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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第12話 Gランクプラン㉓【白雪セリカ視点】

「さて。さっきかいつまんで聞いたけど、状況をもう一度おさらいしてくれる? 多分このペースで話を進めてると時間切れになっちゃうんじゃない? あと一日半しかないっていうのも気になるところだし」

「あ、うん。そうだね。じゃあ、情報共有したら作戦会議の進行役もお願いしちゃってもいいかな?」

「いいわ」

 私はアンリと別れてから今までの出来事の全てを省略せず説明した。途中、シスターが補足してくれたり、仮説や《未来予知》の情報も話して、私の知っている全情報をアンリに共有した。時間が無い理由も含めて。

 確かに、私が話し合いを進行すると無駄に時間がかかってしまうような気がする。ここはアンリに全て任せてみた方が効率よく上手くいくかもしれない。さっきから同じような思考回路をループしているような気もするし……。

「なるほど。大体分かったわ。」

 アンリは二つ目の食べかけのハンバーガーを机に置いて、思案顔になる。

「カナちゃんの予知した黒い雨が一番近い未来の死って訳ね」

「そうなるわ」

「黒い雨っていうのは、ここに引きこもっててもダメージとして有効なの?」

「この空間は透明で誰にも知覚することはできない。他のジェノサイダーも含めて。ただし、ジェネシスによる攻撃を受ければ、空間そのものを破壊することは可能よ」

「この空間って、内部からも壊せるの?」

「……基本的には壊せない筈よ。ただ、SSSの強い能力で暴れられれば壊れるかもしれない」

「外側と内側、どっちの方が脆いの?」

「外側ね」

「なるほど。じゃあ防御障壁みたいな感じでは使えないって訳ね。カナちゃんって防御に特化した異能力って何か持ってたりする?」

「……ない、わね。強いて言うのであれば《時間停止》による他者を強制的に行動不能にする異能力ぐらい」

「黒い雨の突破口に使うつもりって訳?」

「よく分かったわね」

「この空間が誰にも知覚できないにも関わらず黒い雨に打たれて私達が死ぬのであれば、その攻撃は超広範囲で無差別的ということになる。そんな攻撃を防ぐのであれば、それ相応の能力が求められる。確かに《時間停止》という能力があるのであれば、黒い雨を止めることは可能ね」

「ただし、《時間停止》を使えるのはメアリーのみ。でもメアリーはマザー程のジェネシス量を保有してない。だから《時間停止》を使えば暫くは使い物にならなくなる。戦力としては考えないでほしい」

「私、カナちゃんの見分けがつかないんだけど、結論から教えてもらえる? 戦える人格は何人で異能力は何を扱えるのか」

「分かったわ」

 シスターはアンリに事細かに情報を共有し始める。

 す、凄い……。

 二人に会話を投げた途端にこのスピード。

 テンポよく一気に話が進んでいく。

 私は黙々と二十五個目のハンバーガーを食べながら二人を見守っていた。

「オッケー、信頼してくれてありがとう。それにしてもあなた達、相当な量の異能力を所持しているのね」

「さっきも言った通りメアリーはほぼ戦力外になる想定。まともに動けるのは私とアルファだけと考えて頂戴」

「それで十分よ。《時間停止》、最強の異能力だと思うのだけど、それを使っても《赤い羊》は止められない想定なの?」

「ええ」

「《未来予知》って、現時点の状態からしか未来を見られないの? ある予測を立てて、その予測の元行動すると想定した場合の、想定予知はできる?」

「可能よ。でも想定未来予知で未来が変わったことは今までに一度も無い。つまり、生半可にその未来を変えることはできないということ。死の未来は、いくつもの因果が重なって生まれる結果だから。予め決められている“運命”のようなものと言ってもいい。それを変えるのであれば、一つの行動を変えるなんて単純な修正では済まない。そして、セリカの場合は死の未来が並行して6つもある。1つの未来を潰すだけじゃ駄目なの」

「……ちなみに、私の未来も見えてるって訳?」

「言いにくいけど、そうね。この際だから敢えてはっきり言うわ。赤染アンリ。あなたの未来は二つ。黒い雨に打たれてしぬ未来と、ヒキガエルに殺される未来。脳と異能力を奪われ、絶命する」

「なるほど。その未来が見えているからこそ、《時間停止》を使っただけでは《赤い羊》を皆殺しにはできないことが分かってるって訳ね」

「そういうことになるわね」

「ちなみに、あなたは自分の未来は見えるの?」

「見えないわ」

「……私の未来は、黒い雨に打たれて死ぬ光景だけではないってこと?」

「未来の想定で私は《時間停止》を使って黒い雨を止めると決めている。私は自分の死は見えないけど、自分が動いた結果変わる未来を想定して予知することは可能よ」

「黒い雨の未来を防ぐのに《時間停止》というたった一つの異能力を使うだけでその死亡フラグを殺せるのであれば、運命って呼ぶほど強力な因果ではないと思うんだけど?」

「私も最初はそう思っていた。でも……」

「でも?」

「一つの死亡フラグを《未来予知》して予防したとしても、ほんの少し先の未来で新たな死亡フラグが現れるだけなのよ。事実、黒い雨を防いだ後、あなたはヒキガエルに殺される訳だし」

「つまり、黒い雨を防ぎ、ヒキガエルに殺される未来を防いだとしても、その先に新たな死亡フラグが現れて死ぬだけと言いたい訳ね」

「そう」

「あなたの《未来予知》って、まるで死神ね。死を防いでも防いでも、次の死がやってくるだけ。結局はほんの少し延命するぐらいが限界なのかしらね」

「赤染アンリ。あなたはヒコ助に殺された。でも《死者蘇生》で生き返った。でもまたすぐに黒い雨という死の未来がやってくる。それを防いでも、ヒキガエルによる死が。ヒキガエルの死を防げたとしても……」

「私は死ぬって訳……」

「そ、そんな……」

 初耳だ、そんなの。

 私は呆然と思考がフリーズして、一気に食欲が失せていく。

「セリカ。あなたには6つの死亡フラグがある。仮にこれを全部防いだとしても、あなたは近い将来死ぬことになる」

「私の死を確信してるんだね……。だから、アンリを生き返らせる時も、止めなかったんだね。諦めていたから」

「…………」

「確かに、6つの死亡フラグはGランクまでのタイムリミットと考えてよさそうだね。私は本来、リリーに殺されて死んでる。その未来を……ううん、過去を防いで今私はここにいるけれども、死の未来は依然としてすぐそこにある。確かに……これは絶望だ。こんな状況の中、私は……Gランクを……目指しているんだね」

「それでも、諦めないんでしょ?」

「うん。私は……諦めないよ」

「それで、カナちゃん。《赤い羊》もその目であなたは見たんでしょう? 彼らの未来を、あなたは」

 私たちにとっての死神は、見方を変えれば《赤い羊》にとっても死神だ。

 シスターはその目で、《赤い羊》の全員を見ている。

 それに、先輩と透は一度死んでいる。だから、先輩と透にも近い将来また死ぬことが確定している。死は、良くも悪くも平等なんだ。

「……残念だけれど、彼らに死は訪れない」

「どういうこと?」

「《未来予知》は死という運命を見る異能力。でも、《赤い羊》には“運”を操る異能力者がいる。運を操れるということは、運命すら操れるということ。セリカの死亡フラグの一つで、その男は運を操ってセリカを殺す」

 シスターは一瞬だけ躊躇いがちに私を見ながらも、次の言葉を口にする。


「――――それが百鬼零の蘇生体、ゼロよ」


「つまり今の話を纏めると、いかに運命を欺いて《赤い羊》側に死を押し付けられるか、運を奪い合う戦いってことか……。なかなか大変そうね」

 言葉とは裏腹に、アンリは二つ目のハンバーガーを平らげて、アイスティーをストローで吸いながら不敵に微笑っていた。


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