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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第11話 ⍜⑬【白雪セリカ視点】

「ん~~~~っ」

 私は大きく伸びをする。空を見上げると、淡く眩しい茜色。どうやら時間は夕方に差し掛かっているらしい。

 信じられないことに、今日一日の時間としては、放課後になったといったところなのだ。

 マザーの《唯一無二》で閉じ込められた時間が約46年。《起死回生》でも何度か時間を巻き戻しているし、《時間停止》で止まっていた時間もある。それに記憶にない時間遡行まであると仮定するのであれば……計算したくないな。というかできないだろうし。憂鬱になりそうな思考を振り払うように首を横に振り、気分を変えていくことにした。

「さて、と。アンリの腕も手に入ったことだし、退散しよっか?」

「どこに向かうつもり?」

「んー、家? 流石に血まみれだし、着替えてシャワー浴びたいよね。あと、アンリの腕を媒介に蘇生させなくちゃだし……。でも流石に学校に長居はできないか。人が来そうだし。でも蘇生には二時間ぐらいかかるんだよね……」

 血まみれの私達と、全校生徒がほぼ消滅し、体育館は焼野原。

 現実世界においてどう人々にこの事実が認知されるのか、想像もしたくないというのが正直なところだ。

「シスター、こっちも色々聞きたいことはあるけど。まずは、そろそろ《未来予知》について教えてくれてもいいんじゃない? あなたが見えている未来について。この先、どうなるの?」

「私の《未来予知》は見た相手の死ぬ瞬間を予知する異能力よ。予知を回避する方法は予知者である私が干渉するか、同じ時間干渉する異能力を使用する以外に方法は無い。今のところは、ね」

「ヒキガエルが死ぬ未来は見えた?」

「……いいえ。ヒキガエルが死ぬ未来は見えなかった」

 シスターは暗い表情で答える。

「どんな人間であれ、必ず死は訪れる。ただしジェノサイダーはジェノサイダーにしか殺せない。そしてヒキガエルが死ぬ未来が見えなかったということは、ヒキガエルの命は永遠に続くということ。あいつを殺すには、何かしらの時間干渉をしないと無理ね」

 それは……嫌な話だ。でも、生き残ることに全てを賭けているヒキガエルを殺すのは至難の業。どうにかして策を練る必要がある……ということか。

「……それと、今の私が死ぬ未来も見えるの?」

「あなたはヒコ助に殺されて終わる筈だった。でも、その死の未来は書き換わった」

 シスターはそこでいったん言葉を区切り、ゆっくりと次の言葉を口にする。


「――――私達は、三日後に“黒い雨”に打たれて死ぬ。そういう未来よ」


「黒い……雨? それが、ヒキガエルが現れた時に《時間停止》を出し渋った理由?」

「そうよ。その時まで黒いジェネシスは三日かけて溜め込んでおく必要がある。でもこれは話せば長くなるわ。まずはここから退避しないと。持っていきたい荷物とかある?」

「あー、うん。靴を履き替えたいかな。ずっと上履きだったし……。あとジャージに着替えておきたいかも。喉も乾いたし、自動販売機にも行きたい。あ、食べ物も何か……」

「仕方ないわね……」

 シスターはジト目で私を見つめると、私の手を取る。

「これから空間構築の異能力を使い、そこに逃げ込むわ。この空間なら誰にも探知されず邪魔もされない。そこで傷と精神を癒し、ジェネシスを完全回復させ、そしてこれからどうするかの作戦を三日かけて練りなさい。それぐらいの面倒は見てあげるわ」

「ほ、ほんと……? そんな異能力があるなら凄く助かる」

 私は天にもすがる気持ちでシスターの手に力を込め、感謝を伝える。

「……」

 シスターは褒められたり頼られることに慣れていないのか、顔を真っ赤にしてばつが悪そうにしている。意外な可愛らしい一面を見てしまった気がする。

「課題は色々あるけど、ようやく一区切りついたってところだね。ほんと……つらかったな……」

 嘆息し、肩から一気に力が抜ける。もう死んだ方がマシなんじゃないかと思えるほど、とにかく疲れた。ここまで戦い抜いた自分自身の諦めの悪さに苦笑したくなる。

 今日という時間がまだ一日経っていないということが未だに信じられないけれど、ようやく殺人カリキュラムという一つの地獄は、こうして終わりを迎えた。

 透、花子、リリー、ヒコ助、骸骨、いばら姫、ヒキガエル。《赤い羊》の化け物たち。

 先輩、結、アンリ、マザー、メアリー、シスター、アルファ。家族よりも大切な人と、恋敵と、戦友と、同志との出会いと別れ。

 生き残ることこそできたけれど、私と《赤い羊》の戦いは本当の意味ではまだ始まってすらいない。

「先輩……」


 ――――必ず、取り戻してみせる。


 そう、決意を新たにする。

 アンリの腕を抱く自分の手にも自然と、力がこもる。


 ――――その決意こそが、Gランクへの道を阻む最大の障害であることを、その時の私はまだ、想像すらしていなかった。


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第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編 終

第二章がようやく……ようやく……終わりましたね(涙目)

今更ですが、セリカ含め主要人物は全員上履きのままだったという笑

※履き替える余裕が無かった

三章からは、《赤い羊》との総力戦と、過去セリカの伏線回収ですね。あ、二章とあんま変わんないですネ。あと書き直さないといけない箇所がちらほら……うん、後回し(汗

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