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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第11話 ⍜⑩【白雪セリカ視点】

「…………」

 ヒキガエルはあからかさまに訝し気な表情を浮かべる。

「僕とお前の利害が……一致するとは思えないが……」

 そう。簡単に受け入れられる筈がない。

 ましてや敵からの提案。だからこれは断られる前提での提案。

 でも無駄にはならない。こうして話せば話すほど、ヒキガエルは私に情報を与えてくれるからだ。

「もちろん、アンリの脳は渡せない。でも、私達が協力すれば《赤い羊》は消せる。あなたは彼らを本当の意味で仲間とは思ってない。だから単独で現れた。違う? 《赤い羊》の気まぐれで、あなたは死ぬ。そういう可能性もある。もし仮に三日間、《赤い羊》が弱体化するのなら、今こそ全員を消せるチャンスだとは思わないの?」

 保守主義の考えることは手に取るように分かる。私も似ているからだ。でも私と唯一違うことが一つだけある。保守主義者は最後まで人を信じないということ。

 ヒキガエルも、《赤い羊》を信じていない筈。なら、そこに私が入り込む隙間がある。

「…………」

「あなたは、こう考える筈。《赤い羊》が万が一負けた時、どうするのかを」

 保守主義の一番厄介な考え方として、敗北を前提に策を練る場合がある。

 自分が所属する組織が壊滅したとしても、自分だけは無傷で生き残る。

 さっきのヒキガエルの意味不明な強気は、恐れの裏返し。恐れているから怒り、威嚇する。


 ――――全ては、弱者の生存戦略。


「《赤い羊》が私たちに絶対に勝てる、その勝算に確固たる根拠はあるの?」

 もはや考えてから喋ってる暇は無い。話しながら考えて道筋を自分で作っている。

 ヒキガエルが保守主義なのであれば、私は彼の考えていることが分かる。

 もう決めつけていい。そのぐらい強気で行けば、相手の方が揺らぐ。

「《赤い羊》が滅んだ時の“保険”も、必要だとは思わない? 私の提案は、あなたにとって悪くないものだと思うよ」

 保守主義なのであれば、必ず考える筈。

 自分の策が破綻した時の、第二、第三の策…………を…………?

 ぐらりと、意識が傾きそうになる。強烈な頭痛と吐き気。

 そう、保険という考え方に……強い既視感を感じる。

 敗北を前提とした策。一周目と二周目を捨て、三周目に全てを繋ぐ……策?

 私は以前、全く同じことを考えたことが……ある……?

 記憶にないけど……私は――――



「今回も失敗――――ね。何も私は見いだせなかったよ。《起死回生》を――――ば、死にながら――――になる為の軌道修正が――――じゃないかな? 記憶が――――しまう欠点は、――――を使っておいて――――のタイミングで“次”の私に引き――――ば、少なくとも――――は継承できる。どう、――――。この案に何か――――ところとか――――ないかな? Gランクになる為に必要なのは――――だってことは分かってるのにそれはもう――――だから―――うん、そうするしか――――」



 頭が、割れそうに痛い。

 私が誰かに話しかけている存在しない筈の記憶……。

「…………どういう、意味だ」

 ヒキガエルの声で、私は我に返る。と同時に、頭痛の波も引き、意識が楽になる。

 このことは後で考えよう。今は、ヒキガエルだ。

 ……食いついてきた。

 もう五分はとっくに過ぎてる。つまりここから先はヒキガエルの予定外。

 私の時間だ。

「私と透が一対一でぶつかった時、あなたはどっちが勝つと思う? 100%、透が勝つと思える?」

「…………」

 ヒキガエルは肯定も否定もしない。

 私を注意深く観察しながら、私の発した言葉の意味と、そして意図を考えている。

 けれど、大きな手ごたえを私は感じていた。

 ヒキガエルの目から見て、私と透は互角……と見てもいいのかもしれない。

 今の私でも、透を殺せるほどの力はある…………のか。

「こういう考え方もできる。三日間の間に私たちは弱体化している《赤い羊》を潰す。その間に、あなたもこちら側に付くのであれば、向こうの戦力が大幅に削れ、確実に《赤い羊》を殲滅することができる。そうすれば透は消え、あなたは自由を得ることができる」

「お前……」

 ヒキガエルは驚愕に目を見開き、熟考している。

 まるでそんなこと考えたことも無かったとでも言いたげな、そんな顔だ。

「《一蓮托生》は約束を守らせる異能力。私に殺されるのが不安なら、あなたの身の安全をこの盟約に含めてもいい。但し、《赤い羊》は裏切ってもらう。本当は戦ってほしいけど、そこまで私も鬼じゃない。無理強いはしない。あいつらの全能力の情報を一分の漏れも無く開示し、あいつらに加勢しないでくれれば、それだけでいい。だいぶ譲歩したけど、これでどう……かな?」

 《一蓮托生》。あまり使いどころを思いつかない異能力だったけど、ヒキガエルの提案のお陰で使える幅が広がった。この異能力が本領発揮する場面は、“敵の信頼を勝ち取り裏切らせる”使い方が一番だ。Fランクでは絶対に思いつけない使い方。

 やはり私には、SSの思考と発想が必要……。

「……」

 シスターも存在感を殺しているものの、僅かに動揺している気配を感じる。

 こんなのは予定外だ。滅茶苦茶と言ってもいい。私の暴走にしか見えないだろう。でも、ヒキガエルは確実に動揺している。動揺しているから、もう既に大量の情報を露出させている。

 あと”もう少し”だ。もう少しで……こいつは”全て”吐き出す。

「ぼ、僕は…………」

 ヒキガエルは苦悩の表情を浮かべ、ゆっくりと答えを口にする。

「お前たちには付かない」

「……たとえ外道でも、仲間は売れない?」

「違う……。そうじゃない……」

 ヒキガエルも自分の内心を整理しているのか、話すテンポが少しだけ遅くなる。

「あなたは本当は、《赤い羊》が消滅することを心の底では望んでいるんじゃないの?」

「…………僕が裏切り、お前たちが負ければ、《赤い羊》全員で僕を狩ることが確定する。そうすればもう生き残りは無い。どう足掻いても、僕は死ぬ。それが《赤い羊》が勝った場合の、僕のリスクだ」

 私の揺さぶりには応じず、ヒキガエルは静かに自分の考えを述べる。

「お前たちが勝った場合にも、リスクは当然ある」

「……そうだね。私は《赤い羊》を必要があれば殺そうと思ってる。あなたも例外じゃない」

「そう。だがそれだけではまだ足りない。お前たちが勝った場合のリスクは、もう一つあるからだ」

「どういうこと?」

「……僕はお前が分からない、白雪セリカ。お前からは弱者の匂いがするのに、透と同じ匂いがする……時がある……今のように……」

「…………?」

 ヒキガエルの言わんとしていることが、分からない。

「は、はっきり言おう。僕は……透より“お前の方が”怖い。《赤い羊》が、お前を殺す方が……安全だという考えた方も、ある」

「……え?」

「リリーも、ヒコ助も死に、お前の後ろにいる女も敵だったのになぜかお前に付いている。お前が進む道は、破滅的なのに、何故かお前に都合が良い。そこに周到な計算があるのなら納得できるが、お前はいつも行き当たりばったり。突然黒に変色したのだってそうだ。必ず活路を開いてくる。目に見えない不自然な大きな流れみたいなものが、気持ち悪い。何か……そう、何か意図を感じるんだ……。こうなるように仕向けられているような……。これは、まさか、何かの異能力なのか……? 現実世界や全ての人間の認識を丸ごと歪めるような……いや、考え過ぎ……か……?」

 弱者的な思考をする慎重なヒキガエルだからこそ、目に見えるものだけで物事を判断せず、絶対に楽観的にならない姿勢がよく分かる言葉だ。

 そして、私がヒキガエルの考えることが分かるように、ヒキガエルも私の何かを嗅ぎ取っていることが分かる。

 ヒキガエルは、私のことを恐れている……。

 透のような悪のカリスマも無く、SSの快楽殺人鬼のような威圧感も無い、こんな私を……。

「…………」

「お前なら透を殺し得る……と思う。けど」

 ヒキガエルは一度、そこで言葉を区切る。


「――――透が死んだ後にあるのは、透のいない平和な世界じゃない。透を殺した化け物が存在する世界だ。何をしでかすか分からない、化け物。そして、その化け物は、お前だ、白雪セリカ」


「――――私は……“人間”だよ」


 恐れるような眼差しで私を凝視するヒキガエルに、私は静かに宣言する。

「交渉は決裂……かな?」

「……勘違いするな。取引しないとは言っていない。僕がお前の仲間になることはない。これは確定事項だ。だが、お前とそこの女が僕に危害を加えないことを盟約に含めるのであれば、《赤い羊》の情報を売ってもいい。アンリの腕とは別に、だ。これなら、僕とお前の利害は完全に合致する」

 ヒキガエルの言葉を慎重に吟味するが、確かに聞き間違いじゃなくこいつは言った。

 《赤い羊》の情報を売ってもいい……と。そう、確かに言ったのだ。

「…………っ」

 まさかここまでの成果を得られるとは思っていなかった。

 ヒキガエルに《赤い羊》の情報を売らせることができた。代償は高くついたかもしれないけど、これで……全て上手く――――


「――――セリカ、あなたはそれで本当にGランクになれると思ってるの?」


 シスターの、凍えるような声に寒気を覚え、ハッとする。

「……どういう、意味?」

「Fランクをただ否定して、違うやり方をすればGランクになれる訳じゃないでしょ」

「…………それはその通りだと思うけど、今の、何かまずかった?」

「分からないの? 本当に? 本気で分からないなら…………ここでお別れよ、セリカ」

 シスターは諦念の籠った眼差しで私を見据えた後、ゆっくりと目をそらした。

 まるで、殺す価値も無いとでも言うかのように……。

 私に何かを期待したことが馬鹿だったとでもいうかのような、後悔の残滓を漂わせて。

「……はぁ。もう一度聞くわ。あなたの目指しているGランクは、こんな下品で、低俗なものだったの? あなたは、卑怯者の裏切りを歓迎し、その命を見逃す対価として、自分が殺したい相手の情報を買うの? その先にGランクがあると、本気で、そう……思ってるの?」

「…………」

 冷や水を浴びせるようなシスターの言葉に、私は何も言い返すこともできず、呆然とすることしかできなかった。

コレジャナイ感が凄すぎて3回ぐらい書き直してようやくコレになった……。

違和感の正体は悪に慣れ過ぎたセリカのバグだったという。独り言です。

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