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±0  作者: 日向陽夏
◆◇◆◇◆◇
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第12話 Gランクプラン①【白雪セリカ視点】

「すぅ……はぁ……」

 意識を集中し、両腕を前へとかざす。


 《死者蘇生》――シシャソセイ――


 アンリの腕が青白いジェネシスに包まれ、宙に浮き、再生を始める。

 シスターは別室で睡眠中なので傍にはいない。

 なのでまずは、アンリの蘇生を最優先にすべきだと判断した。

 《死者蘇生》の第一段階は、肉体の再生だ。

 肉体の再生が終われば、第二段階として、魂をあの世からこちらの身体に引き戻す。

 最終段階として、魂と肉体の整合性を図るために、精神を修復する。この段階で、アンリの記憶、精神性、ジェネシス、全てが完全に蘇生される。

 見込みは二時間程度。これが終わればアンリをベッドに寝かせ、私は私で“準備”を整えなくちゃならない。

 現時点で、まる12時間ほど私は熟睡した後、アンリの腕を媒介に蘇生作業に入った。食事、睡眠、シャワー、洗顔、歯磨き、あらゆるルーティンは終わらせ、体力、精神力ともに全快だ。

 ジェノサイダーになったからなのか、今までの人生でかつてなく身体の調子が良い。《明鏡止水》を使用していないのに、頭が冴え渡り、集中力が無限に湧いてくる。

途轍もないエネルギーが私の身体全体を循環しているかのよう。


 ――――それは恐らく、透にも同じことが言える。


 透に思いを馳せる。

 今の私であれば、考え事をしながらでも蘇生作業は可能だ。

 彼も間違いなく、骸骨の蘇生能力によって全快し、前線に復帰してくる筈。

 弱体化しているなどと油断はしない。むしろ、先輩に殺された経験が彼の慢心を消し、更なる強敵として私の前に立ちはだかることだろう。目に見えている。

 私と透は、同一にして対極の存在。

 ジェノサイダーとして、同格の存在。

 でも私はもう、透と同程度の存在にまで進化できたと思う。

 それはジェネシスだけじゃなく、魂とか、精神とか、そういう目に見えない“内側”の部分の話だ。

 かつては神か怪物にしか見えない恐ろしい存在だったのに、今はもうまるで、恐怖すら感じない。

 倒すべき敵だが、彼に対する感情は憎しみでも正義感でもない。

 強いていうのであれば、義務感……というべきか。

 透を野放しにすれば、多くの人が死ぬか、狂うか、壊れる。

 だから誰かが止めなくちゃいけない。そして止める方法は“殺す”しか手段がない。そしてそれができるのはきっと、この世で私だけだ。


 ――――透。


 彼は本当に、不思議な存在だ。

 私から全てを奪い、生徒たちを殺した、最低最悪の存在。そのはずなのに……私は彼を憎んでいない。あるいは、憎んでいた過去もあったのかもしれないが、“今“はもうそういう段階じゃない。

 Gランクの構想は完璧ではないけれど、現時点で言えることは、Gランクに至る為に必要な“カギ”は一つではなく、いくつかあるであろう、ということ。そして、その一つは恐らくは透が握っている。そんな気がしてならない。

 こんな風に思うのは間違っているのかもしれないけれど、私にとっては皮肉にも師のような存在とも思える。透がいなければ、私はここまで成長することは絶対に無かった。

 もし彼が悪を愛する人間ではなく、善を愛する人間であれば、人類史に名を刻めるほどの影響を持った最高の指導者になれたかもしれない……そう思えるほどには。

 つくづく、惜しいと思える。

 何故、あれほどのカリスマと人を導く力を持ちながら、悪の権化のような存在になってしまったのか。

 彼が善を以て人々を導こうとすれば、もっと違う世界があった筈なのに……。透が世界を導く指導者になってくれれば、そう惜しむ気持ちがないと言えば嘘になる。

「殺したくない、のか……。私は、透を……」

 殺したくない。それが、本心だ。

 あれほどの非道を顔色一つ変えずやってしまえる化け物なのに、私はあの人を殺したくない。

「これは私の甘さなのか、それともGランクへのカギの一つなのか……」

 今のところ答えは、出ない。

 ――――だが、これだけは言える。

 今の私は、透と相対しても恐怖も、動揺も、憎悪もしない。

 彼の深淵に引きずり込まれることも、きっと無い。

 ふと、かつてのマザーの言葉を思い出す。


 ――――透様は人の心の中に深淵を見出し、その闇を引きずり出し、“人を怪物”にする。ですが、セリカ様。あなたは怪物の中に希望を見出し、その光を暴き出して、“怪物を人間”にする。恐ろしいことに、あなたにはそれができる。


 マザーがくれた、Gランクへのカギの一つ。

 透の中に“希望”を見出すことができれば、私と《赤い羊》の戦いはただの抗争ではなくなり、全く別次元のステージへと変貌を遂げるだろう。

 透は倒さなければならない敵だ。その現実はどうしようもない。

 けれど。

 彼を殺さなければならない、その瞬間が訪れるまでは。

 私は、透を人間にできないかどうか抗い続けようと思う。


 きっとそれが、本当の意味での“闘い”になる。


 そんな気がして、ならないから――――。

幕間長引かせるのもアレなんで、話数調整して一話ずつずれ込ませて対応します。

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