第1話 殺人カリキュラム⑪
『少し黙れ、骸骨。リリーに少しアドバイスしてもらったんだよ』
『…………へぇ。じゃ黙ってる。ヒコ助君のご活躍に期待してる。ズズ、ズズズ……このカフェオレうめぇ。拷問殺人中に甘い物飲むの最高だねぇ。これからは常備しよっと』
『た、た、た、助け、助けて、くれ……』
『よし、助けてやる。だが条件がある。お前、かわいがってる生徒とか、一人ぐれぇはいんだろ。そいつにメッセージを送れ。今、ここでだ』
『め、メッセージ……何を、何を言えば……』
『なんでもいい。とにかく、お前が一番ひいきにしてる生徒だ。恐らく、さっき骸骨が挙げた四人の中にいんだろ。リリーはそういう趣旨でメンツを調査して、あらかじめ用意したと言っていたからな』
『…………こ、安藤。お前は、馬鹿で、どうしようもない、問題児だが、俺は、お前を、買ってた。問題ばかり起こして、頭痛の種だった、が、サッカー部で部活をやってる、お前は、生き生きして、た。親が離婚して、すさんでいたのだろう、と思う。いじめは許されない、こと、だが、お前は……お前は……違うんだ。くだらない非行に走らず、サッカーしているお前が、本物だったと、俺は今でも、思ってる』
『あーー、そういう? そういうアレ? 不良少年と体育教師の涙のドキュメンタリー的な?』
骸骨の小馬鹿にするような、シラケきった声が響く。
『や、約束は果たした。俺を、助けて、助けてくれ……』
『いーや。まだ駄目だ』
渡辺の懇願を、しかしヒコ助は一蹴する。
『な、なんでだよ!? 俺はちゃんと言った!?』
『おいおいおいおいおい、お前よぉ、誰に意見してんだ? あ? お前の生殺与奪握ってんのは俺。立場理解しろ? な? 次はねぇぞ? な?』
『……っ』
『よし、んじゃ指名が入ったんでその安藤君をぶち殺しに行くぞ』
『な、な、何を、何を言っている……?』
『はぁ? 命に見合うのは命しかねぇだろ。テメェが大事に思ってる命と、テメェの命を交換する。当たり前のことだ』
『馬鹿な!? そんな馬鹿なことがあるか!?』
『テメェは生徒を犠牲にしたことを一生引きずって生きていくんだ。教師がかわいがっている教え子を犠牲に、自分だけは生き残る。そういうシチュエーションだ』
『おおおおお、いいね、いい感じだね。オナヒコのくせにやるじゃん』
『るっせーよ。リリーの入れ知恵だ。まぁ、俺もこういうシチュは嫌いじゃない』
『嫌いじゃない……とか言いながらマイサン凄いことになってますけど?? さっき出したばっかだよね?』
『まだまだイくぜ、俺は』
『こ、安藤を殺すのは、や、やめろ。俺はそんなつもりで安藤にメッセージを送った訳じゃない。俺は、生徒を見殺しにするぐらいなら…………』
『ぐらいなら?』
おもしろがるように、ヒコ助がオウム返しに反問する。渡辺は押し黙る。渡辺の苦悶の表情が痛々しい。唇を噛み、青ざめた顔で目をギラつかせ、ぜぇぜぇと息を切らし、黙考している。……内心の葛藤がこちらまで伝わってくる。緊迫感のある収録だ。息をしていることすら忘れてしまう。
『やれ』
『命令すんなってーの。まあやるけど』
『ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!』
再び、恐怖と悲痛の叫び。渡辺は電気ショックを浴び、瞳孔を開いてガクガクガクと大きく震え、だらんと舌を唇から垂れ流す。どうやら骸骨が電圧を入れるスイッチをいじっているらしい。カメラには渡辺しか映っていない為、詳細は分からないが……。
『生徒を見殺しにするぐらいなら…………なんだっけか?』
嘲笑うかのような、ヒコ助の声。死の苦痛と恐怖を浴びせ、生徒を生贄にすれば助けるという、悪魔のささやき。渡辺の葛藤と苦悶を愉悦し、どこまでも命と尊厳を弄ぶ殺人鬼の狂気がそこにあった。
渡辺は死の叫びを浴びながら、必死に耐えているが……どうなることか。