第12話 Gランクプラン㉒【白雪セリカ視点】
「作戦会議もいいけど、まずは状況を把握しておきたいわね。まず、ここはどこなの? そこから私には分からない訳だけど」
「あー、うん。そうだね。シスター、解説お願い」
「これはメアリーの異能力、《幻想庭園》。一言で言うのであれば、空間を作り出す能力。私たちは今、疑似空間にいる。但しこれはただの空間能力に過ぎない。時間は切り離せないから、現実と同じように時間は過ぎる」
《唯一無二》のように時間を切り離して空間を作る能力ではないらしい。確かにあれは物凄く強力な異能力だった。その分ジェネシスの消耗も激しそうだったけど。
「それは便利ね。じゃあ例えば、逃走用に使えたりもするの?」
「使えるけど、限定的ね。《幻想庭園》の出入り口は、直前に設定した場所になり、設置する座標を変えたい場合はその地点まで使用者である私が移動しなければならない。また、瞬間移動の効果は無いので、未知の場所に移動することはできない。イメージとしては、予め設置する場所でしか出入口は開けないけど、その場所まで移動できれば逃げ隠れする機能としては有効よ。でもメアリーでないと出入口は開けないから、あなた達単体で使うことはできない。出入り口の座標は三か所まで設定することができるから、私さえ同行していれば最悪の場合は逃走経路として考えてもらってもいい」
「へぇ、これは使えそうね」
アンリは妖しく微笑うので、私は気になって尋ねる。
「使える?」
「《赤い羊》を狩るのであれば、一人のみを上手く《幻想庭園》の出入り口に誘い込み、閉じ込めて、三人で殺す。この策が使えれば、相当楽に確実に一人始末できるわ」
滅茶苦茶卑怯だけど、確かに有効な手ではある。
私は十二個目のハンバーガーに手を伸ばしつつ、考える。
《赤い羊》相手に、綺麗ごとばかり言ってられない。勝つことだけを目的とするのであれば、有効な戦術だ。
「情報量が少ないから印象だけでにはなっちゃうけど、二人に聞いておきたい。透以外で一番強いのは《赤い羊》で誰だと思う? シスター、未来の話は今はナシね。この議題は後にするから」
「分かったわ」
「それで、誰だと思う?」
「ヒキガエル……かしらねぇ」とアンリ。
「いばら姫」とシスター。
「花子、かなぁ」と私。
……見事にバラけたな。
「まずはアンリ、理由を聞いても?」
「直感としか言えないわね。直接対峙して、一番“底”が見えなかった」
「ヒキガエルと会ったの?」
「少し話した程度だけど、異能力のいくつかもこの目で見たわ。捕食した死体ジェノサイダーの死肉を食らい、異能力を一つだけ“奪う”異能力《食物連鎖》を使っていた。あの殺人鬼は無限に成長し続けるポテンシャルがある」
「異能力を奪う異能力……。確かに、自分で言ってたね」
今更だけど、リリーの姿に化けていたアイツは、リリーの異能力を奪ったのだと考えるのが自然だ。
「リリーの力も吸収されたってことか……」
「それ、本当?」
「うん。私もヒキガエルと直接会う機会があったけど、リリーの姿をしてたよ」
「リリーの異能力は部分的にしか見ていないけど、セリカは全部把握してる?」
「リリーが私達との戦闘で全異能力を使ったのであれば、《発狂密室》、《拷問遊戯》、《五感奪取》、《快楽器官》の四つだね」
私はホワイトボードにリリーの能力を書いていく。
・《発狂密室》ジェネシスで密室を作り出し対象を閉じ込める能力
・《拷問遊戯》指定した拷問器具を具現化する能力
・《五感奪取》指さした人間の五感の内どれかを指定して、喪失させる能力
・《快楽器官》ジェネシスをサソリの尾のような形に変形させ、貫いた相手の性的欲求を刺激して永遠に絶頂させ続けて発狂させる能力
「リリー、四つしか所持能力が無いのに、こうして見ると滅茶苦茶ヤバいわね。本当にセリカはこいつを単独で殺せたの? 凄いわね」
「必死だったよ。戦術も何もあったものじゃない。ただただ必死だった」
「今の私でも単独で仕留められるかどうか……微妙な所ね」
「でも、リリーの所持能力であるこのうちのどれか一つを、ヒキガエルは奪ったってこと……だよね」
冷静に考えると恐ろしい。
リリーの異能力はどれも強力なものばかりだ。この内のどれか一つでも使えるのだとしたら、それだけでも相当強い。
「ヒキガエルは……無限に成長し続ける……殺人鬼……か」
アンリの言葉は的を射ている。
たとえば私が透を倒したとしても。
ヒキガエルが透を食べて能力を奪ったら、いきなり透と同じぐらい強くなる可能性があるということだ。
そして、考えたくも無いけど。
先輩をヒキガエルが食べて能力を奪ったら、先輩の力も使えるようになる……。
「確かにヒキガエルは……最優先で討たなきゃいけない相手かもしれないね……」
――――成長して手が付けられなくなる前に、何としても。