幕間② オメガとデルタ【百鬼結視点】
「あれでよかったのですか?」
脳内でデルタが尋ねてくる。
ここは学園の外。私はデルタの異能力、《無色透明》を使い、俗にいう透明人間になっている状態で、誰の認識からも外れ血まみれの姿のまま堂々と道を歩いている。さすがにこの格好は落ち着かないので、家で着替えようとは思っているが、その前に喉が渇いた。
人目が無い脇道の自動販売機で缶コーラを買い、そのまま自販機に寄りかかりながら行儀悪く喉を鳴らしながら飲みこむ。乾いた喉を涙が出るくらい刺激的な炭酸が染み渡り、震えそうになる。
「……何がだ?」
袖口で涙をぬぐいながら、デルタへ問い返す。
「嫌いな白雪セリカを助けるような真似をして。本当はあんなことしたくない筈なのに」
「私の心を勝手に暴くな」
「同じ脳を共有しているので、許してください」
「Gランクに少しだけ期待しているんだよ、私は。あいつの破滅を願いながら、あいつのGランク成就も願っている自分がいる。どちらも本心だ。そしてお前の願いもそれには深く関わっている筈だ」
「ですがGランクは……」
「ああ、存在しないことは“確定”している。ジェネシスへの質問として、私はGランクの有無を問い、その回答として“存在しない”と言われたからな」
デルタ統合によるSSS完全到達時に、私はジェネシスと謁見し、Gランクの存在を問うた。
「ですが、信じるのですか?」
「私は兄さんを信じてる。兄さんがGランクと言ったのであれば、私はそれを信じる。神への信仰をも、その信頼は上回るんだよ」
「……ブラコン、というやつですか」
「もう何とでも言えよ」
どいつもこいつもからかいやがって……。うんざりだ。ただ、デルタの場合は天然なんだろうなとは思うが。
「存在しないものを目指す方法……ですか。検討もつきませんね」
「いや、実はもう大体の見当はついてるんだ。悪の覇道を極めた一周目と、闇を克服した二周目、正義を極めた三周目。死ぬほど苦しみ抜いたあいつの記憶も、私だけは覚えてるからな。その記憶を思い出せるのも、お前が私をSSSにしてくれたおかげだ」
西園寺要をアルファ組、デルタ組に分け、それぞれを分担して私がSSSになるところまで過去の私は計算していたわけだが。
「……と言うと?」
「Gランクに必要なもの。私はもう大体分かってる。私の脳を読めばお前にも分かるだろう?」
空を見上げながら、入道雲を見据える。今日は憎らしいぐらいの快晴だ。寝不足なので空の青さが眩しく気怠い頭痛を誘発してくるのが玉に瑕だが。
「……なるほど。では何故、白雪セリカにそれを教えなかったんですか?」
「それは、お前がついさっき言ったじゃないか」
「?」
「――――私は、セリカが嫌いなんだよ」
そう、私は意地の悪い笑みを浮かべて脳内のデルタにそう答えた。