第12話 Gランクプラン㉔【白雪セリカ視点】
「赤染アンリ。この状況であなたは何が見えてるの?」
「見えてるって、そんな大げさなものじゃないわよ?」
「……でも、あなたは冷静に見える。ただの楽観視とも違う、何か具体的な勝算のようなものがあるの?」
「勝算? そう、そうね。まずはそこからか。セリカ」
「な、なに?」
いきなりアンリに呼ばれて、少し焦る。
「あなたにとっての勝利って何?」
「勝……利?」
「未来絵図を描くのであれば、邪魔なノイズは排除していかないとね」
「ノイズって?」
「目的意識を明確にすることよ。曖昧な目標なんて誰も達成できない。数値化なり具体化なりある程度固めておく必要がある。今のあなたにはそれが欠けてるから、なんだか浮遊して見えるのよ」
「目的意識……」
「あなたの目標は何? 《赤い羊》を皆殺しにすること? 百鬼君を取り戻すこと? 生き残る事? 日常に戻る事? Gランクになること?」
「……どれも大事だけど、一番大事なのはGランクになることだと思う」
「死亡フラグを回避するのは、Gランクを目指すうえで障害になるからよね?」
「うん」
「セリカは運を操ったりできる?」
「できない」
「ということは。もしあなたがGランクを目指す為にループしてここにいるのだとしたら、その死亡フラグはさしたる問題じゃないのよ」
「……どうして?」
「もし死亡フラグがセリカにとって致命傷なら、それらを回避する為の異能力を持っている筈だから。でも未来から来たあなたはその能力を持っていない。ということは、Gランクになる上でそこまで大きな問題じゃないってこと」
「ダウングレードについて、アンリは何か分かったの?」
「分かったって程大げさじゃないってば。記憶を引き継げないタイムリープに本来は意味なんてない。でももし、セリカがGランクになる為に記憶を失ってまでタイムリープしたのであれば、そこには絶対に理由がある筈。確かに精神状態を巻き戻してFランクを維持するという保守的な戦略という考え方も理解できるし、その意図もあるのだと思う。だけどそれだけだとどうしても“足りない”わよね。飽くまで現状を維持して問題を先延ばしにするだけの戦略だもの。そんなものは戦略とは呼べない。結果を求めてこそ、戦略には価値があるでしょう?」
「も、もったいぶらないで教えてよ。私は何故、記憶を失ってまで過去をやり直してるのか。アンリ、何か確信があるんでしょう?」
私がずっと出せないでいた答えを、話を聞いて一瞬で整理して辿り着くなんて……。やっぱりアンリは一筋縄じゃない。
「セリカ。あなたは私に問いかけるまでもなく、今まで過ごしてきた苦しみの中で、その答えに既に辿り着いている筈よ」
「既に……辿り着いている?」
「そうよ。思い出しなさい、セリカ。今までの苦しみと記憶を」
私の脳裏に、今までの記憶が、声が反芻される。
……本気で、Gランクになれると、思ってるの? 存在しないのに?
小さな私の、問いかけるような、迷子のような声。
私を倒した褒美に、一つだけ良いことを教えて差し上げましょう。
ジェネシスを消耗する量が多いもの、代償がある異能力は他とは違う特別な異能力です。単純な効果しかないことはまずあり得ない。あなたがGランクを目指すのであれば、その力を使う他、道は無いと思います。
最期に温かく語り掛ける、マザーの声。
「存在しない、ものを、目指す、には……」
Gランクは存在しない。でも目指さなくちゃいけない。それなら……方法は……。
「一つしか、無いでしょう?」
「無いなら……創るしかない……。この手で……」
「そう、それしかないわ。ほら、やっぱり気付いてるんじゃないの」
「Gランクは、私がこの手で……創る……自分自身で……」
元々在るモノを目指す。それが通常で、当たり前の思考だ。
でも、そうじゃない。
Gランクは……Gランクとは――――
「――――あなたは、本来は存在しない筈のGランクを生み出す異能力を得て、自分の手でGランクを作る為に、未来と記憶を捨ててここにいるのよ。全ては必要な過程だった。そう考えるしかない」
アンリは嬉しさと悲しみが綯交ぜになった微笑を浮かべて、そう言った。