第1話 殺人カリキュラム⑬
『うわぁぁ、一気に良い絵になったじゃん。凄いねヒコ助。撮影向いてるんじゃない?』
『殺すことにしか興味がなかったが、こういうのもアリだな。刺す感触、抉る感触、ニオイなんかの体感で愉しむ以外にも、こういう精神に作用する楽しみ方もあるんだなァ。リリーはプラトニック殺人手法とか名付けてたみてーだが』
『確かにこれは完全にリリーちゃんの楽しみ方だねぇ。俺も好きだよ、こういうの。クク、クククク……やべ、興奮してきた。まぁ、流石に勃起まではしないけどさ。ケケ』
『や、約束は果たした。だから、いいだろ? 助けてくれ…………』
『うん、ありがとう。本当に良い絵が撮れたよ。この動画を食事会で流すのが今から楽しみだ。君には感謝してる。ありがとう、ありがとう』
骸骨の柔らかく、朗らかな声が聞こえる。
『でもま、渡辺テンテーを殺すことはもう確定してるんだけどね? ポチっとなァァ!』
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼亜ッッッッ!!』
『ああ、お前のことは助けてやるよ。全てから解放してやる。救ってやるって、な? 約束はちゃんと守っただろ? 死ねば全てから解放される。俺たちに感謝しろ? な? あひ、ひひ、あひゃひゃひゃひゃひゃッッッ! イくッッ、天国にイくイくイくゥゥッッッ!』
『安藤くん見てる? 見てる? 渡辺テンテー天国イっちゃうって! ケケ、ケケケケケケケケッッッ!』
渡辺の断末魔と、それを嘲笑う、二つの狂気の哄笑。
――――プツン。画面は暗転した。
何事もなかったかのように、リリーが笑顔でこちらにウインクする。
「とまあ、死のペナルティはこんな感じなので、死ぬ気で頑張ってくださーい。以上、殺人カリキュラム、オリエンテーションでした。あ、因みに、渡辺先生の死体はこのビデオを見ながら、スタッフが美味しくいただきました。焼き肉にすると、とても美味しいんですよね。ヒキガエル君料理上手。それでは、皆さん。是非是非、殺人鬼として成長してくださいね? 応援してます! それでは、これから出席を取りますから、名前を呼ばれた生徒から前に来てください。ジェネシスの能力を、透さんが分けてくれるってさ。やったね!」
リリーは朗らかに言うが、生徒の何人かは沈痛な面持ちですすり泣いていた。
特に、安藤に限っては呆然とした顔で生気の無い空ろな顔で壇上を見ていた。
「ええ、とまあ、こんな感じです。花子とリリーが進行してくれたおかげで、僕はあとは纏めるだけで済みそうです。優秀な仲間を持つことができて良かった」
透は満足そうに頷くと、どこから調達したのか、名簿を開く。
「さて……。では、1年A組相沢優くん。前へ、僕の所へ来てください。来ない場合はリリーさんが可愛がってくれます。選びなさい。自らの未来を」
透が名前を呼ぶと、相沢と呼ばれた生徒が「ひっ」と悲鳴を上げ、挙動不審に壇上へ昇っていく。両足はガクガクと震え、真っ直ぐに歩けていない。
パチン。透の指が鳴る。
暗黒のジェネシスが透を覆い、透は相沢の頭に触れる。
《狂人育成》――キョウジンイクセイ――
暗黒のジェネシスが相沢を犯すかのように、口の中に入り、相沢が苦悶の悲鳴を上げる。
「次。飯田早苗さん」
「っ……」
飯田と呼ばれた女生徒が壇上へ昇っていく。
異様な光景だった。殺人鬼が校長を殺し、教師達をミナゴロシにし、スナッフビデオを上映し、生徒の出欠を取り、それに従う生徒……。
目眩がする。
――――コレハホントウニ、ゲンジツカ?