第12話 Gランクプラン㉕【白雪セリカ視点】
「……アンリ、どうしてそう思ったの?」
「ジェネシスの異能力を増やす方法は限られているからよ。異能力の総数、異能力そのものが変わるのは、基本的には殺人ランク、もしくはジェネシスカラーが変動した時のみ。異能力を奪う異能力についてはイレギュラーだから今の話からは除外するわ」
「う、うん」
「能力を奪う異能力を使わずに、もし意図的に異能力を増やす方法を想定するのであれば、変色するタイミングに対してアプローチする必要がある。そう、“たった一つの例外”であるタイムリープを戦略的に応用して、変色を調整して異能力を増やす。もし仮に、Gランクが存在しないのであれば、創るしかない。けれども、Gランクを創るなんてことは現実的じゃない。何故ならGランクを創る具体的な方法が一切思いつかないから。しかも時間も限られているときている。それなら、現存するジェネシスによる異能力を用いてGランクを作成するというのが、現実的かつ具体的な戦略と言えるでしょう」
「ジェネシスについて、色々考えてくれてたんだね」
「ジェネシスによる異能力は、過程に対する理解を無視して結果を生み出すことができる。通常、科学や産業の世界では、結果を生み出す為には失敗を前提とした検証を繰り返すという過程を経る必要がある。でもジェネシスにはその過程をすっ飛ばす性質がある」
「……」
「でも、いきなりGランクを創るなんて考え方なんてできない。まずはGランクがあると仮定する必要があるし、無いことを受け入れた上で、創るという意思が必要。恐らく、未来のセリカはGランクを創る異能力を持っていなかった」
「それが……たった一つの例外?」
「ダウングレード戦略の本質は、時間を巻き戻した自分自身が変色した時に発生する異能力を調整すること……。これしか考えられない。異能力が生まれる瞬間は、変色時のみ。つまり、変色する瞬間を時間を遡ってやり直すことこそが、《起死回生》のダウングレード戦略なのよ……。きっとね」
「調……整」
「……恐ろしいわね。こんなことを考えられる人間がいるなんて。どれほどの高みに行けば、こんな計算ができるのか……」
「これを考えたのは、アンリじゃないの?」
「…………天才には、二種類いるの。どんなことでも9割の結果を出せる汎用型の天才と、ある一つの分野で100パーセントを超える結果を出す一点特化型の天才。私は9割の結果しか出せない。こんな計算は……私にはできないわ」
「で、でも、私にだってできないよこんなの。なんでアンリじゃできないと思ったの?」
「私はあなたの副人格の行動までは計算できない。そして、《赤い羊》の行動も読み切れない。誰よりも《赤い羊》を分析し、セリカのことを深く理解し、且つカナちゃんの精神構造を完璧に把握し尽くしていないと……無理でしょうね。9割の成果しか出せないのは計算の分として考えると致命傷になる。1割のミスは計画全体を破綻させかねないリスクに繋がるからね。私にはGランクプランは生み出せない。生み出された後のGランクプランを後追いして分析するのが、私の限界ね」
「アンリ以外の誰が……こんな壮大な計画を立案できたっていうの?」
「《赤い羊》とあなたを知り尽くしているなんて難易度の高い条件を満たしているのは、“あの子”しかいないでしょう? 恐らくはあの子も未来の情報を握ってる。だからカナちゃんのことも知ってると考えるのが自然」
「…………で、でも。私に協力するとは思えない」
「それでも“計算の天才”はあの子しかいないわ。記憶を失って消えた未来の中で、あなたとあの子は共闘してGランクを共に目指していたのかもしれない」
「で、でもそれならどうして今は私の傍にいないの?」
「“必要だから”でしょう。あの子の計算の最適解が出した答えが、ね」
「…………」
受け入れたくない。そんな事実は……。でも……。それを否定できるだけの根拠も無い。
「さて。それじゃあ、セリカ。あなたの所持能力の全てを教えて貰おうかしら。その中に、Gランクを創る為のものがある筈よ。未来のあなたが持っていなかった能力がね」
「……うん」
私はアンリに所持能力の全てを開示した。
Gランクプランは、とっくの昔に完成していたんだ。
でも、決定的に欠けているピースがいくつもあることに、その時の私はまだ気付いてすらいなかった。