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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第11話 ⍜⑫【白雪セリカ視点】

 《一蓮托生》――イチレンタクショウ――

 《解除》――カイジョ――


「はい、終わり。もう手を放していいよ」

 私はそう言ってヒキガエルから手を放した。

 契約は確かに双方が合意できる内容で、無事終了した。

 ゆらゆらと紫のジェネシスに包まれたアンリの左腕がゆっくりと空中から落下し、私の手中に落ち着いた。

 手を握っていた際に気付いたけど、リリーの形をしたヒキガエルの手は生者の体温を感じられなかった。死体のような冷たさ。そう、今のアンリの左腕のように。

「少し聞きたいんだけど、どうしてリリーの姿で私の前に現れたの?」

「僕に答える義務はないけど……。答えてもいいが、それなら質問に答えた数だけお前も答えろ」

「別にいいよ。答えられる範囲でね」

 契約外でのやり取りにはなるけど、私は敢えてそうした。変にプレッシャーを与えるとどんな質問にも答えてくれないと思ったからだ。

「……さっきの質問の答えは、自分を《赤い羊》だと名乗った時にこの姿の方が説得力があると判断したからだ。僕は本体をお前の前に晒すことは無いし、晒したところで《赤い羊》だと一目では分からない。信じさせるには色々と面倒だから、この形にした」

 ヒキガエルはようやく冷静さを取り戻したのか、声に抑揚が戻る。淡々とした感情を感じさせない声色。質問に答えてくれたのは、単純にその程度の情報であればリスクには繋がらない判断したからだろう。

「次は、僕だ。お前は、仮に透を殺した後……どうするつもりだ? そのジェネシスの力は死ぬまで、もう永遠に失われることは無い。普通の人間として生きていくつもりか?」

「どう……か。うーん、先輩を取り戻すこと以外のことは考えてないし、とりあえずその辺りは後回しかな。でも多分、普通の人間として生きていくことになると思うよ」

 ヒキガエルに言われるまで、気づかなかった。私のゴールはGランクとなり、先輩を取り戻すまでだ。その後のことなんて、考えてもみなかった。まさかSSの快楽殺人鬼に、そんな当たり前のことを指摘されるなんてね……。

「透がお前を殺さなければ、お前も透を殺さないか?」

「…………それは無理だと思うよ。透は間違いなく私を殺しに来ると思うし、透は野放しにできない。じゃあ、次はこっちから二つ質問。一つ目、リリーの遺体から頭部を持ち去ったのはあなた?」

「ああ」

「理由は?」

「……赤染アンリには知られているから答えるが、僕は食った死体の能力を奪う力を持っている。だからだ」

「…………」

 異能力を奪う異能力。そんなものもあるのか……。

「次は僕だ。お前は何故後ろの女と手を組んでいる?」

 私の《一蓮托生》の異能力のことを知っているのに、それは知らないのか。ヒキガエルに探知系の異能力があると見て間違いないが、どこかしら穴はあるらしい。

「利害が一致したからだよ。それ以外に言えることは無い。じゃあ次は私ね。リリーの頭部を回収したのであれば、気絶した私を殺すことは造作も無かった筈。理由を聞いても?」

「単純に、赤染アンリの蘇生の為にはお前に死なれるのは困る。そして、Fランクからは嫌な臭いがする。とてもではないがお前らの脳なんて食えたものじゃない」

 ヒキガエルはげっそりとした表情をする。さっきから我慢していたのか。

 でも、変身と遠隔操作の異能力を使っていても、五感は作用しているらしい。

「なるほど、ね」

 こっちから聞きたいことはもう思いつかない。あとはヒキガエルの話を聞いて、お開きにしよう。

「……僕からは、これで最後だ。お前さえ僕らに未来永劫手出ししないと誓ってくれるなら、僕から透に進言してもいい。永遠の停戦を。お前の執着している男を返すことも含めて、だ」

 対話ができる相手だと僅かに信頼を得られたのか、ヒキガエルはそんなことを言ってくる。でも……。

「あり得ないことだね。透は誰がなんと言おうと私を殺しに来る。それに花子の異常な憎悪は私に向いているし、何より単純に先輩を取り戻してもそっちが引き渡してきた先輩じゃ私の知ってる先輩じゃないし……」

「そうか……。悪い話ではないと思ったんだが」

 やはり人の心が分からないからか、提案内容があり得ない。とてもではないが受け入れられるものではないし、そもそも学園の生徒と教師をほぼ皆殺しにして停戦とは、あまりにも都合が良過ぎる。一時的な休戦ですらアンリの腕と引き換えなのに、永遠の停戦なんて吞める訳がない。

自分の都合で物事を思考し、無自覚に相手に理解を求めようとするのは、やはり快楽殺人鬼特有の異常性か……。

 でも、あまりにも当たり前のように、無自覚に自分の異常性に相手の共感と賛同を求めようとするので、意志の弱い人間や、相手の感情にすぐ自分を委ねてしまうタイプの人間であれば、その深みに引きずられ、はまってしまうこともあるのかもしれない。そう思わせる怖さが、ヒキガエルにはある。

 話術……か。

 今のヒキガエルにはないけれど、透にはあった。

 もしヒキガエルが話術を身に着けたら……保守主義的なスタンスも含めて、とても厄介な存在になるだろう。

 仮に《赤い羊》を殲滅してヒキガエルのみを取り逃がした場合、ヒキガエルが《赤い羊》の全てを引き継ぎ、次の世代の脅威となる可能性もある……のだろうか。

 透の頭がすげ代わって、ヒキガエルが殺人鬼の王となり、新たなSSの集団を誕生させる可能性。

 透は狂っているが、怪物を育成することには特化している才覚がある。“自分自身そのもののSSSの後継”を育てている途中という可能性も……いや、考え過ぎだろうか。透の思考回路はよく分からないけれど、もしヒキガエルのような保守主義的な考え方もできるのだとしたら、万が一自分が死んだ時の保険として、SSSの後継を育てている可能性も……無いとは言い切れない。

 対話ができ、冷静で、おとなしい雰囲気だとしても、決して油断が許される相手ではない。

 だってそれは、”透に全て共通して”言えることでもあるのだから。

 悪を感じさせない悪人。

 まるで普通の人間のようにふるまいながら、殺戮と悪意を巻き散らす狂人。

 そして、それがもし仮に目の前のヒキガエルなのだとしたら――――

 自分の想像にゾッとしたものを覚えそうになるが、表情には出さない。

 さっきのやり取りだけでも、ヒキガエルが危険人物だということが分かる。でも、考え過ぎだ。私の今の発想には、根拠が不足している。


 ――――でも、いつか必ず、殺すべきだ。


 その確信は正義でも怒りでも悪意でもなく、義務感と後悔。……後悔?

 自分自身に突然湧いた謎の感情に戸惑いを覚える。

 でも、殺すタイミングは今ではない。

 いずれ、時が来たら……。

 根拠は無いけれど、自分の全ての直感が告げる。

 《赤い羊》で“絶対に”殺さないといけないのは、透と、今目の前にいるヒキガエルだ。

この二人を殺さない限り、永遠に悪夢は繰り返される。

 必ず、絶対に、何を引き換えにしてでもこの二人だけは必ず殺す。

 何故か私は、狂おしいほどの後悔と無念の果てに、そう過去に誓ったような気がする。

「……雑談は終わりだ。僕はもう行くよ。じゃあね」

 そう言って、リリーの肉はゼリーのように溶けて地面へ落ちながら消えていった。

「…………ヒキガエル、か」

 突然の来訪者の名前を反芻し、私は静かに、敵のその名を心の中に刻み込んだ。

次か、次の次でこの章は終わりになると思います。多分。

意外に11話が長引いてしまいましたね。

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