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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第12話 Gランクプラン㉙【赤染アンリ視点】

 節制訓練終了後、セリカはまたしても気絶してしまった。私は血液を操り、大きな掌の形にすると血の上にセリカを乗せてベッドまで運んだ。スパルタカナちゃんは二時間後にセリカを叩き起こして黒い雨までの準備の続きをやると言っていたので、少し憐れだと思うが仕方ない。

 私も少し休もうと、血液をソファー代わりにして座る。

スタスタと無言でついてきたカナちゃんは

「アンリさん、お隣、少しよろしいでしょうか」

 と言って、おもむろに座ってくる。

「そのお面をしてるってことは、アルファちゃん?」

「はい、正解です」

「何か私に話があるの?」

「凄い、また正解です。アンリは私の心が読めるのですか?」

「いや、別に普通だと思うけど」

「そうなんですね、常識というものはよく分かりません」

 なんだか斜め上の返答をしたアルファちゃんは、少し躊躇いがちに口を開いた。

「セリカは、危ういです」

「……死亡フラグの話って訳じゃなさそうね」

「透についてどう思いますか?」

「急に話が飛ぶわね……」

「一応、私の中では繋がってます」

「透、透ねぇ。初見だとただのイカれサイコキラーにしか見えないけど」

「アンリさん、あなた程の人がそんなオソマツな感想で終わるとは思えません。本当のことをハッキリ言ってみてください。これは大事な話ですよ」

 アルファは優しくほんわかした雰囲気だが、時々キツい。これはセリカにも言えることではあるけれども……。

「……確かに、透について考察したことはある」


 ――――透はSSSランクで異能が強力だから《赤い羊》を従えているのではありません。透の心理誘導に赤染先輩は吞まれている。あなたはマインドコントロールが得意ですが、透のマインドコントロールはあなたのそれとは“次元”が違います。人間の深層意識の深い深い奥の部分までゆっくりと優しく手を伸ばして、誰もが心の深淵に眠らせている怪物を撫で起こし、表層意識までそれを引っ張り出して、自分の色に塗り替えるんです。黒く、黒くね……。恐ろしい男ですよ。

 そう言って、常に冷静沈着で計算高い結ですら透のことは心のどこかで恐れていた。


 確か……私は透のことを、どう評していたっけ? 少し過去を振り返ってみる。


 ――――透は、”何もない”状態に世界を戻そうとしている。

 全ての人間のバイアスの完全なる破壊。秩序の崩落。その手段として殺人を強要することで倫理観を崩壊させる。異能を与え、力と自由を与え内なる欲望にベクトルを与え、精神の混沌の奥深くに眠る怪物を引きずり出す。

 だが恐らく、彼の“本質”は快楽殺人鬼とは別の所にある。


 そう、私の透への思考はここで打ち止めになっている。

「透は性悪説を極めている。そしてそこには一定の“正しさ”がある。だから否定しようとすると必ず自己矛盾が発生し、それが弱さになる。そして透は容赦なくその弱さに付け込んでくる。透を否定しようとすればするほど、透の術中にハマり自分の中の性悪説が完成してしまう。透を肯定しても悪、透を否定しても悪。悪のダブルバインドは完成している。彼と対話するのは容易ではないでしょうね。問答無用で殺すというアプローチが正解のように思える。それこそ、百鬼君みたいにね。もし、自らの主張と正義を以て透を打倒しようとすれば、その人間はタダでは済まない。透に対して正義で立ち向かうのは最悪の悪手と言えると思うわ」

「ほら、しっかり考えてるじゃないですか。さっきみたいにテキトーに答えるのはやめてください。私、泣いちゃいますよ」

「……それで、アルファちゃん。セリカが危ういって話に今私が言ったことが繋がってくるわけね?」

「そうです。そして透はセリカを殺す死亡フラグの持ち主の一人でもありますが重要なことはもっと別にある。Gランクプランも大事ですが、セリカをSSSにしないことも重要なファクターです」

「アルファはセリカがSSSになると思ってるの?」

「その可能性は高いです。そしてそうなる前にシスターがセリカを殺します。セリカの死亡フラグは6つと言ってはいますが、実際は7つです。セリカがSSSになるのならシスターが殺す。これはセリカと共闘すると決めた際に定められた契約ですから」

「その話を私にして、何がしたいの?」


「覚悟を決めてください」


「……」

「聡明なあなたであれば、敢えてみなまで言わずとも分かるでしょう?」

「……私に、セリカは殺せない」

「セリカがSSSになる時、あなたが邪魔をするのであればあなたも殺害対象になります。私達は基本的には味方ですが、セリカを見限った時だけは別です」

「セリカの敵になるなら今この場で私があなたを殺すとは考えないの?」

「私たちは自分の命に執着していません。抵抗はしませんよ。でも、あなたは私達を殺せない。《赤い羊》の打倒も、Gランクプランの成就も、あなたとセリカの二人だけで達成できる程ぬるくはありません。ノエルの話もセリカがさっきしましたよね? ノエルは完全に未知数です。もし完全覚醒すれば、誰にも止められません。“誰にも”です」

「……でも、あなたは“死の母”を目指すんでしょう? それならセリカの生死なんて関係ない筈」

「そう。だからこれは私の自己矛盾です。セリカにGランクになって欲しい。セリカを殺したくない。でも……何も果たせず彼女が闇へ堕ちるぐらいなら、いっそこの手で……」

「……」

「プレッシャーをかけるようなマネをしてすみません。ただ、今のままではマズい気がします。透を突破できたとしても、ゼロがいますから」

「……百鬼君のことね」

「誰かを愛するということは、必ずしも善ではない。愛とは、命に優先順位をつける行為。尊い誰か一人の命の価値を定義することは、無価値なそれ以外の命を定義するということ」


――――なら、“心”の無いお前に価値は無い。この場で五臓六腑をぶちまけて八つ裂きにされながら家畜の生餌になって妥当。ということでよいかのォ?


 誰かの声を思い出して背筋が震えそうになる。

 今の、声と、恐怖は……何……? 思い出せない……。

 そうだ、そう。私はかつて直感でこの答えを出したことがある。価値があるものを定義すれば、必然的に同時に無価値なものも定義することになる。

 セリカがゼロを愛し、その価値を最上のものとすれば、それ以外の命を無価値と定義することになる。

「セリカをSSSにしない方法を、考えておいてください。私もずっと考えてます。でも未だに答えが出ない。Gランクプランの最大の障壁です。人の心って、むつかしいですよね」

 アルファはそう、悲しげに呟いた。


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