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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第10話 Fランク VS Fランク④【白雪セリカ視点】

 私はシスターを目指して大地を蹴り、金のレイピアを構えて突進する。


 《吹雪之剣》――フブキノツルギ――


 シスターは再び氷の剣を具現化し、シスターの纏うスノーホワイトジェネシスが冷気を帯び、吹雪のように強い突風で私の進行を阻害する。

 金のレイピアを真っすぐに構え直し、シスターのジェネシスを削りながら、確実に歩を進める。

「くっ――――」


 《八寒地獄》――ハッカンジゴク――


 シスターが何らかの異能力を発動する。

 吹雪の気温が急に低下し、寒すぎて思わず熱さを錯覚するほどの冷気となる。

 ドライアイスに直接触れたような凍てつく肌の痛みと、呼吸とともに肺と喉すら凍らせるほどの寒さと痛みに、涙がにじむ。その涙もすぐに凍ってしまう。手がレイピアを握っている感覚すらも淡くなり、地面が凍って転びそうになる。


 《秋霜烈日》――シュウソウレツジツ――


 私も対抗して異能力を発動する。

 私のスノーホワイトジェネシスが炎のように燃え始める。

 対SSS専用のもう一つの異能力。

 ジェネシスを熱を帯びさせる異能力。

 どんな対象もすり抜ける効果を持つこの異能力に、本来何の殺傷能力も無い。

 けれどSSSのジェットブラックジェネシスと、Fランクの白いジェネシスには干渉することができる。

 私が強く念じれば、SSSとFランクのジェノサイダーのみ、焼き殺すことさえ可能なシロモノ。でも、今回はそんなことには使わない。

 初めて使う異能力の筈なのに、手足を動かすように自然に炎を操れている自分に驚く。

 白い炎が吹雪を燃やし、暖かく身体に正しく血が通うのを感じる。

 凍った床の雪氷も解け、私は全速力で吹雪を相殺しながら進む。


 ――――間合いだ。


 この距離なら届く! 金のレイピアで直接突き刺してジェネシスを削り取る!


 シスターは苦し気な表情を浮かべ、剣を投げ捨てると両手を空へ構える。


 《一片氷心》――イッペンヒョウシン――


 ――――《武御雷神》が来る!


 二度食らえば流石に即死は免れない。

 マザーの時《起死回生》は発動したけど、シスターの時に発動する保証はない。

 西園寺要という一人の人間に殺されたことになるのか、そうでないのかの指標が判らないからだ。

「ここで全ジェネシスを使い果たしてもいい……っ! 勝つ、絶対に!」


 命を、振り絞れ……!


 《明鏡止水》――メイキョウシスイ――


 空を注視する。

 回避不可能な異能力。“受ける”しか選択肢がない。

 無効化の《白雪之剣》に持ち替える暇もない。決定的な隙になる。

 ここでシスター目掛けて突っ込めば雷の方が早い。死ぬだけだろう。

 歯がゆい心を抑え、私は無の境地で空を見据えた。

 集中力を増加させても、シスターもその条件は同じ。

 落雷の瞬間を、見極めるんだ……。

 確実に私の下に降ってくることが分かるなら、タイミングを合わせることは絶対にできる筈だ!

 集中しろ、集中するんだ……。

「…………」

「…………」

 私とシスターしかいない世界。

 いつの間にか吹雪はやんでいた。

 まるで時が止まったかのような一瞬の静寂。

 そして――――


 《天衣無縫》――テンイムホウ――

 《武御雷神》――タケミカヅチ――


 ――――轟音。

 耳をつんざくような轟音と、暴力的な光の嵐。

 鼓膜と視力を一瞬で焼き尽くす雷が、今度は私の身体を“すり抜け”て全てを焼き尽くす。

 白く透明な衣は私を三秒間だけ包み込んで消滅する。

 《天衣無縫》は、三秒間だけ自分自身をすり抜けさせる異能力。

 必中必殺の異能力、《武御雷神》。《天衣無縫》のすり抜けで何とか二撃目は凌ぐことができた……。

 《天衣無縫》はジェネシスの消耗が激しいのであまり使いたくない異能力の一つだけど、本来回避不可能な《武御雷神》を回避するにはこの方法しか、ない。

「……っ」

 回避に成功し、少しだけ足元がふらついて眠くなる。

 どうやら、ジェネシスを使い過ぎたらしい……。

「くっ……」

 シスターも苦し気に私を睨んでいる。

 シスターから溢れるジェネシスもさっきの半分以下にまで減少していた。

「……お互い、ジェネシス切れが近いみたいだね」

「……はぁ、はぁ」

 シスターは息切れしていた。

 明らかに殺し合いの経験値、場数が足りていない。私よりも疲労の色が濃い。身体能力強化が、私より弱いことが分かる。翼を形態化した時も片翼だった。シスターはマザーよりもジェネシスの才能が無い。

 でも、だからこそ必死だ。マザーより心に余裕がない分、怖さがある。


 ――――ここだ。


 勝機だと無意識に確信した私は、シスターの間合いに踏み込み、金のレイピアをシスターの心臓目掛けて突き刺すべく地面を蹴る!

 捨て身の一撃で、剣先が僅かにシスターの胸をすり抜けて貫通する!

 確実な手応え。このまま一気に押し込んでジェネシスを完全にそぎ落とす!

「……っ!」

「―――――ッ!」

 一瞬の視線の交叉。

 シスターはジェネシス切れが怖くないのか、強気にも更に異能力を発動してくる。


 《吹雪之剣》――フブキノツルギ――


 シスターの身体から冷気のジェネシスが溢れんばかりに吹き溢れる。


 《八寒地獄》――ハッカンジゴク――


 《永久凍土》――エイキュウトウド――


 シスターを軸に、円状に床が凍っていく。

 床だけじゃない。それどころか、空間ごと凍っているようにも見える。

 猛烈な吹雪に勢いよく吹っ飛ばされ、急いで翼を形態化してバランスを取り、地面に着地しながらシスターから距離を取る。


 《秋霜烈日》――シュウソウレツジツ――


 ジェネシスを炎に変換する異能力を再度発動し、自分を円状に覆う結界のように展開する。

 あれをまともに食らえば一瞬で凍死してしまう。

「はああああああああああッッッ!」

 シスターは悲鳴にも似た苦悶の叫びを上げながら、自分のジェネシスを巻き散らせて全てを凍らせようとしている。

 ……自殺行為だ。

 有限のジェネシスをこんな風に使えば、すぐに枯渇する。

 シスターがジェネシス枯渇で睡眠周期に入るのを待つだけで私は勝てる。

「…………っ!」

 違う。そうじゃない! そんな甘い相手じゃない。

 シスターは例えここでジェネシスを使い果たしてでも私を殺すつもりなんだ。

 “刺し違えてでも私を殺す”という言葉に偽りはなかった。

 ならば……“次”があると考えるべき。

 ゆらりと、シスターの手にある氷の剣が溶けて水となる。

 吹雪の中を漂うように浮かぶ水の剣は、吹雪の中心地点で止まると、吹雪とそのジェネシスを収斂し始める。ゆっくりと、少しずつ剣は巨大化し、まるで一本の矢のような形となる。

「……なるほどね」

 水にも氷にもなれる剣、か。

 だからさっき、私の左腕を一方的に切断できた。すり抜けたように見えたのは、水になってから氷に戻っただけだったんだ。

 FランクのジェネシスならFランクのジェネシスをすり抜けるとは考えにくいから。

「……次はもう、避けさせない」

 シスターは意志のある強い眼差しで私を見据え、両手を上へ構える。

 《武御雷神》の構えだ。

「……っ」

 吹雪のせいで、自由に動けない。

 しかも、少しでも気を抜けば炎のバリアすらも凍らせてきそうな勢いがある。

 吹雪の温度を下げる《八寒地獄》。吹雪の勢いを強化して空間ごとジェネシスで全てを凍らせる《永久凍土》。こんな凶悪な氷の異能力を複合されたら、近づくことすらできない。

……私の動きは封じられてしまった。

「次は、《天衣無縫》が解除された瞬間を狙うわ。二撃同時の必中攻撃」

 空から雷。空中から水の矢。

 そしておそらくこの水の矢は、私と接触した瞬間に氷へと変わるのだと推測できる。

 受けようが避けようが、必ずダメージは負うことになる。

「これがあなたの限界なのよ」

「ねえ、シスター」

「何?」

「あなたには私の未来が見えているの?」

「……どういう、意味?」

「《未来予知》。一番警戒していた異能力なのに、一度も使ってこないから」

「あなたには、関係のない話よ」

「未来を見せてくれるって、言ったよね? どうせ絶望しかない未来に価値なんて無いって」

「……そんなこと、忘れたわ」

「なら、もう一度改めて約束してほしい。もし、私があなたに勝ったら、私に未来を見せて。それから、あなたが“戦う理由”を私に教えて」

「……何のつもり?」

「あなたにとって、“死の母”って何? それが私にはどうしても見えてこない。私を殺して、あなたはどうするの? どうしたいの? その答えが、あなたが見えている未来に関係があるんじゃないかって、そう思って」

「……」

「恐らく次がお互いにとって最後の攻撃になる。勝敗が決まる前に、これだけは約束しておきたいんだ」

「約束したところで、何にもならないのに」

「それを決めるのは私だよ。それに、勝つ自信があるのなら、約束できるでしょ?」

「……好きにしなさい」

「約束、したからね?」

 私は念押しし、全てのジェネシスを使い切る覚悟を決める。

 シスターとの戦いで使い果たせば、アルファとの闘いは厳しくなる。

 でも、次のシスターの攻撃は、手を抜けば確実に死ぬ。

 《快刀乱麻》を再発動して銀のレイピアを左手に戻せば、異能力を反射してシスターを殺し勝つこともできる。でも、それはしない。

 シスターを殺すことは、私にとっては負けと変わらない。

 何の根拠も無い、意味不明な確信だけど。

 マザーを殺した時のような思いは、もうしたくないから。

 Gランクという未来を目指し、私は“その先”に進むんだ。


「「――――あなたには、絶対に負けない」」


 私とシスターの言葉が重なり、白と白のジェネシスが交差した。


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