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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第12話 Gランクプラン⑱【白雪セリカ視点】

「目が、覚めたみたいだね。上手くいったみたいで良かった」

 二時間程度気絶した後、私はアンリの様子を見に行った。シスターも同行しているが、気配を殺していて無言だ。

 見に行ったのは、ジェネシスの気配を感じたからだ。私の《気配察知》は、殺気を感じ取るだけの単純な異能力だったけれど、時間が経つとともに精度が上がっている気がする。

 この力には将来性がある。ゆくゆくは、遠距離にいるジェノサイダーを特定して探知できるようになるかもしれない。

 この力の真意は、《赤い羊》を一人も逃がさずに皆殺しにする為のものなのかもしれない……。

 アンリは生前と変わらない姿で、そこにいた。

 ベッドに横たわる姿で、薄っすらと目を開けている。

「……ん」

「起きられる? どこか痛んだりとかは?」

「…………大丈夫よ」

 アンリは起き上がると、私たちを一瞥した。

「……頭がぼぉっとする、わね。長い、夢を見ていたような気がする」

「水、飲む?」

「ええ、ありがとう」

 私は冷えたペットボトルのミネラルウォータ―をアンリに手渡すと、アンリはコクコクと喉を鳴らし一気に飲み干してしまった。

「おかわりいる?」

「大丈夫」

「そっか。……アンリ、ありがとう。それから、ごめん」

「……?」

「あなたが死んだのは私の弱さが全ての原因。もう二度と、こんなことにはさせなから」

「……死、んだ?」

「……起き抜けで悪いけど、少し質問させて。今までのことを思い出せる?」

「今までの、こと?」

 ぼんやりしていたアンリの目の焦点が、次第にはっきりと私を見るようになる。

「そうえば……私、死んで……。でも、なんで……?」

「結論から言うと、私のジェネシスの異能力で、アンリを蘇生したの。だからアンリは死んでから生き返ったことになる」

「…………思い出してきた」

 アンリの声がハッキリする。

「私は、あなたに伝えなくちゃいけないことがある」

「?」

 アンリは死んでからの断片的な記憶を、たどたどしくも語り始めた。


      ♦♦♦


 アンリの話をまとめると……。


 死後の世界には“神”のような存在がいた。

 “神”のような存在は言った。

・人間はどう足掻いても《全知全能》にはなれない

・Gランクは存在しない

・仮にあったとしても万能の力ではない

・何かを諦める必要がある


 アンリの記憶は混濁しており、“神”の顔、声、姿、一切を思い出せない。また、どういう場所だったのかも曖昧で、記憶も断片的。他にも様々な会話をしたが、それも思い出せないとのこと。

 普通なら夢でも見ていたとしか思えない話だけれど、アンリは“死後”から来たことは事実。安易に聞き流すことはできない。

「実在していたんだ……神様って……」

 正直半信半疑だった。もしこの世界に本当に“神”が存在するのであれば、《赤い羊》のような存在に天罰を下すことなく、放任していることになる。むしろジェネシスを与えた可能性すらあり、人間にとって害意があることは疑えない……ということになる。

 それならむしろ、神様なんていない方が……人間にとっては救いだ。

 人間が想像するような神様は、全てを愛し、慈しみ、救うような存在だ。

 でももし神様の本質が人間を蔑み、蹂躙し、破壊するような存在であるのなら……。

「……っ」

 人間は、“見限られて”いるということに他ならない。

 だが、納得もできる。

 長い人類史で人間は恒久的平和を実現することができなかった。知恵を持ち、文明を育み、愛という感情すら持ち得ながら、“奪う”ことでしか自己実現を目指せない愚かな動物だ。戦争、紛争、飢餓、犯罪を克服できなかった。こんな生き物を救おうとは思えないのも納得できる。

 日本という小さな国の個人間ですら、他者よりもお金を稼ぐことに躍起になっている人間が殆どだ。資本主義の宿命かもしれない。

「……リセット」

 天啓のように閃く。

 ジェネシスの本質は、殺人なのではなく、リセットなのでは?

 地球を汚す人類を一掃し、新たな種に知恵と成長のチャンスを与える為に、人類が邪魔になった。人類駆除の為に、人類にジェネシスを与え、同士討ちをさせる。

 人間の敵はいつだって人間だ。人間に人間の掃除をさせる。その為にジェネシスが生まれたのだとしたら……全ての辻褄は合う。

「……唯一の矛盾は、Fランク」

 人類一掃がジェネシスの目的なのであれば、Fランクのデザイン性には矛盾しかない。SS、SSSは殺人に特化した異能力者だ。彼らが数人いるだけで、途方もない数の人類を死滅させることができる。だが、Fランクだけは違う。

 Fランクは、SSSを討つことができる唯一の存在。

 SSSとSSSも同格なので殺し合うことは可能だが、彼らの目的は殺人を前提とした何かであり、その目的が競合しない限りは敵対することはない。とはいっても、FランクではSSSと対等に渡り合うだけしかできない。SSSを超える程の力は無い。戦ったことはないものの、結とデルタにも、勝てる気がしないし……。

 となると、やはり最後のカギはやはりGランク。

 Gランクであれば……もっと違う……何かが……。

 人間はどう足掻いても《全知全能》にはなれない。Gランクは存在しない。仮にあったとしても万能の力ではない。何かを諦める必要がある。

 ……足りない、致命的に。

 今の私ではGランクの断片にすら届かない。

 未来の私には……見えていたのだろうか? Gランクが。記憶を代償にしてまで、その上で時間を巻き戻すことに意味があるのだろうか?

 ……いや、必ずある。

 “神”が存在することが分かっただけでも、物凄い前進だ。

「アンリ。起き抜けで悪いんだけど、私達には時間があまりないんだ。あと一日半で、《赤い羊》との総力戦になる。それまでに、できるだけ準備を整えておかなくちゃいけない。私は……Gランクを目指す。アンリにも、戦ってほしい。力を、それから知恵を、貸してくれる?」

 私はアンリに手を差し伸べる。

「……ふっ、最初を思い出すわね」

「最初?」

「あなたと私が初めて手を組んだあの時よ」

「……そんなこともあったね。ほんの数日前のことの筈なのに、昔のように思えるよ」

 先輩を失い、結とは決別し、かつてピュアホワイトだった私はもう思い出せない程に風化しているけれど、それでも私はまだ生きてここに立っている。

「セリカ、初めに言っておく。私は正義や善とは程遠い存在。恐らくはGランクとも。私は目的の為なら手段を選ばない。どんな手を使ってでも、目的を達成する。あなたがGランクを目指すというのなら、その道にどれほどの骸の山を築こうとも私は厭わない。セリカ、私が死んだのは私に僅かな“優しさ”が残っていたから。でももうそんなものは捨てる。非情になる。そういう意味では、《赤い羊》と私は変わらない。それでも、私の力を必要としてくれる?」

「……うん」

 アンリは“必要”だ。Fランクとしての勝ち筋を捨ててでも掬い取ったアンリの命は、絶対に無駄にできない。

 Gランクプラン、6つの死亡フラグ、課題は山ほどあるが、ひとまずアンリ生還は達成できた。希望はまだ、残ってる。

「ありがとう、アンリ」

「……乗り掛かった舟よ」

 アンリと握手し、私は未来へ思いを馳せる。

 でも私たちには、未来が無い。

 未来を作る為にまずは、最初の死亡フラグ。


 ――――黒い雨を、突破しなければならない。


再投稿してます。

新しいUI使いづらいですね(笑

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