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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第12話 Gランクプラン⑩【白雪セリカ視点】

「えっと、アルファさん……何をしていらっしゃるんでしょう……か」

「……準備、です」

 アルファは壁際に置いてある自分の学生かばんをゴソゴソあさり、「あった!」と歓喜の声を上げて、顔に何か身に着けると、ゆっくりと振り返った。

「雑貨屋さんに、行きましょう」

 アルファはマスクをしていた。つけ慣れていないのか、少し斜めっているのがじわじわ来る……。

「雑貨屋?」

「おもちゃ屋さんでもいいです」

「いきなりどうしたの?」

「お面を、買いに行きたいです」

「お面……。もうマスク付けてるじゃん……」

「足りません、マスクの上にお面をつけて、完全武装です」

 本人はいたって真面目で、その声は真剣そのものだ。

「さっきシスターに時間が無いって怒られたんだけど……」

「どっちみち、貯蓄の異能力には媒体が必要なのでしょう? それなら何か買いに行く必要はどっちみちありますよね」

 まぁ、それはそう……なんだけどね。

 貯蓄の異能力は自分のジェネシスを他の物体に移して保管する異能力だ。その性質上、手ぶらで使うことは想定されていない。だからと言って……。

「おもちゃ屋、かぁ……」

「雑貨屋さんでもいいです」

 絶対お面が本命じゃん……それもう……。

「出口、メアリーに作らせます。お金は私が持ちますので、早く行きましょう」

「……う、うん」

 アルファにごり押しされ、私たちは外に買い物に行くことになった。



      ♦♦♦



 出口は、さっき出前を受け取った公園だった。《幻想庭園》の出入り口は、直前に設定した場所になり、座標を変えたい場合はその地点まで移動しなければならない。また、瞬間移動の効果は無いので、未知の場所に移動することはできない。

 けれど、出入り口の座標は三か所まで設定することができるので、最悪の場合は逃走経路として使用することは可能だ。

「タクシーを拾いましょう。あれ、でもタクシーってどうやって拾えばいいんでしょうか? セリカ、分かりますか?」

「一応ね」

 アルファは世間知らずだった。まぁ私も学生だし、タクシー拾うなんてそうそうやったことないけど……。ただ、昔、インフルエンザにかかった時、タクシーを呼んで病院まで行ったことがある。先輩には頼らなかったので、後で怒られたけれど、ただ、自分のせいで学校を休んでほしくなかったというのが大きな理由だ。

 ……それに、私に親はいないし。存在はするけどほぼいないようなものだから。

 昔を思い出して感傷的になりながら、私はスマートフォンを操作してタクシーをアプリで呼び出す。

 淡々と事務的に業務を全うする運転手は、にこりともせず、行先を確認してきた。

運転席の背後に設置してある、アンケートシートを見て運転手も大変だなぁと思いつつ、電子決済して車を降りた。


      ♦♦♦


 基本的に何でも揃ってるショッピングモールまで、10分程度で到着。

「私は自分のお面を見てきますので、セリカも自分の物を見繕ってください」

 アルファはそそくさと滅茶苦茶早歩きで店内のどこかへ消えていった。

「……とは言ってもなぁ」

 おもちゃコーナーの棚を見回っても、ぬいぐるみとかパーティグッズとか、娯楽品ばかりでピンとこない。

「あの、少々よろしいでしょうか」

「へ?」

 突然背後から男性の声で話しかけられ、振り返る。

 どうやら店員のようで、名札をしており、緑色のエプロンを着ている。どこにでもいそうな中肉中背の40代半ばの男性店員だった。無味乾燥な印象で、“心”を感じられない。

「プレゼントです。受け取ってください」

「……へ?」

 手渡されたのは、拳銃。回転式タイプで、艶と光沢のあるプラチナカラー。掌で持っても軽いし、綺麗でいい感じだ。って、そうじゃなくて!

「な、突然なんですか? 受け取れませんよ」

「媒体をお探しなのでしょう? 本物ですが一番機能美があります。装填数は9発で、女性でも扱いやすい小型の形状。且つこの軽さ。そして、あなたの《守護天使》は7回まで。なので7発分はジェネシスを装填できます。ジェノサイダーは拳銃では死なないので、味方でも遠慮なく撃てます。内、1発分のみ超高濃度の黒のジェネシスを込めてあります。残り1発は空砲的な位置づけにし、フェイクとかに使ってください。それにどうせ、あなたは似たようなモデルガンを選ぶ筈なので。でもこっちの方がいいですよ? まぁ盗品ですが、そこは目を瞑ってください」

「…………」

 驚愕を通り越して、思わず硬直する。情報量が多すぎる。

 しげしげと相手を観察するも、殺気や敵意は感じられない。

 ただ、あまりにも……存在そのものが意味不明だ。

「私はすぐに消えますので、ご安心を。この身体もすぐ持ち主にお返しします」

「いや、そうじゃなく、て……」

 思考が追い付かない。

 相手の目的とか、相手の正体とか、意図とか、こちらのことを知っている理由とか、そういうのを聞かないといけないのに、質問が多すぎて口が追い付かない。

「私はあなたにこれを渡す為だけに作られた人格なので、名前とか意思とかはないです。あぁ、そうだ。これもお伝えしておかないと」

「……」

「百鬼結に対する最後の決断の時、彼女を救いたい場合は黒の弾丸を使ってください。使用するかどうかは、あなたに委ねます。これはGランクとは別の話ですが」

「い、意味がわから――――」

「……お客様? いかがなさいましたか?」

 私は目の前の男性店員に詰め寄ろうとすると、困惑した表情で見つめられた。演技している様子は無い。それに、さっきと違って人間味を感じる。

「…………」

 残されたのは銀色の回転式拳銃のみ。最初に持った時は軽かったのに、今は心なしか重い気がする……。

「なんでも……ないです」

 私は拳銃をポケットに隠しながら、店員から逃げるように店内から離れた。

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