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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第9話 禁断のタナトス⑰【白雪セリカ視点】

「白い怪物……」

 ぼそりと、マザーは私を見据えながら呟く。

「?」

「透様があなたに向かって言っていたこの言葉の本当の意味が、ようやく分かりました。《思考盗撮》しても透様の精神の片鱗すら私には理解することはできなかったですが、あの方は全てを見通していたんですね。だからあの時、あなたを殺害することに強く拘った」

「どういう、意味?」

「透様は人の心の中に深淵を見出し、その闇を引きずり出し、“人を怪物”にする。ですが、セリカ様。あなたは怪物の中に希望を見出し、その光を暴き出して、“怪物を人間”にする。恐ろしいことに、あなたにはそれができる。できてしまう。陽の怪物、とでも言えばいいのか。既存の概念であなたを言語化することは不可能かもしれません。恐ろしい。恐ろしいですね、あなたは。透様があなたを恐れていた本当の意味が、やっと分かりました……。恐らく、SSSにしか分からないのかもしれませんね……。あなたという存在。あなたというFランクの怖さは」

 マザーは腕を組みながら、私から距離を取るべく後ずさる。

 さっきの一過性の怒りは、自分の恐怖を紛らわせるためなんだろう。

 自分とは思えないほど、静かに、冷静に、私はマザーを分析していた。

「私を“怖い”と思うのなら、あなたはきっと、初めて“命の本質”に触れたんだよ」

「……命の、本質?」

「あなたは今まで、死こそが絶対だと信じて数多くの人たちを殺してきた。人を殺す過程で、あなたは恐怖なんて感じなかった筈。でも、本来、人を殺すのは恐ろしいこと。生命を否定するということは、相手の今までの人生、価値観、相手を大切に思う人達の気持ち、これから起こりうる未来、その全てを自分の手で刈り取ってしまうということだから。あなたが私を恐れるのなら、あなたにとって初めて、私を通して、殺人の怖さを味わっているんだと思う。殺人に対する恐怖を感じない為には、相手を殺す為の絶対的な正当化が必要。その正当化が揺らいだ時、あなたは自分の信念どころか、漆黒のジェネシスすら失うことになる。さあ、私を殺してみなよ、マザー。あなたが“今まで”殺めてきた人たちと同じように、私を殺してみなよ!」

 私は自分の胸部を晒すように、両腕を広げる。

「……認めざるを得ないようですね」

「負けを、認めてくれるの?」

「いいえ、認めるわけにはいきません。私が生まれた意味、理由。その全てをあなたなどに否定させやしない」

 マザーは両手にジェットブラックジェネシスの全てを、収斂させる。

「《時間停止》に次ぐ、私の切り札の異能力、二つ目。これを全ジェネシスを振り絞り、解放します。これを使えば、私はジェネシス切れとなることは確実でしょう。その時は、お望み通りシスターを出してあげます。私という存在の象徴とも言えるこの異能力を捻じ伏せることができたら、あなたを認めてあげます。本当は、地獄の苦しみを具現化する異能力を小出しで使うつもりでしたが、あなたの《快刀乱麻》を見て、無駄だと悟りました。でも、この異能力を食らえば、あなたは必ず自死する。そう、断言します。この力の前では、SSSも、Fランクも、等しく無価値。そして、あなたの善性もなんの役にも立たない。全ての存在は平等に孤独なのです。抗うことができない、死が救いだという真実を、味わって頂きます」

「……いいよ、分かった。おいでマザー。受け止めてあげる」

 真っすぐに、私はマザーを見据える。

 マザーから妖しい雰囲気はいつの間にか消えていて、私を倒すという強い決意だけが瞳に宿っていた。


「―――いきます。いつでも、好きな時に、自害してください。それだけが、あなたの救いです」


 マザーの両手に収斂されたジェットブラックジェネシスの塊が、勢いよく放出される。


 《唯一無二》――ユイイツムニ――


 放たれた異能力は、空間を黒く塗りつぶしていく。

 一体何――――


「――――っ!?」


 いきなり、両肩を背中から“何か”に捕まれて、思考が遮断される。

 それは感覚的には人間の“手”に似ているのに、底冷えするような悍ましさ!

 なんで、《気配察知》が発動しないの!?

 それどころか、私のスノーホワイトジェネシスが完全に霧散してしまう!

 《飛翔蒼天》の翼も消滅、《白雪之剣》も消滅、ジェネシスが……消え、てしまう……っ。

 《堕天聖女》を予備動作なく食らったような感覚。

 右目の視界が黒く塗りつぶされていく。

 これは、まるで、リリーの《五感奪取》で視界を奪われたような感覚。

 私はかろうじて左目でマザーの方を見る。

目が合ったマザーは、何故か悲しそうな瞳で遠くを見るような目をしていた。


 そして、すぐに左目も見えなくなった。


 ――――私の意識は、闇の中へ溶けていった。


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