第11話 ⍜④【白雪セリカ視点】
「で、これからどうするの?」
影に徹していたシスターが、声をかけてくる。
私に対して害する相手から私を守る。
私が絶望しきった時に私を殺す。
その契約以外で何か主体的に行動することは本当に無いらしい。
結とは戦闘になると思っていたが、それは杞憂だった。
むしろ……私の方が…………。
「《赤い羊》を追うよ。今度はこっちから仕掛ける。でも、その前にやることがある」
「やること?」
「……アンリを、生き返らせる。一度しか使えない異能、《死者蘇生》で」
「私はあなたの決めたことにただ従うだけ。でも、不安要素があれば疑問は言わせてもらうつもり。本当にやる気? メリットはあるの?」
「さっきの会話で確信した。Fランクでは私の望む未来は手に入らない」
「正義では悪を裁くことしかできないってやつ?」
「何としてもGランクを目指す。私はもう、Gランクになれないことを恐れない。それしか道が無いのなら、その道を行くしかない」
《赤い羊》を殺すことがゴールなのではない。
正義が悪を倒す。それは物語としては“美談”だ。
でも、正義は悪が存在することを心のどこかで願っている醜悪な現実がある。
この世界から全ての犯罪者が消え失せれば、警察も裁判所も消滅する。
完全なる善の世界が実現した時、正義は悪を裁くという“欲望”を果たせない。
どんな行動も、その原動力が欲望なのであれば、快楽殺人との差異を証明することすら困難だ。
恐らくそこに、透が見出したであろう、人間の本質は悪だという真理がある。
「私は、私に足りないものを知る必要がある。多分、私に足りないもの、その全てを結は持っていて、だから足りない私が弱く見えたし、助言すら施したんだと思う……」
「赤染アンリの蘇生とそれがどう繋がるの?」
「私には出せない答えを、あの人なら出せる。それを知ることが、恐らくGランクへの足掛かりになるんじゃないかって、そう思うの」
「か細い希望ね」
「希望はいつだって弱弱しくて蠟燭の火のように淡いものだと思うよ。逆に、強すぎる希望の方が、“誰かに作られたニセモノ”って感じがする」
「…………」
「アンリの死体を回収しに行く。場所は……体育館の方かな」
目を閉じてジェネシスを探り、私は歩き出す。
もうアンリは死んでいるけれど、ジェネシスの残滓が特別に濃い場所がある。
「死体が跡形も残ってなかったら?」
「…………死体が無いと《死者蘇生》は使えない。でも、指一本でも残ってれば大丈夫。だから、その可能性に賭けよう」
「そう。私のことはどう説明するの?」
「そのまま伝えるよ。アンリなら普通に受け入れてくれると思うよ」
「確かに、ね……」
アンリの性格を何となく分かっているのか、シスターは神妙に頷いている。
「最後まで付き合ってね、シスター。この先、どうなるのだとしても」
「……」
シスターは何か言おうと唇を開くも、結局何も言わず、何かを堪えるかのような表情で、少しだけ頷くのみだった。
私たちは、音楽室を後にした。