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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第12話 Gランクプラン⑧【白雪セリカ視点】

「じゃあ、また何かあったら出るから。取り合えずシスターが主軸で出るスタンスは変わらずってことで」

「分かった。ありがとね」

「バイバイ」

「うん、バイバイ」

 メアリーは目を閉じ、次に目を開けると凛とした表情に変わっていた。

「おかえり、シスター」

「……ただ、いま。……で、方針は固まったの?」

「アルファが書いてくれたよ」

 ホワイトボードにはアルファのどこかぎこちない文字が残されていた。


①Gランクプランの確立

②実戦経験の少なさ

③ジェネシスの量の少なさ

④《赤い羊》の情報の少なさ

⑤自己の異能力に対する理解の浅さ

⑥《赤い羊》を殲滅する計画手順

⑦6つの死亡フラグに対する対策

⑧6つの死亡フラグの対策が《赤い羊》に修正された時の対策、保険の用意

⑨ゼロとどう向き合うかの想定

⑩結&デルタとどう向き合うかの想定

⑪万が一ジェネシスカラーが変色した時の対策、想定


「……なるほど。残り二日と少しでどれだけ対策できるかが勝負ね。セリカにとって一番難易度が高いのはどれ?

「どれも厄介だけど……。一番は①のGランクプランの確立……だね」

「なら後回しね。できることを最短で終わらせる。じゃあ逆に、一番難易度が低いのは?」

「②の実戦経験の少なさ、かな。これは模擬戦闘か何かをやれば済むと思うし」

「それは私も思った。異能力無しで、身体能力強化のみで模擬戦闘を何度かやって、疲労したら《聖女抱擁》で回復すればいい」

「①、②と来てるから、このまま順番に方針を固めておこうか?」

「それもそうね」

「じゃあ、③はどうしよう。正直、ジェネシスを増やす方法なんて思いつかないし……。貯める異能力はあるんだけど……」

「貯める?」

「まだ使ったことが無い異能力。今あるジェネシスを別の媒体に移して保管するっていう力」

「使えるわね、それ」

「そう? でも貯蓄したらその分は減るわけで。あと二日と少しじゃ対して貯められないと思うんだけど……」

「アルファからジェネシスを貰い受ければいい」

「貰う? ジェネシスを貰うなんて、できるの?」

「同じ色同士であればできる。私もアルファからジェネシスを貰ったことあるし」

「……そんなことが、できるんだ」

「ただ、メアリーとマザーは無理だった。アルファの白を受け付けない。多分、色が同じじゃないからだと思う」

「同じ色であれば……ジェネシスを貰える。これは、凄い情報だね」

「アルファのジェネシスを貰い、それを貯蓄の異能力を使って保管すれば、ジェネシス切れの時の保険になるわね」

「結構難関だと思ってた③が簡単に片付いちゃった……。でもアルファのジェネシスってそんなに無尽蔵にあるの?」

「アルファは所持異能力が二つしかないし、滅多にジェネシスを使うこともないから、貯蔵庫としてはうってつけね」

「貯蔵庫って……。シスターは時々言葉がキツいよね」

 アルファに対して敵意がある訳ではないと思うのに、刺々しい感じがする。でもそれは私に対してもそうだ。シスターの性格なのだろう、きっと。

「……そう? 別に、そうは思わないけど」

「じゃ、じゃあ③の課題は解決ってことで」

「次は④か。《赤い羊》の情報の少なさは、そもそも解決できる課題なの?」

「ヒキガエルと情報関連の取引は取りやめになったからね。後悔はしてないけど」

「私の《未来予知》で持ってる情報ぐらいしか、使えるものは無さそうね」

「……そうでもないよ。ヒキガエルと交渉した時に、ヒキガエルから露出した情報はある。それをきちんと分析すれば、何かしら掴めるかもしれない。アンリが起きれば、アンリの知恵も借りられると思うし」

「了解。じゃあ、⑤はどうする?」

「自己の異能力に対する理解の浅さ……か」

「異能力の洗い出しもしないといけなさそうね」

「ぐぅ……やることが、山積みだ……なのに時間は無い……」

「まるで仕事みたいね。やったことないけど」

「確かに仕事みたい。達成すべき課題を定められた期限にやり遂げる。その為に課題達成の方法を策定して、必要なコストを捻出してその範囲内で最高の結果を出す……か」

「初仕事ね」

「……初仕事にしては難易度が高すぎると思うんだけど」

 《赤い羊》とやり合いながら殺されず、且つ絶望せず、Gランクを目指す、途方もない難易度の高さだと思う。

「で、⑤はどうやって解決する?」

「これも、アンリの知恵を借りたいと思う……。他力本願だけどね」

「まぁいいんじゃない。適材適所で。次は⑥の、《赤い羊》を殲滅する計画手順について」

「…………当たって砕けろしか思いつかない」

「これは、他の課題とも連動しているし、まずは後回しでいいと思う」

「……後回しで大丈夫?」

「実戦経験の少なさ、死亡フラグの回避、《赤い羊》の情報、自らの異能力に対する理解、ゼロとどう向き合うか、この五つの課題さえ押さえれば見えてくる筈よ」

「オッケー。じゃあ次は⑦の……6つの死亡フラグに対する対策」

「これは私とアルファ、赤染アンリで何とかする」

「……できそう?」

「《未来予知》で見えた情報を元に、逆算してそれを防ぐ策をいくつか作っておく。不随して、⑧の情報戦対策も考えておく」

「ありがとう、助かる。じゃあ、次は……⑨のゼロとどう向き合うかの想定」

「私は殺しちゃうのが一番早いと思うんだけど」

「こ、殺し……」

「ゼロを殺したらGランクになれない訳じゃないと思うし、邪魔なら片付けるのがベストだと思う。生かしておく理由が無い。絶対に邪魔してくる訳だし」

「ま、まだ完全に敵だと決まったわけじゃ……」

「そんな甘い考え方じゃ殺されるわね。6つの死亡フラグの内、一つはゼロに殺される未来だってこと、忘れたの?」

「…………」

「アルファの警告も、きちんと聞いておくことを推奨するわ。あなたがゼロを救おうとすれば、あなたはFランクですら無くなる。悪の救済なんて馬鹿なことは絶対に考えないことね。私に、斬られたくなければ」

 冷たい眼差しでシスターの視線が私を射抜く。

「わ、分かってるよ……」

「具体的にどうするかはあなたしか考えられない。相談は聞くけど、くだらない説得は時間の無駄だからやめてね」

「…………」

 先輩を、殺す……。

 その道しか、その道しかないのか……?

 先輩を取り戻すためにGランクを目指すのに、先輩を殺しちゃったら……それはもう……。

 心が、軋むように痛む。

 愛する人を救うために愛する人を殺すなんて、自己矛盾過ぎる。こんなの……どう乗り越えたらいいのかすら分からない。

「ゼロ……。Gランク最大最悪の障害になりそうね」

 苦悩する私を達観した眼差しで見据え、シスターは一人呟くように言う。

「最悪、ゼロは私とアルファとメアリーが総力を上げて殺す。あなたには無理だと思う」

「…………っ」

「ゼロを殺して、あなたはGランクを目指し――――」

「先輩を殺すぐらいなら、Gランクなんて――――」


 ――――いらない。


「…………っ」

 そう言葉にしそうになり、頭痛が走る。この感覚は……例の喪失した記憶が疼く痛みだ。

 ああ、確かに私は……悪の救済を目指したことがあるのだろう。

 今の自分の感情で、確信してしまった。


      ♦♦♦


 悪を許し、悪に与え、悪を愛すれば、楽になれる。

 こんな苦しみからも解放され、自分自身の闇すら全て肯定できる。

 善や正義、倫理や道徳、義務や役割から解放され、自由になれる。

 それが、それこそが人間の本当の姿であり、本質。

 悪であることを否定することこそ、苦痛しかない間違いであり、悪であることを認め、それこそが正しいのだと受け入れて納得すれば、全てはあるべき形へと戻る。

 透、あなたが目指した場所。それは“今の私”なら分かるよ。

「先輩……」

 死体になった先輩に口づけすると、血の味がして甘かった。

 私は骸骨に誓う。

「骸骨、今なら分かるよ。透の言った通り、この世界こそが間違いだったんだね……。透を殺してしまった罪を、償うよ。透の遺志を継ぎ、私が世界を導くよ」


 全てのバイアスから解放された、ありのままの本当の姿に――――。


      ♦♦♦


「セリカ?」

「……っ」

 シスターの問いかけで、正気に戻る。

 冷や汗が止まらない。

 何だ……今のビジョンは……。

「何か、思い出したの?」

「…………とてもじゃないけど、言える気分じゃない」

「……そう。でも時間は無い。あなたのメンタルケアに割ける余裕は無いから、課題に対する方針は固め――――」

「ごめん、ちょっと休ませてほしい」

「……時間が無いのに?」

「気分が、悪くて」

「甘えないで」

「……っ」

「何を思い出したのかは知らないけど、この先の未来はもっとシビアなの。休んでタイムロスした分、未来を変えられる可能性がじわじわと減っていくの。分かる?」

「わ、分かってるよ」

「分かってない。“今“のあなたは弱すぎる。リリーを殺し、マザーを倒し、私を止めたあの時のあなたなら、こんな醜態は晒さなかった。殺人カリキュラムが終わって安心しちゃったの? 本当の戦いはまだ始まってすらいないって分かってるの?」

「す、好き勝手言って……。私だって、私だってこんなつらい思いしてまで戦いたくなんてない。でも、そうしなくちゃいけないから……」

「さっき、急に取り乱したわね。⑧まで順調だったのに、躓いたのは⑨のゼロとの向き合い方。ここで躓いたということは……つまりは……ゼロを殺さずにGランクを目指すしかない。あなたが思ってるのはそういうこと……なの?」

「……っ」

「甘い、甘すぎる……。それで……本当に……未来があると思ってるの?」

「無くてもいい」

「無くても……いい?」

「先輩を殺すぐらいなら、そんな未来は無くていい。私がGランクを目指すのであれば、先輩は殺さない。殺す前に……その未来になる前に、なるしか……道は無い」

「…………っ」

 シスターに強く睨みつけられるけど、私の心は動かなかった。

「……本気で、言ってるのね?」

「Gランクになれる期間には、タイムリミットがあるかもって話を、さっきしたよね」

「……」

「先輩に殺される未来。これが多分……タイムリミットなんだと思う」

「甘んじでその死を受け入れるってこと? Gランクを諦めて」

「ごめん。ここまで手を尽くしてくれてるのに……」

「…………私はどれだけあなたが愚かな道を進もうとも従うしかない。あなたが絶望する、その時までは」

「……でも、諦めた訳じゃないよ。タイムリミットまでは全力でやる。それは約束するよ」

「そう、約束するのね。じゃあさっき言ってた、休むのはもちろん無しね?」

「う……。分かったよ」

 シスターは滅茶苦茶スパルタだった。

 さっき一瞬見えたビジョン。未だに脳裏に強烈に焼き付いてる。

 あの未来だけは……絶対に避けなくてはならない。

 “透の完全理解”。その道だけは……たとえ自殺してでも防がなくちゃいけない未来だ。

 私は胸に手を当て、静かに自分へ言い聞かせる。

 透を否定した先にしか、Gランクへの道は無いのだと……。

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