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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第12話 Gランクプラン⑤【白雪セリカ視点】

「さて、シスター。アンリの蘇生も終わったことだし、私は準備を始めることにするよ」

 アンリを別室のベッドの上に寝そべらせてから、私はシスターに声をかける。シスターは常に私の散歩後ろを気配を殺して歩くのがデフォルトなのか、私にとって切っても切れない影のような存在と化している。

 私を守り、あるいは最後に私を殺してくれる刃として。

「準備?」

「現時点で私に足りないものは色々ある。課題を洗い出しておきたくてね」

「なら、場所を移しましょう」

 そう言ってシスターはスタスタと歩き出し、慌ててついていく。

「どこか、いい場所があるの?」

「この空間は大体揃ってる。会議室もある。まさか使うことになるとは思わなかったけど」

「そうなんだ……。ここ、本当不思議な空間だよね」

 メアリーの異能力によって創造された空間である《幻想庭園》。立方体の部屋がルービックキューブのような感じでそれぞれ構成されており、一つの部屋に四つのドアがある。ドアの向こうには廊下があり、廊下の先のドアを開けば臨んだ部屋へ行けるらしい。

 部屋と廊下は全てガラス細工で創られており、ガラスの向こう側では魚が泳いでいる。一言でいうのであれば、大規模な水族館のようなイメージだ。幼少期に一度だけ見に行った水族館のイメージが忘れられず、水族館を独占したいという欲求がこの部屋を作ったのかもしれないとシスターはメアリーの異能力の根源を分析していた。

「シスターは現時点で何が思いつく?」

 会議室に移動すると、ホワイトボードと長机と椅子が並んでいた。長机とイスはガラスで創られており、ホワイトボードは流石にガラスではなかった。そういえばベッドもそうだった。殆どの物がガラス製だが、物によってはそのままイメージが固定化されているものもあるらしい。

私はシスターに改めて声をかけながら、《幻想庭園》を子供のような気持ちで眺めまわしていた。こんな素敵な空間であれば永住したいかも……。

「……アルファに代わる。私は頭脳担当じゃないから」

 シスターは顎に手をやり、少し考え込んだ表情をした後、何故か私に背を向け、マジックを手にホワイトボードに文字を書きながら言葉を発する。

「あなたに足りないものは沢山あります。具体的に言うと……次の11個です」

①Gランクプランの確立

②実戦経験の少なさ

③ジェネシスの量の少なさ

④《赤い羊》の情報の少なさ

⑤自己の異能力に対する理解の浅さ

⑥《赤い羊》を殲滅する計画手順

⑦6つの死亡フラグに対する対策

⑧6つの死亡フラグの対策が《赤い羊》に修正された時の対策、保険の用意

⑨ゼロとどう向き合うかの想定

⑩結&デルタとどう向き合うかの想定

⑪万が一ジェネシスカラーが変色した時の想定と対策

「す、凄い。よく纏まってる。今の一瞬で纏めたの?」

「いえ。ずっと考えていたことを言葉に出しただけです」

 アルファは私に背を向けたままそう気まずそうに言う。

「……えっとこっちを向いてくれないのは何で?」

「私、シャイです。恥ずかしがり屋です。目を見て話すなんて、とても無理です」

「で、でも! 初対面の時は普通だったような……?」

「あれは、かなり無理して頑張りました。普段は絶対に無理です。私、表に出るような人格ではないので……」

 後ろ姿からでも、耳が真っ赤で緊張していることが分かる。

「そ、そうなんだ……。でも、ありがとう。凄い簡潔にまとまってて助かるよ」

「い、いえ……。えっと、私、ごめんなさい。どうあなたと接していいかも、正直よく分からない……です」

「? 普通にしてくれればいいよ。シスターみたいに」

「あの子は堂々とし過ぎです。私たちはあなたを殺そうとしたのに。でも、今でもそれは間違ってるとは思えません。あなたの未来には絶望しか無いから……。それも本心です。でも、謝るべきとも思うし……」

「難しく考える必要は無いよ、アルファ。私は全力でGランクを目指す。あなた達の絶望も“本物”だと思うし、全否定するつもりもない。でも、私が絶望して“黒へと至る時”が来れば、遠慮なくその時は殺してほしい。これは願いであり、契約だよ」

「あなたは……私たちを許すというのですか?」

「許すも許さないも無いよ。最初からあなた達のことは憎んでもいないし、ただ主義思想がすれ違ってぶつかり合ってただけ。アルファ、私たちは喧嘩してたけど、今はもう“仲直り”したの。仲直りした後は、一緒にご飯を食べて、一緒に戦うだけ。そこに遠慮も罪悪感も必要ない。勝ちも負けも罪も罰も無い。私からあなた達に言うことはただ一つ。これからもよろしくお願いします」

 そう言って、私は後ろ姿のアルファに頭を下げる。

「…………」

 アルファは初めて振り返って私を見た。

 目に涙を溜めて、悲し気に一筋の涙を流してから、ようやく言葉を発した。

「私たちは多くの生徒たちを殺害しました。その私たちを、受け入れると?」

「確かにその点に関しては罪も罰も必要だとは思う。でもあれは殺人カリキュラムだったし、私たちは正常じゃなかった。そしてこれだけは言える。あなた達の罪と罰を決めるのは“私”じゃない。私があなた達を拒絶する理由にはならないよ。まぁ、あなた達が私の戦力になるからという打算が無いと言えば嘘になるけどね」

「……あなたは、優しすぎますね」

 そう、アルファは達観したような眼差しで私を見つめる。

「Gランクになれば、多分、もっと別のものも見るようになると思うんだ。あまり無責任なことは言えないから、これも直感としか言えないんだけどね」

「別の……もの?」

「今はまだ分からない。はっきりしてるのは、悪になった先輩を救えるのがGランクなのだとしたら、あなた達も同時に救えると思うんだ。ついでみたいな言い方にはなっちゃったけど」

「私たちを……救う……」

 アルファは呆然と私の言葉を反芻する。まるでそんなこと考えたこともなかったかのような、そんな顔で。

「あなたは……悪を救おうというのですか? そんなことが、本当に可能だと?」

「Gランクには少なくとも、その可能性があると思う」

「悪を……救う……それは、まるで……」

 アルファはぶつぶつと呟きながら、せわしなく視線を左右に動いている。かなり動揺しているらしい。

「……何か、変なこと言った?」

「…………」

 アルファは気付いてはいけない禁忌に気付いてしまったかのような、そんな動揺をあらわにしながら、沈黙を続ける。まるでこの先の言葉を続けるかどうかを、本気で迷っているかのように。

「セリカ。これは、私からの警告です」

 アルファは迷った末、硬い表情で改まったように切り出してくる。

「……何?」

「悪を救おうなどと考えては駄目です」

「で、でもそうしないと……正義の限界は超えられない」

 正義の限界はもう知り尽くしてる。ならもうこの道しか今の私には思いつけない。

「……悪を、救ってはなりません。救いようがないのが悪です。あなたがどうしても悪の救済を目指すというのであれば私たちはあなたのその道を止めるすべはありませんが、だからこそ警告させてください」

「どうして、そこまで頑なに反対するの?」


「――――悪の救済。それは“透と同じ”道だからです」


 アルファは苦し気な表情で、噛み締めるようにその言葉を絞り出した。

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