第1話 殺人カリキュラム⑮
「い、やぁ、い ぁ……」
遠い記憶。夏休みの川辺。小学生のセリカ。セリカの乱れた服、涙、殴られた傷痕。
「お前は が してや よ」
俺の声。
「セリ を犯そうとし な、お前」
雨の中、俺は金属バットを持っていた。
「必ずお を殺す、殺して る」
俺の声。
「お前は が守ってや よォォ、セ カァァ。お前は弱い らなァァ。俺がい いと何もでき い。お前は が守らないと、どうしよう ないからなァァ。ケケ、ケケ ケ」
「たす、たすけ、たず――――」
命乞いの声。近所の男。セリカを標的にした男。夏休み、川辺に行く俺たちをストーキングし、セリカがはぐれたところを狙った万死に値する男。
金属バットで、ひたすら叩きつける。頭の中がかち割れて、中身が出てくるまでやり続けるつもりだ。せっかくの夏休みを、台無しにしやがって。セリカを そうとしやがってッ!
ガンガンガンガンガンガン。がんがんがんがん。ガンガンガンガン。ガンガンガンガ――――
「 さん、も やめ それ以 は死 じゃう ら」
結の声。
「何言ってる だ結? 死ぬ でや んだよ。死な きゃ意味が無い ろ?」
視界がクラクラする。人間は怒りすぎると、視界が歪むらしい。泣いているわけでも無く、瞬きをしている訳でも無く、頭が痛い訳でも無いのに、視界が渦のように歪む。
「だ、れ。誰なの、あ たは。こん の、零兄ちゃん ゃない。私の零兄ちゃ を返して」
セリカの化け物を見るような、恐れるような瞳。涙に濡れる目が、たまらないほどにそそる。
「変なこと言うなよ、セリカ。俺は百鬼零だ。誰よりもお前を大切に思っている、百鬼零だよ……。ハハッ、ハハハハハハッッッ!」
冷笑しながら、俺は泣きじゃくるセリカを見下ろしていた。