第1話 殺人カリキュラム⑭
「百鬼結」
「…………」
いつの間にか、結の名前が呼ばれていた。その瞬間、一気に現実に意識が引き戻される。ああ、これは現実だ。現実なんだ。妹の名前が、殺人鬼の口から出たことに驚くとともに、やるせない気持ちになる。
《狂人育成》――キョウジンイクセイ――
結を暗黒のジェネシスが覆う。結は声を上げなかった。
むしろ……結は睨み付けていた。この世の全てを殺しうる神のような男を。恐れている筈なのに、それでも結は透を睨み付けていた。その姿に、俺は打ちのめされてしまう。
「…………」
何をやっているんだ、俺は。
何を恐れている。
結を、セリカを、守らないと。
二人を守れるのは、俺だけだ。
俺は決意を堅くし、息を整えた。
奴等の話が本当なら、俺たちはこれから、殺し合いをすることになる。
死に物狂いで殺し、死に物狂いで殺されない努力を、しなければならない。
それをしなければ――――
「白雪セリカ」
「っ」
セリカの名が呼ばれる。
全身に緊張が走る。セリカ、セリカ、気をしっかり持て。怖いのは分かる。だが、ちゃんと壇上まで行くんだ。でなければ――――
「…………」
セリカは動かない。いや、動けないのか?
殺人鬼達が持つプレッシャーは、それほどまでに強大だった。名前を呼ばれ、奴等の元へ行かなければならない。ただそれだけのことが、ただそれだけのことが、できない。
「来ないのですか? リリー、来ないのであればあの子を――――」
「セリカ」
俺は思わず、セリカの元へ駆け寄っていた。
周囲がざわつく。殺人鬼が支配する場を、乱してしまった。
べつに動くなとは言われていない。命令を無視した訳では無いが、これはある意味死を覚悟しなければならない暴挙。
「せん、ぱい……?」
セリカは俺を見上げる。その目には涙が滲んでいた。
その泣き顔を見た瞬間、フラッシュバックが走る。