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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第12話 Gランクプラン⑳【赤染アンリ視点】

「さて……何から話しましょうかね」

 セリカを退出させ、私と西園寺要だけの空間となる。

 目の前の西園寺要を見据える。

 かつての化け物じみた狂気と死の気配は鳴りを潜め、清廉でいてどこか怜悧な印象を受ける。

「かつてあなた達と敵対していた人格は消滅した。だからといってすぐに割り切れるものでもないでしょうけど、今の私達はあなたに敵意はないとだけは言っておく」

「……」

 確かによく聞くと声色、表情、目つき、全てから受ける印象が違う。さっきのセリカの説明で西園寺要が多重人格者であることは知らされているものの、半信半疑にはなる。

「まぁ、別に。さっきも言ったけど、殺人カリキュラムでの敵対関係については私もそうだからとやかく言うつもりは無いわ」

「……その割に、警戒心丸出しね。私は建前とか、言葉の裏に隠された意図を探るとか、そういう迂遠で面倒なのは嫌い。言いたいことがあるなら、ハッキリ言ったらどう?」

「……」

 言葉遣いも性格も違う。

 日常生活を送っていた頃の西園寺要から受ける、物静かな印象とも異なる。

「では、お言葉に甘えて」

 私はそこで一つ言葉を区切り、はっきりと口にする。


「――――かつて敵だったあなたは“何故”セリカの味方になったの?」


「……それは、無理やりセリカの副人格に契約させられたから」

 私から目をそらし、西園寺要は落ち着かないように右手で左腕をさすっている。

「あなたはどうなの? あなただってかつてはセリカの敵だった筈。私と違って、無理やり制御下に置かれた訳でもない。なのに何故、あなたはセリカについたの?」

 西園寺要は早口で問いかけてくる。まるでさっきの話題を変えようと躍起になっているような印象を受ける。

「セリカは、生まれて初めて、私の心に価値を見出してくれた人だからよ」

「……心に、価値を?」

「人間には常に“利用価値がある道具”としての側面がある。何が得意で、何が出来て、何が人よりも優れているか。求人票を開けば、どういう人材を企業が欲しているのか、応募要項が書いてあるでしょう? 大学や高校だって、合格基準に満たない受験者はハジく。求められる道具としての価値が無い人間は淘汰されるのが社会の縮図。そして私は常に利用できる道具として価値を評価されてきた。大企業の跡継ぎとして、ね。人間とは道具なの。そしてそれは私も例外じゃない」

 そう言って私は、目を閉じて血液をイメージする。


 《朱色満月》――シュイロマンゲツ――


 小さな丸い球体が、天井の付近をフワフワと浮遊する。

「“命とは道具”。その思想を体現したものが、私のあらゆる人間の血液を操る異能力。自分の血も含めて……ね」

「悲しい思想だと思うけど、別に憐れんだりはしないわ。むしろあなたはその分多くの人間に必要とされ、恵まれているという見方もできる」

「別に同情を誘ってこんな話をした訳じゃない。クラスメートとして過ごしてきたけど、お互い本当のところは何一つ理解し合えてないじゃない? だから私の話を少ししておきたいと思ってね。心理学でいうところの、自己開示ってやつよ。よく分からない人と仲間にはなれないじゃない? お互いにね」

「……」

「さて、話の続き。でも私の価値観が崩れる出来事が起きた。白雪セリカが現れたのよ」

「……」

「私に道具以外の価値を心の中に見出すなんてことは、あの子にしかできなかった。ま、我ながら単純な話よ。だから私は何を犠牲にしてもセリカに付こうと思った。人間とは道具。そんな思想の私に心と価値を見出した人が目指す景色を、私も一緒に見たいと思った。長くなったけど、これがさっきの質問の答えよ」

「赤染アンリ。私はあなたほど高尚な理由でセリカについている訳じゃない」

「まぁ、さっきのあなたの答えは、あなたの嫌いな“建前”だものね」

 さっきの西園寺要は、嘘をついた時特有のサインのようなものを出していた。なので、確証はないが鎌をかけてみる。

「……そうやって人の心を見抜こうとするのは不快」

「ごめんなさい。ついクセでね」

「……単一人格であるあなたには理解できない話だから、敢えて語らなかった。あなたの価値観に当てはめて話すのであれば、多重人格者にはそれぞれ“役割”が与えられている。あなたの言うところの道具としての利用価値と考えてもらっていい。私の役割は、主を守ること。でも主がいない私には、一生涯その役割は果たせない。私は生まれながらの死体だった。役割があるのに果たせない、道具以下の存在。でも、私には新たな役割が与えられた。白雪セリカを主として守ること」

「なるほど、それがあなたの価値観な訳ね。でも……それにはいくつか穴があるわね」

「……何?」

「セリカの目指す場所には、《赤い羊》の骸の山と、Gランクがある。もしセリカが《赤い羊》に敗れて死んだり、Fランクではなくった場合、あなたはどうするの? それから、あなた個人としてではなく、他の人格の考えも聞きたいわね」

「他の人格の意志も私の意志も変わらない。アルファもメアリーも白雪セリカに希望を見ている。セリカを守ることは、私達の総意として捉えてもらっていい。では、嘘偽りなく答えるけど、あの子が《赤い羊》に敗れて死んだ場合、私は“死の母”を再び目指す。他の人格が欠けてしまったけど、アルファとメアリーと私だけでもその悲願は達成できる。そして、セリカがGランクになれずFランクですらなくなった場合……。SSSの黒へと至った場合。私があの子を殺す。そういう契約よ」

「…………」

「赤染アンリ。その質問、そのまま返すわ。あの子が死んだら、あなたはどうするの?」

「セリカは死なせないわ。何を犠牲にしてでも」

「……答えになってないわ。まぁ、いいけど。それじゃあ、あの子がSSSになったら、あなたはどうするの? それでもセリカにつくの?」

「…………そう、ね」

 セリカがSSSになった場合。想定していなかった。いや、想定したくなかった。これが、バイアスか……。信じたいものしか信じられない人間の、いや私の弱さ。

「セリカがSSSになる可能性は決して低くない。《赤い羊》と戦うとはそういうこと。だから私はこうなる前に止めたかった。あの子は《赤い羊》と殺し合うにはあまりにも優し過ぎる」

「……」

「それから。セリカは言わないでいるけど、敢えて私から伝えるわ。《死者蘇生》の異能力は一度しか使えない。本来、百鬼零に使うこともできたこの異能力を、セリカはあなたを蘇生する為に使った。あなたの命は、決して軽くない。それだけは伝えておく」

「一度……しか……?」

 それは初耳だった。セリカは、何故……そんな大事な力を私に……。

「あなたが私に疑念を持つのは理解できるし、それでいいと思う。それに私はどう足掻いてもセリカには逆らえない。あなたがどうしても私を信じられないなら、裏切りを確信した時点で殺してくれて構わない。でも、私はセリカがSSSになるまでは、セリカの味方であることを約束するわ」

「自分の命に、価値を感じないの?」

「それはお互い様でしょ?」

「お互いに、変わり者みたいね」

「同意するわ」

「フッ……」

 思わず苦笑してしまう。

 セリカの周りに集まる人間は、一癖も二癖もあって面白い。

「ま、いいわ。それで、西園寺さん、あなたのことはこれからなんて呼べばいい?」

「べつに。今まで通りでいいわ。どうせ見分けはつかないでしょうし」

「そうねぇ。今までも分からなかったし。じゃあ、カナメちゃんで」

「カナメちゃん……」

「カナちゃんの方がいいかな? 短くて呼びやすい」

「カナちゃん……」

「じゃあ、改めてよろしくね。カナちゃん」

「……よろしく」

 カナちゃんは微妙な顔をしながらも、なんとか打ち解け合う? ことができた私達であった。


調子が良かったので連投しましたが力尽きたのでまた今度。

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