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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第12話 Gランクプラン⑫【白雪セリカ視点】

 拠点に戻り、アルファに案内されて大部屋へ移動する。

「では、これからジェネシスを弾丸に込めましょうか」

「それはそうなんだけど……」

「?」

「息……苦しくない?」

 アルファは狐のお面をしていた。お面の下にはマスク。絶対苦しいと思うんだけど……。

「苦しいです。でも、頑張ります!」

 アルファは華奢な腕で小さな握りこぶしを作る。

 凛とした声で気合を感じるけど、方向性が間違ってる気がする……。

「買い物とかも、シスターがやればよかったんじゃ……」

「いえ、これから私も前線に出る機会もあるかと思いますので、多少は慣れておかないといけません」

 努力……してるんだね。

 でも、お面アルファが言っても説得力を感じられないのが残念なところだ。

「では、まずは一発、ジェネシスを込めてみましょうか」

「……拳銃、かぁ」

 まじまじと掌の上の拳銃を見つめる。

 デルタのジェネシスの残滓から感じる恐怖は静かに押し殺し、観察する。

 名前は分からないけど、回転式拳銃。銀色を基調としているシンプルなデザインで、軽い。

 弾丸は装填済みで、全9発。

 内1発は黒で、デルタの意図は不明。

 そして私の貯蓄の異能力は、《守護天使》。

 自分のジェネシスを他の媒体に移して保存する異能力という、単純なものだ。

 但し、回数制限はある。それは保存できる数に上限があり、7回までということ。

 つまり7発分まで弾丸に保存することができる。保存した分を消費した場合、その分新たに保存することが可能だけれど、曲者揃いの《赤い羊》とやり合うことを考えたら、消費分のジェネシス補填ができる余裕があるかは危うい。あまりアテにするべきじゃない。

 残り一発は予備弾。デルタはフェイクに使えと言っていたけれども……。

「これ、普通に扱いに困るんだよなぁ……」

 よりにもよって拳銃て。持ってるだけでアウト過ぎて……。

 でも、肌身離さず持ってなくちゃならないし。暴発とか、しないかな? 素人過ぎてその程度のことすら分からない。どうやって携帯しよう。ホルスターとか買わないと駄目なのだろうか。そんなの日本で売ってるのかな? うーん……。

 職質とかされたら一発で御用だよ。拳銃だけに……って。ダジャレで現実逃避してる場合じゃない……。頭が痛くなる……。

「ねぇ、さっさとしてくれる? あなたの常識に付き合ってる暇は無いんだけど」

 お面の向こうの気配が、変わる。

「シスター?」

「アルファとあなたはダラダラし過ぎ。さっさとして。たかが貯蓄のタスクにかける時間なんて一時間もいらないでしょ」

「は、はい……」

 怒られてしまった。私達がマイペース過ぎたらしい。

 でもお面シスターはチグハグで、なんだかおかしい。

「何?」

「何でもない!」

 シスターが持つ雰囲気はやっぱり厳しい……。

「じゃ、アルファを出すから、あなたはさっさと貯蓄の異能力を使って」

「オッケー、分かったよ」

 拳銃から一発分、弾丸を取り出し、空中へ放り投げる。

「すぅ……はぁ……」

 呼吸を深くして、ジェネシスを全身にみなぎらせながら、右手を空中の弾丸へ向ける。


 《守護天使》――シュゴテンシ――


 右手から放たれる白きジェネシスは、翼の生えた赤ん坊の形をしている。

 何かの絵画に出てきそうな、文字通り天使のよう。

 天使は弾丸に衝突すると弾丸を抱きしめて消滅し、それと同時に弾丸は白く輝く。

 白く輝いた弾丸はそのまま地面に落ち、カラカラと転がる。

「う、わ……これ……凄い」

 一瞬で、身体の中にある殆どのジェネシスが枯渇した。

 強烈な眠気が酷すぎて、私は地面に崩れ落ちる。

「たった一回でジェネシス切れ……か」

 まぁ普通に考えたら当たり前だ。貯蓄は飽くまで現在ある物を別の場所に移すだけのもの。無から有が生まれるわけじゃない。

 ただ、これだけのジェネシスを温存できたというだけでも、この異能力、《守護天使》には価値がある。

「一回目が終わったようですね。さぁ、セリカ。私と手を繋いでください」

 お面アルファは私に手を差し伸べてくる。

 お面をしているからか、アルファから緊張感を感じない。確かにこれで話しやすくはなったとは思うから、いいか。

「ありがとう、分かった」

 アルファの手を握ると、膨大な白いジェネシスが私に流れ込んでくる。

「……ぁ」

 アルファのジェネシスは、どこまでも温かく優しい。

 温泉に入っているかのような、幸せな気持ちになる。

 ずっとこのジェネシスに包まれていたい、そう思ってしまう程に……温かい。

「消費量……凄まじい、ですね。でも、まだいけます」

「……うん」

 手を放し、幸せな時間は終わる。かつてアルファが語っていた、“多幸感”のことを思い出してしまい、悲しい気持ちになる。


 ――――幸せな時間はいつか必ず終わり、容赦なく死はやってくる。


 アルファのジェネシスを受け取り、私は死への漠然とした憂いを振り払うように、二発目の弾丸に《守護天使》を放った。

 未来に希望があると、そう信じて。

12話が想定していたよりかなり長くなりそう

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