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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第11話 ⍜③【白雪セリカ視点】

「……結」

 生涯の敵。

 常に私の闇を暴く存在。

 思えば私のジェネシスが白から灰色へと変わったあの瞬間のトリガーも、結の存在だった。

 私にとっての究極の敵は、もしかしたら透でも死体になった先輩でもなく、百鬼結ただ一人なのかもしれない。

 私の弱さを知り尽くしている……最悪の相手。


「セリカ。ついでにもう一つ言ってやろう。もし兄さんがどうしようもない悪人としてお前の目の前に現れた時、お前は兄さんを殺すのか?」


「…………それ、は」

「答えられないか? なら、お前に待っているのは“破滅”だけだ。《赤い羊》を皆殺しにできたとしても、お前はそこで終わる。悪である《赤い羊》を殺せても、悪としての兄さんが殺せないのであれば、お前の精神はそこで崩壊する。正義では悪を裁くことしかできない。正義のFランクに限界を感じることがあるとすればそれは、悪という存在に依存している癖に悪を否定することでしか成立できないその“弱さ”にある。《赤い羊》を裁いた後、兄さんを裁けないのであれば、それはもはや正義ではなくただの“お前の為”の殺人行為でしかない。そしてそれはもはや、透のやっていることと変わらない。愛するモノの為に他者を否定して破壊する。愛のベクトルが悪という概念か、兄さんという人間か、という違いしかない。透とお前は同じような存在だ。その時点でな」

「……黙って」

「それとも、その様子だともう誰か殺したか? リリーとヒコ助の気配を感じないが……。お前が殺ったのか? なら殺す瞬間お前は何を思った? 自分の正しさを証明する為に相手を殺したのか? 私と赤染先輩を守る為に~~とか言いそうだもんな? お前の性格なら。でも土壇場で怖くなって結局は恐怖から逃げる為に殺したんじゃないか?」

「黙って」

「図星か。ムカついたか? なら私を殺してみるか? 無抵抗のこの私を」

 両腕を広げ、ジェネシスを消して結は自らを無防備にする。

「…………っ」

 怒りで、顔が熱くなる。

 胸がズキズキして、痛い。

「……私だって、正義なんて言葉は嫌いだよ。好きでこんなジェネシスに到達したんじゃない。ただそれしか道が無かったから……」

「言い訳か? なら花子はどうだ? 虐待されたと言っていたあの女だよ。花子だって“それしか道が無かったから”透の手を取り、《赤い羊》になったんじゃないか? いや、そもそも《赤い羊》のメンバー全員に何かしらの“それしか道が無かったから”という理由があるのかもしれない。なら悪とはなんだ? お前はそれでも自らを正当化して《赤い羊》を殺すのか? 殺せるのか?」

「黙ってよ…………」

「なぁ、セリカ。悪人は生まれた瞬間の赤ん坊の頃から悪人になることが決まっていたのかな。好きで悪人になった悪人なんているのかな。本当にどうしようもなくて悪になるしかなかった悪人も、もしかしたらいるんじゃないかな」

 悲し気に微笑んで、結は私を見つめる。


「誰かを傷つけて苦しめて愉しむ悪という衝動は、本当は満たされるはずだった筈の“何か”が満たされなった代償行為でしかない。私はそう思うんだよ」


 結の言葉は、どこまでも苦痛でしかない。聞いていたくない。

「……結、あなたは……これから、どうするつもりなの?」

 さっきから私を責めてばかり。でも、結と私の目的は変わらない筈だ。

 先輩を取り戻すという……ただ一つの目的だけは共通しているのだから。

「私には私の行動原理がある。デルタと、約束していることもあるしな」

「結、一緒に行動するつもりは無いってこと、だよね?」

 ここまで私を責めておいて、味方になるとは思えない。正直、私自身、そういう気持ちも無くなっている。

 私は、結が、“嫌い”だ。

 どうしようもなく、嫌いだ。

「ああ。私は単独で動く。お前はお前で勝手にやればいい」

「そう。分かったよ」

「私のことが嫌いで仕方ないって顔だが、最後にもう一つ忠告だ」

「……もういいよ。どうせまた嫌なことを言うんでしょ?」

「まぁな」

 その相槌の打ち方が先輩と似ているのが、また、ムカつく……。


「悪を、否定するのではなく、受け入れてみろ。そうすることでしか見えない景色もある」


「……どういう、意味?」

「Fランクの限界を超える方法は一つしかない。正義でも善でも悪でも必要悪でもない何かになることだ。そしてそれを知ることだ。私から言えることはそれだけだ」

「…………」

「じゃあな、セリカ。“今度”は上手くやれよ。これが最後のループになる」

 そう言って結は私とすれ違い、音楽室を出ていこうとする。


「待って」


 思わず、私は結を呼び止めていた。

「待たない」

 結は容赦なく歩みを進めて出ていく。

「最後のループって、どういうこと? なんで、私の《起死回生》のことを知ってるの?」

「時と生命を司る異能力を使える人間はお前だけではない」

 それって、結も……。その思考に至るも、結の背中はどんどん小さくなっていく。

「さっきまでのって、もしかして、アドバイスなの!?」

 私の弱さを暴いたのは、ただの悪意ではない……のだろうか?

「最初から忠告って言ってるだろ。日本語分からないのか?」

 振り返ることも無く憎まれ口を返し、結の姿は見えなくなる。

「…………結」

 三つの忠告、か。

 それを知らないまま未来を目指せば、確かに私は破滅していた。

 それを防ぐ為の、言葉だったのだろうか。

「……嫌い」

 それでも、やっぱり嫌いだ。

 私は……結が、嫌いだ。

11話は短めです。

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