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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第11話 ⍜⑦【白雪セリカ視点】

「……赤染アンリを生き返らせるのか僕は聞いてるんだ。質問に答えろよ、うざいな」

 こちらの問いかけには答えず、さっきからそれだけを繰り返してくる。

「アンリを、知ってるの?」

「セリカ、こんなやつと会話してどうするつもり? さっさと殺した方が――――」

「シスター、少し待って」

「…………」

 シスターの言い分も分かる。紫である以上、問答無用で殺すべきだ。

 紫は快楽殺人鬼のジェネシスカラー。あれと同じ色の、骸骨、リリー、ヒコ助と命のやり取りをした今では、やつらのおぞましさを理解している。

 何よりこいつはリリーのカタチをしている。私が殺した相手の姿をしていながら、自らをリリーではないと断言するこいつの不気味さは異常だ。明らかに危険な相手だと全身の直感が警鐘を鳴らしている。

 ……でも。

 

 ――――悪を、否定するのではなく、受け入れてみろ。そうすることでしか見えない景色もある。


 結の最後の忠告が、どうしても引っかかる。

 一体、どういう意味なのか。

 快楽殺人鬼の存在を肯定なんてできるわけがない。でもその先入観が私の目を曇らせているのだとしたら……少しでも相手を知るべきだ。

 私はFランクに限界を感じている。その限界を超える為なら、藁にもすがりつく。

 例えその行為が深淵を覗くことになるのだとしても…………。

「赤染アンリの脳は、僕の物だ。物だったのに……ヒコ助が、ヒコ助が全部爆風で壊しちゃうから……」

「…………」

 会話することを諦めたくなる程にぶっ飛んだ返答が返ってきた。

 私の頭が相手の言葉の理解を拒むが、意味合いだけを取るのであれば、どうやらリリーもどきはアンリの脳に執着しており、それを戦闘で破壊したヒコ助を憎んでいる……ということ。本当に? 何か聞き間違えてない? 自分が信じられないが、確かに目の前の相手はそう言ったのだ。

「アンリの脳は僕が貰う。生き返らせてくれるなら、僕がそれを貰う」

「セリカ、もういいでしょ? こいつはここで殺さないと。後々面倒よ」

「分かってる! 分かってる、けど……」

 私には受け入れられそうにない。まずは話を聞いてみよう、と思ったけれど、そもそもパープルジェネシス相手に会話なんて通じるわけがなかったんだ。

 殺すしか……ない、か。

「取引を、しに、来た」

「え?」

「だから、取引」

 言葉がたどたどしいが、どうやらリリーもどきは私と取引をしたいらしい。

「取引……ね。それならまずはこっちの質問に答えてくれる?」

「嫌だ。まずは、僕の話を聞いてほしい」

「……」

 いちいち噛み合わないというか、相性が悪いのだろうか。会話のテンポが私と大幅に違うようで、出鼻をくじかれる。

「まず、お前が持っているその肉片。赤染アンリの左腕。それを使って蘇生能力を使おうとしているのなら、意味が無い、と、言っておく」

「どういう……意味?」

「その肉はニセモノ。僕がコピーしたヤツ。いばら姫の《完全再現》程じゃないけど、肉なら僕は長い時間とジェネシスを使えば複製できる。脳まで再生できるか試したけど失敗した、ただのダミー失敗肉。そんな肉使っても、意味ない。蘇生能力は発動しないか、発動したとしても失敗する。お前がやろうとしてることは、無駄。僕がその辺に捨てたのをお前が勝手に拾って、オリジナルの肉だと思い込んでるだけ。”本物”は、僕が持ってる」

 そう言って、リリーもどきは壁肉を消滅させ、改めて私達と向かい合うと、パチンと指を鳴らす。すると空中にいきなり左腕が現れ、紫のジェネシスに包まれながら浮遊する。その腕は衣服こそ擦り切れているが、完ぺきなまでに再生されて、まるで腕だけなら生きているような印象すら受ける程綺麗だった。焼けておらず、切断面から見えている骨がどこか生々しいが、肌の色だけは艶やかで。まるで切り落として数分も経っていないように見受けられるほどに……。

「本体の死体は消し炭で灰と化してしまった。ヒコ助もそう。でも腕だけは僕が守った。あのレベルの死闘に介入するのは流石に僕でもできなかったけど、それでも、僕の《肉圧絶壁》は遠隔操作できるから、遠くから赤染アンリの左腕を保護した。それでも、ボロボロだけど」

「…………あなたは、アンリをどうしたいの?」

「脳みそが食べたい。いい匂いがするんだ。赤染アンリからは。でも初対面の時はスカーレットジェネシスだったから、食べたら勿体なかった。進化して“食べごろ”になってくれるまで待つつもりだったのに、ヒコ助が殺しちゃったから……脳まで……」

 意味合いを整理するのであれば。リリーもどきの言う“取引”の内容は、アンリの本物の左腕を渡すから、確実に生き返らせろということなのだろうか。でも、食べさせるなんてことは絶対にさせるわけにはいかない。

「私と取引するっていうのは、その本物の左腕を私にくれるっていうこと?」

「そう」

「今私が持っているのが偽物だっていう保証はどこにあるの?」


 《人肉生成》――ジンニクセイセイ――

 《解除》


 ドロりと、肉がゼリーのように溶けるように、私の手からすり抜けて地面へと落ちていき消滅する。


「……僕は、肉を操る異能力者。それがたとえ死体でも、肉なら僕は操れる。僕は、《赤い羊》の、ヒキガエルだから」


 快楽に笑うことも、理不尽な怒りを見せることもなく。

 淡々と、何の感情も感じさせない虚無的な奈落の瞳で、そう、リリーもどきは名乗った。

 リリーの肉を纏う“何か”は、肉を操る異能力者だった。


 ――――その時。


 最悪の相手に、アンリの身体が渡ってしまったことに、


 ――――初めて、私は気付いたのだ。

ヒキガエルの出番ですね……。

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