第11話 ⍜⑤【白雪セリカ視点】
「……これ、は」
体育館の惨状は想像を絶していた。
焼野原……という言葉をまさか現実世界で連想することになるなんて思わなかった。
体育館という建物は爆弾でも投下された後のように半壊しており、全体的に焦げ臭い。
冷たい風が吹いて硝煙と砂埃が鼻孔をくすぐる。
「…………」
私は、酷い女だと思う。
《聖域結界》の異能力の本質は、強制的に一対一での環境を用意するというもの。だから私はリリーと一対一で戦えたし、アンリはヒコ助と、結は西園寺要と。
でもどう考えても、西園寺要に結をぶつけるのは殺させるようなものだ。
アンリだって死んでいる。
二人を守ると思いながら、私は二人を破滅に追い込んだ。
私に正しさなんて……本当にあるのだろうか……。
「セリカ。Gランク探しもいいけど、それは未来の話でしょう。今はFランクの正義に縋るしかない。あなたがブレてしまえば、Eランク以上となり、この先《赤い羊》と渡り合うことなんてできないのだから」
「……うん」
「私はあなたに従うだけ。私一人で戦うことはしない。あなたが契約を果たさないなら、それも絶望とみなし私はあなたを殺すわ」
「……そう、だね」
シスターは決して、私の味方なのではない。
シスターは、私の“測り”だ。
私がどうなるのかを観察して、その結果次第では私を見限る。
でも、その時が来るまでは、私を命がけで守る。
そういう、無茶苦茶な契約だ。
自らに正しさを見出そうとするのは、人間の弱さだ。
自分が正しいと思わなければ生きていけない。なんて、弱い……。
でも、それを受け入れて、次に進まなければ、私に未来は無い。
いばらの道だ……。
でも、そういう道を歩いて進化していけば、きっと私は透とも渡り合える存在になれる。そう、信じて前に進もう。
「……あったよ」
決意を胸に、私はアンリの死体を見つける。
肉が黒焦げになって変わり果てた。アンリの左腕が、骨をむき出しにして地面に転がっていた。この細腕は男のものではない。ジェネシスの残滓が私の知っているものとは違うけれど、きっとジェネシスカラーが変動した影響だからかもしれない。
「そこに、いたんだね」
私は無意識に涙が流れていくのを感じながら、その左腕を両手でそっと拾い上げた。
「…………」
壮絶な亡骸だ。
一体、どれほどの殺し合いをすればこうなるのか……。
普段の飄々とした態度からは想像できない死に様。
文字通り、死に物狂いでヒコ助を殺したのだろう。
「……っ」
そう思うだけで、涙が止まらない。
「セリカ。感傷もいいけど、あまり時間は無いわよ。《赤い羊》がリリーとヒコ助が戻らないことを知れば、総力を上げてこっちに来る可能性がある」
「うん、分かってる……」
私は左腕を抱えて、静かに頷いた。