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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第10話 Fランク VS Fランク⑤【白雪セリカ視点】


 《明鏡止水》――メイキョウシスイ――


 世界がスローモーションになる。

 シスターが《一片氷心》を発動する前に先手を打つ。一瞬でもいい、時間を稼ぐ!

 シスターはもうジェネシス切れが近い。行動そのものは無謀に見えるけど、目だけは冷静。私の“限界”という言葉にも過剰反応していることから、自分の限界を超えるようなジェネシスの使い方はしない筈。

 自分の決めた限界値以上の戦いをしない。そしてそれが私に見透かされていること。そこがあなたの決定的な“弱点”だよ、シスター。

 《一片氷心》は恐らく攻撃の直前に使ってくると見ていい。


 ……恐らく、勝機は一瞬。


 《快刀乱麻》解除。


 《白雪之剣》――シラユキノツルギ――


 白い剣を具現化しながら、思考を加速させる。

 この引き延ばしたこの5秒間で、シスターの攻撃を防ぎ切る勝ち筋を見出すしかない……!

 反射も軽減も最適とは言えない。

 ここは無効化で何とか凌ぐしかない。

 まずはこの吹雪をどうにかできないだろうか? 炎のバリアを突き抜けるように剣を吹雪に当てる……が、無効化されない。

 三つの異能力を複合した吹雪。これらの内、どれかに無効化すら無効化してしまう効果がある異能があると考えるべきか。

 吹雪の無効化はできない。

 Fランク、いざ相手取るとなると本当に厄介だ。

 無効化もそうだけれど、基本的に“すり抜ける”特性のある白いジェネシス。けど、所持能力の中に“すり抜けないことが前提”のものが稀に紛れ込んでいることがある。

 私にとっては、鎖を具現化する《聖女革命》、すり抜けるものをすり抜けなくする《色即是空》がそうであるように。

 この短期間で、シスターのどの異能力にすり抜けと無効化の特性があるかなんて見極められる訳がない。

 唯一分かるのは、《武御雷神》は”すり抜けない”異能力だということぐらいだ。

 シスターは私と同じで駆け引きはしない主義だけれど、Fランクのスノーホワイトジェノサイダーはカードゲームで例えるところの“ジョーカー”を常に隠し持っている。

 それがすり抜けない異能力、異能力を無効化したり反射する異能力だ。

 弱い異能力だとナメてかかると取り返しがつかない。そういう怖さが、Fランクにはある。

すり抜けると思って受ければマトモに食らって身体にダメージを受けて致命傷。

 逆に、すり抜けないと思って防げばすり抜け攻撃を食らってジェネシスを無効化されて致命傷。

 そして私の《色即是空》は後出しじゃんけんの如く、すり抜けることもできるしすり抜けないこともできる。

 シスターを介して、私は自分の強みを見出していた。

 この“気付き”はいつか必ず役に立つ……。

 だけど今はシスターをどうにかしなくちゃいけない。

 見極めができない以上、やはり無効化できない前提と考えた方が安全。防ぎきるしか道は無いとみるべきか。

 実際、無効化を無効化する異能力を混ぜてきているし、《白雪之剣》を過信し過ぎると負けるかもしれない……。

 シスターは次の一撃で全てを決めてくるつもりだ。出し惜しみをするとは思えない。

 相手の異能力の全てがジョーカーのつもりで挑んで初めて渡り合える。そう考えるべきだ。


 《守護聖盾》――シュゴセイジュ――


 ひし形の白き盾が三つ具現化し、私を守るように右、左、前方に浮かぶ。

 盾の中心には、それぞれブルーダイヤモンドが埋め込まれている。

 防御に特化した異能力。

 金のレイピアと同様、この盾に触れたジェネシスを摩耗させる特性を持つ。

 自分の意志で自在に浮かばせられるのも特徴。

 《色即是空》無しで最初から物理化されており、SS相手にも使える。

 それがこの、《守護聖盾》。

 三つの盾をシスターを阻むように、全て前方へ並べる。《白雪之剣》も構えて万全の体制を整える。

 上からくる《武御雷神》は《天衣無縫》で。

 シスターから放たれるであろう《吹雪之剣》はこちらも《白雪之剣》で。

 予期せぬ攻撃に対しては《守護聖盾》で。

 三段構えの防御態勢を整え、深呼吸する。

 世界のスローモーションな動きが元に戻る。

 《明鏡止水》が解けたらしい。

 シスターと視線が交叉する。


 ――――来る!


 シスターを注視し、全ての集中力を全身に注ぐ。


 《一片氷心》――イッペンヒョウシン――


 《明鏡止水》――メイキョウシスイ――


 シスターと全く同時。

 世界はスローモーションになり、私とシスターだけが停滞した世界で通常の速さで動く。


 《八咫之鏡》――ヤタノカガミ――


 シスターは未知の異能力を発動する。

 私の足元に空を反射するような、透明な鏡が具現化する。

「……ッ!?」

 直感的に跳躍して翼を形態化し、鏡に触れないように回避しながら《秋霜烈日》の炎のバリアを空中でドーム状に展開し、自分自身を覆い守る。盾の位置を急いで修正し、シスターを阻むように三つ並べる。

 それから、シスターから視線を外さないよう注視する。

「これ……は!?」

 シスターから私へ吹雪が吹き、そして何故か“下”から勢いよく吹雪が吹き溢れて私の炎のバリアに食らいついてくる。

 《八咫之鏡》の方へ急いで視線を戻すと、《八咫之鏡》は鏡面部分が淡く光り輝いていた。その輝きの部分を更に注視すると、シスターの吹雪を“反射”して私の方へ軌道を修正していた。

 一瞬、その光景が理解できない。けど、数秒遅れて事態を飲み込む。

「反射、の、異能力……っ!?」

 動揺のあまり心臓の鼓動が激しくなるのを感じる。

 シスターも持っていた! 無効化ではなく反射の異能力。

 ということは――――


「終わりよ」


 《武御雷神》――タケミカヅチ――


 《天衣無縫》――テンイムホウ――


 雷を空から落として地面で“反射”する二回攻撃!?


 水の矢はシスターへ注意を引き付けさせる為の囮だった……っ!?

 もはや思考の余地はなく身体が勝手に動いていた。

 身体は勝手に動き《天衣無縫》を発動。

 空から白き雷が落ちてくる。

「――――ッ!」

 唇を強く噛みながら活路を見出すべく必死に《八咫之鏡》を見据える。

 《武御雷神》は空から私をすり抜けて、私の頭が追い付かないまま一片の情け容赦なく《八咫之鏡》へ落雷し光り輝く。

 鼓膜も視界も白い雷の光と音で馬鹿になって麻痺している。

 けど今度は下から雷が上へ、私へ向かって来る!

 それだけが、それだけが分かっている状況!


 《天衣無縫》――テンイムホウ――


 《天衣無縫》を連続で発動しようとするも、何故か不発に終わる。

 な、なんで!?

 同時ではなく連続、交互であれば発動できる筈なのに!?

 頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。


 ――――死。


 ――――ぬの? 私、ここで。


 地面に展開された《八咫之鏡》の方向を呆然と見据えることしかできない。


(同時じゃなくても、《明鏡止水》発動中は同じ能力でも連続、交互でも発動できないよセリカ。《明鏡止水》発動中は同時と同じ扱いなの。《白雪之剣》で無効化して!)

 そんなの知らないよ!?


 小さな私の声が聞こえると同時、地面が白く輝き雷が空へ落ちていく!

「はぁぁああああッッッ!」

 身体が勝手に動いていた!

 雷の速さなんて計算しているような余裕はない。


「させない」

 

 《疾風迅雷》――シップウジンライ――


 目にも止まらない速さで三日月の形をした何かが空中を駆け抜けていき、気が付けば私の両手から鮮血が噴き出していた。

「なっ――――」

 シスターは回し蹴りのような動作を完了させており、その脚からスノーホワイトジェネシスが漏れていた。


「切断に特化した鎌鼬の異能力よ。Fランクだからこそ、Fランクの怖さも弱さも分かる。《白雪之剣》無くしてあなたに勝ち目はない」


 《武御雷神》の轟音が酷すぎてシスターの言葉は耳に入ってこない。

 けれど咄嗟に身体が動いていた。

 無我夢中で《守護聖盾》の三つの盾を地面の方へ重ねるように向ける!

「――――ッ!?」

 バリバリバリと物凄い音を立てて一枚目の盾が《武御雷神》にぶつかり、一瞬で盾は弾け飛んで二枚目に衝突。

 二枚目も一秒も経たないまま雷に食い破られ粉々に砕け散り、三つ目に衝突。

 三つ目の盾は《武御雷神》を耐え凌ぐも、全てを食い破らんとする雷の轟音で耳が馬鹿になる!

 雷は眩しくて真っすぐに注視することもできず、けど私はもう一度異能力を発動する!


 《天衣無縫》――テンイムホウ――


 ――――不発。


 まだ《明鏡止水》は解除されない。

 自分の意志で解除する方法も分からない。

 普段ならできるのかもしれないけど、もう頭がパンクしそうで何も考えられない。

 《明鏡止水》発動中に同じ能力を発動できないなら、《守護聖盾》を再展開することもできないということ。

 なら、この盾が破られれば私はもう――――


 ――――バリン。


 最後の盾が割れる絶望の音が轟音と共に虚空へ鳴り響いた。


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