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±0  作者: 日向陽夏
第2.5章 束の間の平和
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幕間⑤ 殺人の理由【花子視点】

 部屋をノックする音の後に現れた男の姿を見て、私は思わず目を疑う。

「――――やあ、花子」

 平穏な声とともに、黒いジェネシスを身に纏った透は現れた。まだ万全ではないのか、少しだけ存在感というか、生命力が希薄な印象を受けるけど、得体のしれない化け物じみた気配は以前と変わらない。優雅にココアを飲みながら、壁に背を預けている。

「……戻ったのね、透」

「おかげ様でね。脳のスペアがまさか役に立つ日が来るとは思わなかったよ」

 にこやかに、透は微笑む。

「いや、参ったよ。《処刑斬首》の能力には、ありとあらゆるジェネシスの効力を除去する効果がある、だなんてね。お陰で見誤った。いばら姫も君も、女性という生き物はなかなか嘘と秘密が多くて困る」

「私が裏切ったと判断し、殺しに来たの?」

 《処刑斬首》の力は、その名の通りジェネシスを処刑する力。

 だが、この力はジェノサイダーのジェネシスを刈り取るに留まらない。精神干渉すら部分的に除去する効力を持つ。だから透の《思考盗撮》も《処刑斬首》に対してだけは効かない。そして、いばら姫の《異能解析》すらも騙しおおせることも可能だった。

 だから、刀身が伸びるだけというクソみたいな嘘も通じた。

「それは……愚問だね。僕は悪を愛している。裏切りという悪すらもね。君たちに裏切られ殺されるようであれば、所詮は僕が“その程度の悪”にしかなれない脆弱な存在だったということ。君たちの裏切りは、それは僕自身の責任であり、僕の弱さだと納得しよう」

 ココアを飲みながら、何の憂いも無く、この男は平然とそう言ってのける。

「それに、僕を出し抜けたということはそれだけ君たちが”成長”したということ。子が親を超えるのは嬉しく思えるのと同じ感情で、僕はそのこと自体は快く歓迎したいとも思っているよ」

 ……相変わらず、この男は器が計り知れない。求心力、とでも言えばいいのか。

 だからこそ、この私でも何故かこの男には素直に膝を屈してもいいと、そう思えるのかもしれない……。この男を王として仰ぎ、従者であることに愉悦を感じることがある。

「それに。《赤い羊》のエースである君を僕が殺すわけないだろう?」

「リリーは最高傑作。いばら姫は頭脳。私はエースって訳?」

「リリーは快楽殺人鬼としての最高傑作。いばら姫は知恵者としての片腕。君は僕にとっては“剣”のような存在だよ。いばら姫の話によると、SSSとなった百鬼零を最後の最後で殺してくれたらしいしね。君は最後の最後で僕を選んだ。そのことに感謝しよう」

「……フッ、よく言うわ。“本命”はヒキガエルでしょ?」

「…………参ったね。いばら姫といい、君といい、勘が良過ぎて困る」

「アンタの“本当の望み”。それは――――」

「まぁいいじゃないか、その話は。君が分かってるということを僕が認識した。それだけで十分だろう?」

「…………」

 私は透を探るように見るが、相変わらず何を考えているか分からない表情だ。ポーカーフェイスという訳でもないが、ただ談笑しているようにしか見えない。

「で、何の用? 零を見に来たの?」

 私の傍らには、簡易ベッドで眠っている零がいる。

「そうだね。僕を殺した者がどんな人間なのか、興味があってね」

「まだ目覚めないわ。寝顔を眺めに来たの? それとも――――」


 ――――殺しに来たのか。自分を殺した存在を。


「そう警戒しなくていいだろう? べつに殺しに来たわけじゃないさ」

 涼し気な笑顔で、透は諭すように言う。

 相変わらずこちらの心を見透かすように……。

「さて、本題は別にあるんだ」

「……本題?」

「君のことさ」

「…………何?」

 色々考えたが、思いつくことが無い。裏切りの件とは別に、ということだろうし……。

「安定してSSSになる方法についてさ。今まで百人程度SSSのカリキュラムを試行したがオメガを除き99人の被験者は精神が崩壊、発狂した。量産型の凡人とは一線を画す、特別に価値があるモルモットでも一瞬で”駄目になる”から、メリットが薄くてね。つまりこの方法はハイリスクで、ほぼ確実に被験者を廃棄することになる。だから躊躇していたんだが、限定的にSSSに入れる今の君なら話は別だ。彼が目覚めるまでの三日間、僕が鍛え上げ君にはSSSになってもらう」

「……私がSSSに入れるようになったことを、知ってるの?」

「それはまぁ、君の思考を見ればね」

「でも、どうして突然……」

「いばら姫の《全理演算》で、近い内に、Fランクの白雪セリカが僕らに襲撃をかけてくる確率が100パーセントとのことらしい。それはもはや予知と変わらない。今のSSの君での勝率は0パーセント。少しでも君には強くなってもらわないと、君も白雪セリカに無様に敗北して死ぬのは本意ではないだろう?」

「……あいつが、来るの?」

「総力戦になる。無論僕も戦うが、君を失いたくはないからね」

「…………」

「それじゃあ、また来るよ。他のメンバーにも挨拶したいからさ」

 透はそう言って、部屋を後にする。

「…………」

 透の声はもう聞こえていなかった。


 ――――白雪セリカ。


 あの女が、来る。


 ――――殺せる。


「…………っ」


 ヤツの脳天を勝ち割って死体を焼き尽くす瞬間を想像し、身震いする。


 理由なんて、きっと無い。

 どんな理由を用意してもそれは建前でしかなく、私の真意ではない。

 殺人の理由なんて、深淵を知らない心理学者が勝手に後付けででっち上げればいい。

 理由なき殺人こそ、本当の殺人だ。

 私は、あいつを殺したい。

 理由なんてそれだけでいい。

「フフ……」

 零れる笑いは意識的か無意識か。

 私はただ、零れる微笑をそのままに、ヤツを殺す瞬間を想像し、一人静かに愉しんでいた。

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

新年一発目がこれですが……まぁ、平常稼働ということで……w

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