第12話 Gランクプラン㉖【白雪セリカ視点】
「……無い、わね」
「え?」
「Gランクを創ることに直結してる異能力が無い……。いや、気付いていないだけというべきか。そもそも私の考えが間違ってる可能性も? いや、それは無い。ならやはり……」
アンリはぶつぶつ言いながら、ホワイトボードに私の能力を書いて思案顔だ。
「見つからなかった?」
「……ある筈よ。見えていないだけで。セリカ、改めて聞くけど、これ以外に能力は無いのね?」
「うん」
「一つの能力に複数の効果がある場合もある。それを踏まえても、もうこれ以上情報は出無さそう?」
「……うん」
「であれば、消去法で削っていくのが妥当ではないでしょうか。明らかに違う能力にはバッテン印を付けて、残ったそれっぽいのにマルを付けるのです」
狐面を被ったアルファが、いつの間にかシスターとチェンジしていた。
「あれ、アルファ。もう起きたの?」
「まだ眠いですが……。お二人が頑張ってるので、起きました」
「そっか、ありがとう。無理しないでね」
「いえ、セリカ。今は無理する時ですよ。あなた達には……いいえ、私にも時間が無いのですから」
「アルファにも、時間が無いの?」
「恐らく消えた未来の世界の途中で、私達はあなたに殺されています。私達にも死の運命はあると考えるのが自然かと。まぁこんな命なんの未練もありませんが、セリカの行く末を見届けたいという生まれて初めての欲求には素直に従っておきたいと思います」
「あ、アンリ、ごめん。この子はアルファ。前に軽く話した別の人格の人だよ」
「カナちゃんって呼んでも?」
「あ、はい。それでいいですよ、アンリさん。呼び方をいちいち変えるのも大変でしょうから。セリカは何故か普通にやっていますが、異常なことなんですよね」
「いやいや。お面被ってるから分かるよ」
「いえ、セリカはそういう外見的なモノじゃなくても判断できるので、普通におかしいですよ」
「……」
「さて、アンリさん。アンリさん的に違いそうだなと思ったのにバッテンを付けてもらえますか?」
「分かったわ。あなた的には何か気付いたことでもあるの?」
「いいえ、ありません。でもバッテンを付けていけば、見えてきそうだなとは思ってます」
「……なるほど」
二人が会話する中、私は呆然と一つの言葉を呟いていた。
「ジェネシスを消耗する量が多いもの、代償がある異能力は他とは違う特別な異能力です。単純な効果しかないことはまずあり得ない」
「……マザーの遺言ですね」
「まだ使ったことが無い異能力もあるからなんとも言えないけど、この中で異常に消耗が激しい能力は――――」
①起死回生は、死んで時間を巻き戻す能力。巻き戻す能力に比例して記憶を失う。私も短い時間を何度か巻き戻したが、何か忘れている可能性がある。そもそも何を忘れたかも思い出せないので思い出しようがないが。
②色即是空は、すり抜ける能力をすり抜けなくするだけの能力。盾を実体化した時は、シスターの切り札である《武御雷神》を完封したことがある。
③天衣無縫は、私自身をすり抜けるようにする異能力。回避に特化しており、即死級の攻撃くらった時に何度も救われた。
④明鏡止水は、集中力を極限まで底上げし、時間の流れをゆったりと感じさせる能力。俗にいうゾーンに無理やり入るみたいな能力だ。
この4つだ。《守護天使》もジェネシスを一瞬で失うけれども、あれは貯蓄特化の能力なので除外しようと思う。
ただ、使ったことが無い能力もある。この時点で一概に判断するのは難しいか。
「この4つ……。破れかぶれな発想になるけど、起死回生が本命であるなら、ある条件を満たした状態で死んで過去に戻るとそのままGランクになれる。色即是空が本命であるなら……これは駄目ね。仮定もできない。天衣無縫は透明化以外に何か別の存在になれる? とかかしらね。明鏡止水は……意識そのものを変革させて人間ではない意識を獲得する、とか?」
「うーむ、難しいですね。セリカ的にはどれが本命だと思いますか?」
「ごめん、さっぱり分からない」
「セリカ、何か思い出せない? 未来の記憶を」
「……ごめん、思い出せない」
「セリカはGランクの具体案を、さっきから過去の誰かの言葉で引っ張り出しています。なので、恐らくはこれから経験する未来となった過去を経験すれば、もっと見えていることが増えるかもしれませんね。誰かに何かを言われるのです。その言葉の一つ一つを大事にすることです」
アルファは唐突に、そんなことを言う。
「《赤い羊》とお話すれば、もしかしたらもっと別次元の視点が手に入るかもしれません。彼らの考え方も非常にユニークですから。純粋なあなただからこそ、Gランクを創造できる可能性はゼロではありません。無論、黒へと至るリスクも同様に発生しますが。それに……気になる事はもう一つあります」
アルファは私の上着の胸ポケットにしまってある拳銃を見透かすように見つめている。
「“それ”を使うその瞬間までが、あなたの猶予期間なんだと思いますよ」
狐面の向こう側でどんな表情をしているのか分からないけれども、アルファは意味深に微笑んでいるような、そんな気がした。