第1話 殺人カリキュラム⑱
《鮮血時雨》――センケツシグレ――
花子の右手から、ジェネシスがマシンガンのようにうねり、赤染と透もろとも強襲する。
「――――っ」
赤染は両足にジェネシスを纏うと、一気に跳躍し、弾道から逃れると、射撃が終わると共に床へと着地する。花子のパープルジェネシスの弾丸は、やはり透のジェットブラックジェネシスにはじかれる。そして、体育館の壁にぶち当たるり、穴が開いた。
「おぉ、花子ちゃんこわ。私の《発狂密室》を破るとかガチ過ぎ。透さんに、能力だけなら6人中最強のいばら姫ちゃんより評価されてることはあるね」
「ふん、つまらないこと言わないで。どうでもいい」
リリーが感心したように花子を褒めるが、花子は不快そうに鼻を鳴らすのみ。
「いつまで遊んでいるつもり? 透」
花子が透を睨み、透は指をパチンと鳴らす。透を覆っていたジェットブラックジェネシスが霧散する。
「いいだろう、このぐらい。彼女は見込みがある。少し観察したいんだ」
「この短時間で形態化と身体能力強化まで使いこなす才能は認めるけど、一人にかまけて遊んでいる時間は無いわよ」
「ああ、そうだったね」
「赤染アンリ。透はアンタ如きには殺せない。それが理解できたのなら、少し大人しくしていなさい。それでも私達の進行を邪魔するというのなら、私が直々にお前を潰してやるわ。選びなさい? 受諾か、死か。好きな方を」
「…………」
赤染は不満そうに目を細めると、壇上から降り、列に戻った。
それから、暫く。
何事もなく二年の生徒の名が呼ばれ、ジェノサイダーとなっていく。赤染のように無謀にも透を殺そうとする者はいない。
……まあ、当たり前だ。首を撥ねても死なない。そんな化け物を相手に、どうやって戦えと言うんだ?
「百鬼零」
俺の名が呼ばれる。緊張が走るが、セリカの時に比べれば安いものだ。俺は壇上へ上がり、透の正面へと立つ。
「……ふむ」
透は値踏みするように俺を見据え、頷く。
「君は”何か”を隠しているね。それも、精神的なものだ」
ゾクリ、とする。透は一瞬で俺の人間性を見破り、揺さぶりをかけてきた。だが、態度には出さない。無表情に、透を見据え返す。言葉も返さない。下手な反応は、より多くの情報を露出させるだけだ。
「その”何か”次第では、君は化けるかもしれない。花子が言っていた”可能性”は、そこにありそうだね。君は実に、不可解な人材だ。伸びしろが見えない」
花子? 花子は俺のことを知っているのか?
俺は首を巡らせ、花子を見る。花子は不敵な笑みを浮かべ、見つめ返してきた。
――――っ。
不覚にも、心臓がトクンと、甘く高鳴る。初恋の女と不意に再会したような、懐かしさと甘いトキメキ。こんな、血のニオイしかしない女なんて、俺は知らない筈だが……。
「…………」
「…………」
目はあっているが、お互いに何かを語ることはない。そして、この沈黙を懐かしく思う自分がいる。
ああ、そうだ。知っている。何故か直感した。
俺は、こいつを知っている。
視界にノイズが走り、花子の姿がブレる。




