第12話 Gランクプラン⑭【赤染アンリ視点】
「……ここ、は」
ひどく、頭が重たい。
意識がぼやけていて、はっきりしない。
地面は芝生のようで、辺りを見回すと、蓮の花が目に入る。白、ピンクが咲き誇っている。今まで見たことが無いほどそれは綺麗で、見とれてしまう。
それから、オアシスのように、綺麗な池もある。空は雲一つない青空で、太陽が眩しい。
そして、池の向こうには……門がある。
いや、その前に。池に……誰かいる。
「目が覚めたようじゃなぁ……。おぬしがここに来ることは予想外じゃったがのぉ」
縫い目の無い、白い和服を着た好々爺が池で釣りをしていた。
「……あなたは?」
「さぁの。儂がどう見えるかは、お前さん次第じゃから……何とも言えんの」
「…………」
頭を整理する。
私は……死んだはずだ。
ヒコ助の《支離滅裂》の爆発に巻き込まれ、私は死んだ。
なら……ここはどこだ?
そして、私は今、どういう状態なのだろうか?
「まぁ、そう時を急くでない、若いの。お前さんにとって、今この時が最後の憩いの場となるやもしれんのじゃから、ゆったりと過ごせばよい」
好々爺は後ろ姿のまま、私に語りかけている。
「……あなたは、“神”……なのですか?」
「フフ、何度も同じことを聞かれるものじゃなぁ。儂の正体なんぞ、どうでもいいことじゃろうに」
「何度も……? あなたは、人間と何度も会ったことがある、ということですか?」
「”今回”に限っていえば、“この場所”で会ったのは、お主で二人目じゃなぁ」
……今回? この言い方だと、前回があることになる……が。それよりも――――
「……別の場所も、あるのですか?」
「全てはお主たち次第じゃ。お主達が光を目指すか、闇へと堕ちるか。環境、時代、人、言い訳できる外因はいくらでもある。じゃが、どう成るかを決めるのは全てお主達次第。どう在るか、どう成るか、これらはどうあっても、他者が決められることではないのじゃからのぉ。でなければ自我など、必要あるまいて」
「……ここは、光の場所、と?」
「良い理解力じゃ。じゃが、焦るなと言ったばかりじゃろうて」
一瞬、景色が“ブレ”る。
目の前の好々爺は黒い人の形をした何かの塊に代わり、池は赤へと変色。釣り糸には人間の生首が熱い熱いと絶叫したままぶら下がり、その断面から流れる生き血に池の中で蠢く人面魚が群がり、口をパクパクさせ黄ばんだ歯をむき出しにして叫び返している。釣り糸に巻き付いた髪の毛から垂れている生首はヒコ助の顔をしていた。
いつの間にか蓮の花は全て枯れ果て、腐った何かのドス黒い肉へと変わり、ハエと蛆が大量に肉の上を這い回りつつ、池からは思わず涙が出るほどキツい糞尿の匂いが立ち込める。青い空はいつの間にか漆黒になっており、月は狂おしい程の赤く妖しい満月。
「な――――っ」
景色は一瞬で元に戻り、蓮の花と白い好々爺と清廉な空気が嘘のようにそこにある。
「今、のは……」
「言うたじゃろう。お主達次第じゃて」
「……くっ」
目の前の好々爺が、途端に化け物に見える。
「赤染アンリ。お主はこれから現世へと戻る。その前に、少しだけ話しておこうと思ってのぉ。何、年寄りの戯言と思って少し聞いていけ」
「……承知致しました。この若輩者でよろしければ、是非ともお話の程、伺います」
「そうかしこまらんでええ。楽にせえ」
優しい声だが、だからこそ緊張する。
好々爺は初めて振り向いて私を見たが、その目は笑ってはおらず、その眼光の鋭さにはどこまでも果ての無い残酷を感じた。