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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第11話 ⍜⑥【白雪セリカ視点】

「待って、セリカ。誰かいる……」

 シスターの声にハッとして、振り返る。

 そこには、存在してはならない人がいた。

 禍々しい紫色の翼を生やし、低空飛行しながらゆっくりとこちらに近づいてきているその女は――――

「リリー……どうして、生きているの?」

 私がこの手で殺したはずのリリーが、無傷で私たちの前に現れたのだ。

「……僕はリリーじゃないよ」

 ゆっくりと地面に足を付けて翼を消滅させたリリーの姿をした“何か”は、静かに首を横に振った。

 ジェネシスの濃度は異常なまでに“濃い”のに、発露させている範囲が狭い。そして何故か殺気が一切感じない。範囲が狭いジェネシスと殺意の無さで、存在感すらも希薄。《気配察知》でもここまで近づかれないと気付けない程に……。でも色はパープルのSSで、底知れない不気味さだけがあり、それがとにかくちぐはぐだ。

「……リリーじゃ、ない?」

 リリーの形をしていながら否定するその意味不明さが気持ち悪く、思わず凝視してしまう。確かに、ジェネシスの印象はリリーとは異なる。鮮やかさと禍々しさが同居したジェネシスの気配と……明らかに違う。そして表情も違和感がある。リリーは快楽に酔いしれて笑っているか、思い通りにならない展開には歪な怒りの表情をしていることが多かった。だがこいつは……無表情。少しだけ不機嫌な、陰鬱な印象だ。

 じっと存在を押し殺し、そこにいることを感じさせない小さく不気味な気配。まるで自分の強さを誤認させる為だけにそうしているような、嫌な感じがする……。

「赤染アンリを、生き返らせるの?」

 リリーの形をした何かは、小首を傾げて私へ問うてくる。

「…………あなたは、何?」

 《赤い羊》なのか、それとも殺人カリキュラムの生き残りか。

 シスターと目くばせすると、首を横に振る。シスターもこいつに関しては、何も把握していないらしい。

「取り合えず紫だから殺していいわよね? セリカ」


 《吹雪之剣》――フブキノツルギ――


 シスターはジェネシスの色のみで相手を敵とみなし、白き剣を具現化し私をかばう様に前へと躍り出る。

「気持ち悪いなぁ、そのジェネシス。しかも二人。色も気配も印象も何から何まで……吐き気がする」

 リリーもどきは、本当に吐きそうなげっそりとした顔で、辟易したように言いながら、掌を前へとかざす。


 《肉圧絶壁》――ニクアツゼッペキ――


 リリーもどきが異能力を発動すると、赤黒い肉の塊が、リリーを守るように何もないところから急に現れ、壁状の形に具現化する。しかも巨大で、見上げなければ壁の先が見えない。肉はまるで生きているかのようにビクビクと伸縮を繰り返している。

「何、これ……」

 シスターは気持ち悪そうに吐き捨てる。


 《白雪之剣》――シラユキノツルギ――


 私も剣を具現化して、肉の壁に刺し込んでみる。

 ブチブチと神経を引きちぎる嫌な音とともに、刀身が沈むが、それだけだ。

「……無効化、されない?」

 いや、そうじゃない。

 肉の伸縮運動は《白雪之剣》が触れた瞬間に止まった。

 つまり、この異能力の本質は、肉を具現化させることではなく、肉を具現化させた後の動きにあるということ……か。

 この肉の存在そのものまでは無効化できなかった。

 《白雪之剣》の無効化範囲には何かしらの“限界”がある……ということ?

 ゾッとする。

 今まで無意識にどんな異能力も一瞬で全て無効化できると思っていた。

 《白雪之剣》は万能ではない、ということ。

 限界を見誤れば……そこに付け込まれて死ぬ。

 そういう未来もあり得る……のか。

 ごくりと喉を鳴らすも、リリーもどきは特に何もしてこない。まるでシスターが敵意を向けたから、身を守った。行動原理がそれだけのように感じる。

「お前らは気持ち悪い……気持ち悪いんだよ……」

 まるで近づきたくも無いとでも言いたげに、肉壁の向こうで小さな声でリリーもどきはぶつぶつと言っている。

「…………」

 分からない……。このリリーもどきの正体が。

 何がしたいのか、どうして私たちの目の前に現れたのか。

 会話もあまり成り立たないし、何より攻撃をしてこない。

「あなたは、《赤い羊》なの?」

 私はそう、相手へと問いかけた。

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