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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第8話 THE FOOL ③【赤染アンリ視点】


 《千変万化》――センペンバンカ――


 私は即座に新たな異能を発動する。

 床に溜まった血だまりと、私に左腕の断面から噴き出す血が、網状に、雪の結晶のようにヒコ助から私を守るように具現化させ、固定する。

《煉獄愛巣》――レンゴクアイス――

 血液の形を《千変万化》で操った後、《煉獄愛巣》で固定し、個体化する。

「はぁぁぁ――――」

 ただひたすらに集中し、血に私のマゼンタジェネシスを混ぜながら“身体能力強化”と同じ要領で強化していく。血液は身体ではないと思いがちだが、身体能力強化は自身に巡る血液に対しても有効だ。

 私の異能はそのほぼ全てが人間の“血液”を操る異能力。

 だが、どのみちこの傷では私は生き残れない。

 確実に出血多量で死ぬ。だが、犬死はしない。こいつだけは何としても殺す。

 この私の、全てのプライドに賭けて。

「らああああああああああああああああああああああッッッ!」

 馬鹿の一つ覚えのように突進を繰り返すヒコ助が奇声をあげながら突っ込んでくる。

 私の血とヒコ助、どちらが勝つかは正直未知数。

 私は《煉獄愛巣》を突破されてもいいよう、素早く背中の腕で地面を蹴り上げ、跳躍しながら形態化を“腕”から“翼”に切り替える。今の私では形態化を腕と翼両方同時に使うことはできない。練習すればできるのかもしれないけど、今は集中力がもたない。

「…………」

 冷静に、ただただ冷静に、ヒコ助の背後を取りながらヤツを観察し思考する。思考を止めて直感と本能のままに動くなんてことばかりしていたけど、本来は私は考えながら活路を見出すタイプ。少しだけ余裕が生まれたのだと思えるが……。

 バリン! とガラスが砕け散るような音と空気を裂くような風切り音が雷鳴のように轟く。

「化け物ね」

 ポツリと零れる言葉。

 雪結晶の形に具現化した血の盾、《煉獄愛巣》にヒコ助が衝突し、1秒程度の硬直の後、《血の盾》が砕け散る音が響き、ヒコ助が壁に身体ごとのめり込んでいく。

 砕け散った《血の盾》は即座に《千変万化》で液体の状態に戻し、《朱色満月》の赤い満月に吸い込ませる。一滴たりとも無駄にはできない。

 この攻撃に関しては、もはや私はヤツの射程圏外なので問題ない。

 パワーでは勝てないが、スピードなら断然私の方が上だということは証明できた。

 ただ、強化に強化を重ねた《血の盾》でもヤツの動きを1秒止めただけで粉々にされてしまった。あまり役に立ちそうにない。

 まだ使っていない異能は残り“一つ”。

 リターンが最高にしてリスク最悪の異能力だが、最後の異能は相手から血を奪い飲まなければ発動しない近距離制限の異能力。

 持久戦ということであれば避け続け、ヤツに着実にダメージを蓄積させ続けるだけでいいが、左腕を持っていかれたのは大きい。血を流し過ぎている。この出血量では、せいぜいあと5分以内にケリをつけなけば私の負けになると考えた方が良い。

 《曼珠沙華》でヤツを殺せる保証が無く、且つ私が力尽きるまで5分未満である以上、直接的な攻撃でこいつを仕留めることも検討しておく必要がある。

「……忌々しいわね」

 せめて、《千変万化》と《煉獄愛巣》がもう少し“使える”異能だったら――――


 《電光石火》――デンコウセッカ――


 思考の途中、何かが物凄い勢いで左頬をかすめて背後に跳んでいった。

 遅れて、勢いよく左頬から血しぶきが飛び出し、轟音が鳴り響く。

 背後を振り返ると、天井にもう一つ風穴が空いていた。

 痛みを感じる暇もない!

 状況を分析することをやめ、私は直感のまま“翼”から“腕”に形態化を切り替え、四本のジェネシスの腕で蜘蛛のように地面を蹴りながらできるだけさっきいた場所より遠くに移動する。


 《電光石火》――デンコウセッカ――


 私がさっきまでいた場所の背後の天井に、風穴が空く。

「器用だなテメェ、いばら姫でもそんな風に“腕”は使わねえよ」

 ヒコ助は野球選手のピッチャーのように、投球の構えで思い切り石を握りながら私を見据えていた。こいつ、壁の外に出てる間に石を拾っていたのか……。

「《電光石火》。投球力を極限まで強化する異能力……」

 思わず呆然と呟く。勝手にこいつは近距離でしか戦えないと思い込んでいた。

 ヒコ助の二撃目。“翼”から“腕”に切り替える判断が一瞬でも遅れていたら即死だった。一撃目は初撃だからヒコ助が私との遠近感が掴めず外しただけ。ヤツの凡ミスで初撃を外さなければ私は直撃して本来即死している攻撃だった……っ。

「アタリだ。ついでに言うと石も強化してくれる。突進しても捉え切れねえし、テメェは速い。つまりは中距離、遠距離でその身体をミンチにしなきゃならねえから、戦い方を変えたって訳だ。まぁ、俺の《電光石火》の効力が分かったところで意味なんてねぇけどなァァアアア!」


 《電光石火》――デンコウセッカ――


 考えながら戦う? さっきよりは余裕ができた? 馬鹿か私は!?

 ここは死地! 相手は都合よくこちらの準備を待ったりはしないし、都合よく近距離でしか戦わないなんてこともしない!

「中距離戦に切り替わった今なら、この異能の真価を少しは発揮できそうね!」

 《千変万化》――センペンバンカ――

 《朱色満月》から血液を半分呼び出し、”液体のまま”ジェネシスと混ぜ、身体能力強化をしながら身に纏う。

 《朱色満月》は血液を保存し、呼び出す為の異能力。この異能を発動していないと私は血液を操作することすらできない。

 《千変万化》は血液を液体として自由に形を自分のイメージで変えられる異能力。

 《煉獄愛巣》は血液を結晶化させる異能力。《千変万化》で形を変えた後に、《煉獄愛巣》で個体として固定する。

 血液という液体を保存、変化、固定する三段構えの異能力。

 そして、この三段構えには《曼珠沙華》という“続き”があるが、今はまずこの石が先!

「いけるかしら、ねっ!?」

 ジェネシスで作った腕に液体のまま血を混ぜて融合し、血の腕でヤツの投げた石の弾丸を受け止め――――


――――きれない!


 石の弾丸は私の血の腕を貫こうとするが、これでいい!

 私の腕と石の弾丸が接触した瞬間を狙い、私は異能を発動する。

 《煉獄愛巣》――レンゴクアイス――

 血液と、私のジェネシスの腕が混ざった液体のような腕は、瞬間的に液体ではなく、個体となる。石の弾丸は、化石のように私の腕の中で完全に止まる。

 固体化したままだとのっそりとしか動けないので、

 《千変万化》――センペンバンカ――

 腕を液体化し、石を重力のまま下へ流し、落とす。

 コロン、とマヌケな音を立てて私を殺そうとしたいけない石は床に転がっていった。

「さっきは“使えない”なんて思っちゃったけど、使い方次第では無限の可能性がありそうね」

 血液を操作し、液体化と固定化を交互に繰り返すことによって、どんな戦い方だってできる。近距離、中距離、遠距離、攻撃、防御、回避、どんな状況にも対応できそうな気がする。

「ひょっとしたら、この出血も止められるのかしら?」

 ふと疑問に思い、左腕の断面から溢れ出す血を《煉獄愛巣》で個体化できるか試してみた。

「……行けたわね」

 ちょっと見た目はグロいけど、かさぶたのように左腕の断面の血が固まって止まった。

「これで出血多量で死ぬことはなくなったかな。時間的な余裕はできたと思う」

「…………」

 ヒコ助は口をあんぐり開けてこちらを見ていた。

「何かしら? 私の顔に何かついてる?」

「どうなってんだテメェ、その異能は」

「ボディビルダーの三倍ぐらい筋肉モリモリの人に言われたくないんだけど? ユーチューブとかに動画上げたら再生数凄いことになりそう」

 クスクス笑いながら、私は一つだけ“良いこと”を思いついてしまった。いたずらっ子のようなこの高揚した気持ちは、退屈しか感じない私にとってとても希少な感情だった。

「さて……。思いついてしまったからには、検証しないとね」

 その思いつきとは、とても単純で簡単なことだった。


 ――――もしかして、私は殺害対象の体内の血液をも操ることができるのだろうか? と。


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