。まぁ、そこはご愛嬌か。

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