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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第12話 Gランクプラン⑮【赤染アンリ視点】

「お、そうじゃそうじゃ、うっかりしておった。この姿で会う時はまず先に、お主に聞かなきゃならんことがあってのぉ」

 好々爺は顎の白いひげを撫でながら、目を細めて微笑みの表情を作る。

「……なんでしょうか」

「緊張しておるのぉ。何、取って食いやせん。そこは安心してよいぞ?」

「……はい」

 全く油断できない。かつてないプレッシャーに全身の神経が悲鳴を上げている。とにかく逃げ出したいが、身体が金縛りにあったかのように動かない。たとえ動けたとしてもこの特殊な空間からどう逃げればいいかも思いつかないことに変わりはないが。

 ただ目の前にいて対話しているだけなのに、心臓が握り潰されるかのような息苦しささえ覚える。透が可愛く見える程に、目の前のお方は……計り知れない。見るだけでも目が何故か痛くなる。殺人カリキュラムでの経験値が無ければ、プレッシャーに呑まれ呼吸すらままならなかったかもしれない。

「呼びつけておいてスマンのぉ。なぁに、時間は取らせん。簡単な質問を一つするだけじゃ」

 好々爺は人差し指を立てて、柔和な微笑みを浮かべる。


「――――他の生物と比べた時。“人間の価値”とは何じゃと思う?」


「人間の……価値、ですか?」

「複数答えるのは禁止じゃ。一つの単語のみで答えよ。なぁに、正解も不正解も無い。どれも正しく、どれも間違っている。儂が知りたいのは、お主の言葉による、お主の答えじゃ。じゃが、“必ず”答えよ。沈黙も同様に禁止とする。他の生物の定義に対する解釈も全てお主に委ねることとする。簡単じゃろう?」

「…………」

 人間の……価値、か。

 なんて……難しい質問……。

「そのご質問に答える前に……。そのご質問に答える意味を教えて頂くことは可能ですか?」

「随分下手に出るんじゃのぉ。儂をそこまで恐れることができるということは、お主もなかなか高い霊性を持っているのやもしれん。まぁそれでも並と比べてマシ、というぐらいの小さなものじゃが」

「霊性?」

「ふっ、こちらの話じゃ気にするな。さて、質問の意味、か。まぁこれも簡単な話じゃ。お主は芸を仕込む以外で、猿や虫と真剣に言葉を使って対話しようと思うかね?」

「い、いえ……」

「気が合うのぉ。儂も“そう”じゃ。お主と対話する価値が、お主自身にあるかどうか、儂にはまだ判断がつかなくてのぉ。少なくとも、儂の質問に対する答えでお主の価値は“知れ“る。だから好きに答えよ。”その後“は儂が判断する」

「…………」

 なんて……傲慢な回答。だが、思わず納得してしまう。

 目の前の存在はそういう存在だ。

 それによくよく考えると傲慢という言葉は、得てして、本来相応しくない者が謙虚さを忘れた時に使う言葉だ。

 だが、“そうでなかった場合”は? 傲慢という言葉は不適切だ。

 人間が猿や虫を見下す時、傲慢と言う言葉は使わないのと同じように。

 目の前のお方は人間という存在を見下している。そしてその認識は、合っているのだろう……。

「……私の価値を計るということは、あなたにとって、人間の価値は人類全体に対する絶対評価ではないということですか?」

「無論、その評価もある。が、今はお主のみに焦点を当てている。黄泉送り以外では普段しないことなんじゃがのぉ。これも気まぐれというか、巡りあわせじゃの! お主らが言うところの運というやつか」

「人の価値はそれぞれ違うのですか?」

「儂らの価値観じゃと理解できんじゃろうて。お主らの価値観に例えて価値を語るのであれば、お主らの大好きな“カネ”が一番分かりやすいじゃろうなぁ」

「お金……?」

「お主らの現世では、人間の価値を“カネ”に替えて測るじゃろう? これ以上語るのも面倒じゃ。お主なら今のこの言葉だけで全て理解したじゃろうて」

 ……なるほど。人間の命は金に換算することができ、それで価値を測る。それが……人間社会の縮図だ。年収、保有している株、土地、建物、財産、資格、職業、経歴。時には容姿すらも金に替える為に芸能活動をしたり売春したり、容姿を餌に金持ちと結婚することもある……。べつに容姿に限らない。殆どの才能と努力に対しても言える。趣味を除いて、勉学に励むのも得意分野を磨くのも、それを最終的に金に替える為だ。人の命は、金に換算することができる。そしてその金額で“人間の価値”を決める。それが……人間という動物が定義する“価値”だ。そして、そんな摂理を否定してしまえる人間は、金を自分で稼いだことが無い人間か、あるいは金の価値、生存することの残酷さを全く理解していない人間の戯言とも言える。まぁ、私も偉そうなことは言えないが。

「まぁ、この辺でよいじゃろう。話の本筋とは関係ないんじゃし」

 好々爺は高らかに笑うと、静かに目を細めた。

「質問の引き延ばしもそろそろよいじゃろうて。そろそろ“答え”を聞こうかの」

「……っ」

 見透かされていたか。

 途端に、先ほどの質問の重みが増す。

 正解も不正解も無い。その認識自体は正しい。

 だが……。

 取り返しがつかない。ここで私の価値がゴミクズ以下だと判断されてしまえば、何かの可能性がここで完全に潰える。直感だが、そんな気がする。

「人間……の、価値……」

 思考に全てを委ねるが、その肝心の思考は闇の中だ。

 私は唇を噛み、必死に答えを出す為、思考を巡らせた。

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